椿組2016年春公演『三太おじさんの家』 稽古場訪問&インタビュー
出演 外波山文明さん
作・演出 梨澤慧以子さん

外波山 文明(とばやま ぶんめい)

1947年木曽出身。69歳。20歳から演劇を始め現在「椿組」を主宰。役者、プロデューサー、演出も。
全国放浪やシルクロードなどで街頭劇や野外劇、テント芝居を仕掛ける。中上健次、立松和平らに脚本依頼して上演も。毎年夏の花園神社野外劇は31年目になる。2013年は中上健次・作「かなかぬち」を花園神社と南木曽公演で上演し話題となった。
最近の出演映画に「エベレスト~神々の山嶺~」「テルマエ・ロマエ」「凶悪」「甥の一生」「WHO IS THAT MAN?」「名無しの十字架」「必死剣・鳥刺し」「太平洋の奇跡」など。テレビではアニメの声や「変身インタビューアーの憂鬱」「相棒」2時間ドラマの出演も多い。CM「伊右衛門」他。
第3回「花園賞」第50回「紀伊國屋演劇賞・特別賞」受賞。

梨澤 慧以子(なしざわ えいこ)

1986年1月生まれ。劇団「張ち切れパンダ」主宰、同劇団全公演の作・演出を手がける。これまで劇団外での作・演出作品として今井事務所番外公演「お父さんは疲れた」。俳優としても活動しており、主な出演作品は下記のとおり。

<舞台> 「星屑の町~新宿歌舞伎町編~」(脚本・演出 水谷龍二)、柿喰う客「露出狂」(脚本・演出 中屋敷法人)、モダンスイマーズ「トワイライツ」(脚本・演出 蓬莱竜太)、BS-TBSプロデュース「ポテチ」(原作 伊坂幸太郎/脚本・演出 蓬莱竜太)、第一回お茶の間サミット「世襲戦隊カゾクマン」(脚本・演出 田村孝裕)

<CM>  カルビー「堅あげポテト」

<テレビ> NHK「カンゴロンゴ」、WOWOW「六時間後に君は死ぬ」

  

今回、梨澤さんに作・演出を依頼された理由をお聞かせください。

外波山 9年ほど前に、『星屑の町』という舞台で梨澤さんと共演したのが最初の出会いです。その後すぐに自分でも本を書き演出も始めたと聞き、「あんな若い子が!」と興味を持ちました。さらに劇団「張ち切れパンダ」を立ち上げ、その公演を観に行った人から面白いと話を聞き、ますます興味が湧いたんです。そこで僕も『じじいに幸あれ!』を観に行ったところ、これがすごく面白くて。「こんなのも書けるのか」と思いましたね。それから2本続けて見たのですが、やはりどちらも面白い。そこで椿組の劇場公演で本を書かないかともちかけました。

外波山文明さん

『三太おじさんの家』はどのように生まれた作品なのでしょう。

梨澤  私は当て書きをする作家なので、外波山さんに本を書くとなった時、まずは外波山さんにはどういう役がいちばん面白いかなと考えました。さらに今回出演してくださる役者さんのみなさんにもお会いして、この人達が何をしゃべったら面白いのかを考えているうちに、外波山さんで寂しい男の人を描けたら、いちばん面白いものが書けるのではと思ったんです。

外波山 僕自身のイメージはとても元気で、野外劇にしても日常生活にしてもいけいけのような感じでしょう。そういう男に、イメージと逆のことをやらせたらどうかなっていうことでしょうね。

梨澤  『三太おじさんの家』は、三太おじさんという男が連れあいの女性を亡くすのですが、その女性が果たして幸せだったのかということを振り返っていくというお話です。彼女の笑顔があまり思い出せない、という話になったらいいんじゃないかなと思いつつ作っています。

外波山 三太おじさんは昭和19年生まれなので、僕の小学校時代のアルバムを稽古場に持参して、みんなに見せたりしています。平成生まれの役者もいますからね。

梨澤さんは劇団「張ち切れパンダ」主宰でもありますが、椿組と外波山さんはどのような存在ですか。

梨澤慧以子さん

梨澤  最初は怖いというか、ちょっとびびりながら、お話を受けさせていただきました(笑)。2年前くらいに「椿組どうだ」と声をかけていただいたのですが、まさか椿組で作・演出をやらせていただけるとは考えてもいなかったので、最初は役者として出演する話かなと思ったほどです(笑)。怖いなと思っていたものの、実際に稽古が始まってみたらみなさんいい方ばかりだったのでほっとしました。

椿組がどのような歴史を持つ劇団かご紹介ください。

外波山 1971年に「はみだし劇場」という劇団を旗揚げし、街頭劇、野外劇やテント公演といったいわゆる地べたの芝居、地続きの芝居をやってきました。15年ほど前に「椿組」と名前を変え、劇場公演も行うようになりました。劇団員は12~13名ですが、毎回客演を招くことで新鮮な出会いがあると同時に、「この人とやると化学反応を起こして、いつもとまた違う形ができるんじゃないか」という楽しみがあります。それは作家についても同じで、うちは役者集団でほかに作・演出がいませんから、そのつど今回のように出会いを楽しんでいます。

出演されるメンバーのご紹介をお願いします。

外波山 椿組の役者を中心に、張ち切れパンダの役者さん4名も出演します。違う土俵で演じるのもいい経験になると思います。

梨澤  うちは4人しか役者がいないので、舞台によってはゲスト参加のメンバーのほうが多かったりします。それでもここまでメンバーが多いのはさすがに初めてですが、みなさん受け入れることに慣れているんでしょうね。アウェー感を感じさせない劇団です(笑)。

外波山 野外劇だと40人、50人出る芝居もありますから、排他的ではやっていけません。また、小さい役でも必要だからあるわけなので、役の大きい小さいはあまり考えず、一致団結楽しんでいます。

外波山さんが若い方に声をかけるのはなぜでしょう。

稽古風景

外波山 老舗の劇団には、70歳の役には70歳の役者が、20歳の役には20歳の役者が演じられる強みがあります。そのような老舗の年齢層の厚さは魅力ですが、芝居としては、僕は老舗よりも若い劇団のほうからもらう刺激の方が大きいです。より刺激を受ける方と一緒にやりたいと思うのは自然な流れですし、おのずと若い人に興味が向きます。今回も梨澤さんから見た70歳はどんな風に見えるのか、とても興味深いですね。

梨澤  他団体の本公演に書き下ろすのは初めての経験ですが、新しいことをさせていただいている、そして自由度の高いことをやらせていただいていると感じています。自分の劇団だと、どうしても予算や小屋のサイズなどで自由度が小さく、いかに制限された中でおもしろいものを作るかを考えるのですが、今回はそれが少ないですね。「何をやってもいいんだ」と思えるのはありがたいことです。

外波山 この作品はスタッフも椿組では常連の面々が担当します。あちこちで活躍しているプロフェッショナルなので、梨澤さんをはじめとする張ち切れパンダのみなさんは、そういう人と出会えるという面白さもあると思います。さらに「美術も照明も任せろ、振り付けだって必要になったら助けてくれるスタッフがいるから自由に書けよ」と、安心感も提供できているのではと思います。

これまで椿組がこだわってきた「土の舞台」と劇場での公演は、相反するものではなく共存できるものなのでしょうか。

外波山 最初のうちは「本家はやっぱり野外劇だよ」という思いがあったのですが、次第に変わっていきました。例えば、今回の公演会場であるザ・スズナリは小劇場の聖地のようなところですから、こういう場所で公演できる意味は役者にとっても演出家にとっても大きいです。また、野外でできないことを劇場でやってみようといった実験的な試みもできるので、今ではまったく違和感なく共存できています。

三太おじさんを演じる難しさ面白さは?

外波山 72歳の設定なのですが、ふっと振り向いたら7歳の自分が周りを走っている、あるいは35歳になったり浪人生になったりと、現在と過去が行ったり来たりします。衣装替えもしないままふっと切り替わったりするので、そこは難しさがあります。とはいえ、すべて三太おじさんという人間ですから、二役も三役もやるといった変化はありません。自分自身の生きてきた人生を振り返る「72歳の三太おじさん」がそこにきちんといれば、という思いでやっています。

この作品の演出の面白さと難しさをお聞かせください。

梨澤  難しいのは外波山さんがおっしゃったように、場面や時代がころころ変わるところですね。お客様にどれだけ違和感を抱かせつつも受け入れてもらうか、そこが悩ましいところです。一方、作られた人間性ではなく、役者さん自身の人間性がそのままあふれたら、いちばん楽しいだろうと思います。

作品の見どころと観客の方へのメッセージをお願いいたします。

外波山 三太おじさんは昭和19年生まれの72歳。その人生を垣間見て下さい。都民の皆さんのお年寄りから若い人たちまで、楽しんでいただけるお芝居になると思います。ぜひみなさんで来てください。

梨澤  30歳の私が70歳の男の人に向けて書く、昭和の世界観を知らない人間が昭和の世界を書く。それがどうなるかというのを観ていただけたらと思います。よろしくお願いします。

外波山さん&梨澤さん