日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.76 
オペラ『天守物語』全2幕 稽古場訪問&インタビュー

3月5日(土)14時開演の回ご出演
角野圭奈子さん(富姫)、中鉢聡さん(図書之助)、沢崎恵美さん(亀姫)

角野圭奈子さん、中鉢聡さん、沢崎恵美さん
角野圭奈子さん(左) 中鉢聡さん(中央) 沢崎恵美さん(右)

オペラ『天守物語』の魅力とはどういったところだと思われますか。

中鉢 まず、最初から最後まで音楽が途切れることがないというのは、オペラならではの見どころ、聴きどころだと思います。セリフだけでなく音色でも情景や心の内が表現されていて、しかも水野修孝先生のお書きになった音楽には和太鼓が用いられたりジャズの要素が入っていたりと、「なんでもあり」でありながらまとまっています。ですからオペラでは、泉鏡花の作品世界を豊かな音とともに存分に楽しんでいただけるでしょう。

担当される役柄の面白さ、あるいは難しさはどんな点でしょうか。

沢崎 私の演じる亀姫という幼い娘は、お姉様を慕い、毬をつくためだけに500何里を越えて富姫に会いに行きます。そんな一途な思いを持ったかわいらしい役を表現するのは、とても楽しみです。戦国の世に生まれ家のために死んでいく恨みや世のはかなさの中にも存在する愛というものを、いかに表現するかというのが、今回は難しいところです。

角野 富姫は「涼しい」というのがテーマだと思っています。セリフの中にも、何回も涼しいという言葉が出てくるのです。ですから富姫は『トゥーランドット』のように冷たいお姫様ではないけれど、涼しいお姫様にしなければいけないと思っています。涼しいというのは純粋ということなのですが、何も知らない無垢な子どもの「純粋」とは異なります。いろいろなことを経験して一度死んで妖怪になって、そしてさらに突きつめた「純粋」という涼しさが富姫だと思うので、そのイメージをそのまま表現できればいいなと思っています。

中鉢 図書之助は美男子という設定なので、舞台でも映画でもかっこいい男性が演じますから、そこはプレッシャーです(笑)。『天守物語』は日本オペラですが、実は『カルメン』のホセや『椿姫』のアルフレードと大差ありません。どれも設定が違うだけで、基本は「自分が暮らす世界とは違う世界にいる人に魅せられて恋をする」というお話です。ですから図書之助についても、ホセやアルフレードを演じる時と同じ気持ちでやっています。

日本オペラの魅力とは、どのようなところだと思われますか。

沢崎 日本人が日本人を演じるので、自然な体でいられることは、やはり魅力だと思います。また、伝統的な立ち振る舞い、所作の美しさ、そして衣装など、いずれも日本人であることにほっとできるような感じがあるのではないでしょうか。また、このような作品を外国で上演すると、日本のよさや美しさを表現できます。それも日本オペラの素晴らしさであり、魅力だと思います。

普段あまりオペラになじみのない人へ、楽しみ方のアドバイスをお願いいたします。

中鉢 「クラシックはわからない」という人がいますが、細部にわたって勉強して解説を読まないと楽しめないというのは一切ありません。音楽はわかるために聴くものではないので、まずはぜひ一度、会場に足をお運びいただきたいですね。そうすれば理屈ではなく「あれ、結構面白いね」と感じていただけると思います。

観客の方へメッセージをお願いいたします。

角野 今回、富姫役で出演させていただくことになりました。とても緊張していますが、先輩方にご指導いただきながら頑張っています。誰もが自分の役に愛着を持って頑張っていますので、ぜひご覧いただければと思います。

3月6日(日)14時開演の回ご出演
佐藤路子さん(富姫)、迎肇聡さん(図書之助)

佐藤路子さん、迎肇聡さん
佐藤路子さん(左) 迎肇聡さん(右)

オペラ『天守物語』はどのようなお話なのでしょうか。

  泉鏡花原作、水野修孝先生作曲のオペラ『天守物語』は、日本オペラ協会で1979年に初演されて以来、上演を重ねてきた作品です。"白鷺城"とも呼ばれる姫路城の天守には、富姫など魔物が棲みついています。そこへ遊びに来たやはり魔物である亀姫に富姫が姫路城主から取り上げた鷹をあげてしまったことで、鷹匠である図書之助が鷹を探しに天守を訪れ、そして富姫と恋に落ちるといったお話です。

泉鏡花の戯曲『天守物語』は、ストレートプレイの演劇として舞台化されることも多い作品です。オペラならではの特徴や魅力とは、どういったところだと思われますか。

佐藤 もともと戯曲として書かれたものですが、オペラではそのすべての言葉が使われているわけではありません。音楽にのせると、言葉の数はどうしても限られてしまいます。けれどその分、濃厚な音楽があらゆる場面で流れていて、言葉だけでなく和声でその場の雰囲気を感じていただけるのは、オペラならではの魅力ではないでしょうか。原作すべての言葉を使っているわけではなくても、音楽や空間で泉鏡花の世界観を感じ取っていただけると思います。

担当される役柄の面白さ、あるいは難しさはどんな点でしょうか。

  日本人が日本人を演じるのは、実は一番難しいのです。お客様も日本人ですから、日本語による表現には耳も目も肥えていらっしゃるので、特別な緊張感があります。僕の演じる図書之助という人物は姫路城主に使える鷹匠で、鷹を奪われてしまったことから切腹を申しつけられます。しかし鷹を探すために魔物が棲む天守に行くよう命ぜられ、それが富姫との恋につながっていくという役どころです。ヨーロッパの歌は気持ちをストレートに表現しますが、日本の歌は回りくどく、一言も「好き」とか「愛している」などとは言いません。それでもしっかりと思いが伝わって来るのは日本人ならではの良さで、そこは歌っていて面白さを感じます。

佐藤 富姫は2代前の城主に自害に追い込まれ、あやかしとなったという設定です。人間ではない役なので、まずはそこが難しいですね。姫路城の天守にいる強い力を持った妖怪である一方、図書之助に会う時は、まだ富姫の中に残っている人間としての心が目覚めさせられるという一面もあると思うのです。また、弱者をいたぶる殿様は憎むけれど、素直に生きている人間や生き物には慈愛を持っています。
泉鏡花は、本来人間が持つべき「目」を持った人というのを、妖怪という姿で表したのではないかと私は考えています。富姫はとても広い視野で世界を見ているというイメージがあるので、演じる私自身もそんな目になりたいと思ったり、人が本来あるべき姿を、妖怪を通して泉鏡花は伝えたかったのではと考えたりしながら歌っています。それが面白いところでもあり、難しいところでもあります。

日本オペラの魅力とは、どのようなところだと思われますか。

  日本語で歌われるので、字幕を見なくてもそのまま理解できるのというのは大きな魅力でしょう。また、現代の私たちが聞き慣れている西洋音楽の滑らかな調べとはまた異なる日本の音楽ならではの音の響きも、日本人にはごく自然に心の底から理解できるものです。これも日本オペラの魅力だと思います。

佐藤 着物を着ると、西洋のドレスとは違った安心感やしっくりくる感じがあります。日本の所作というのは慣れない者にとっては難しいのですが、着物を着ていると、所作とは本来無駄がない動きになっているということに気づきます。音楽だけでなく衣裳や所作などすべてに和の要素が入ってくるのも、日本オペラの魅力だと感じます。

普段あまりオペラになじみのない人へ、楽しみ方のアドバイスをお願いいたします。

  オペラを観に行くのは敷居が高いと思われがちですが、オペラもミュージカルもほとんどが恋物語です。ですからテレビや映画で楽しむドラマと一緒だと思っていただければ、ぐっと身近に感じられ、オペラへの近道になってくれると思います。

観客の方へメッセージをお願いいたします。

佐藤 現在、みんなで力を合わせて、いい作品、いい舞台になるように頑張っています。泉鏡花の世界観を、みなさんに感じていただければうれしいです。どうぞお越しください。

出演者プロフィール

角野 圭奈子(すみの かなこ)

角野 圭奈子さん

富姫/5日(ソプラノ)
東京芸術大学卒業、同大学大学院修了。東京コンセルヴァトアール尚美ディプロマコース修了。00年より渡伊。静岡県学生音楽コンクール第1位。第34回日伊声楽コンコルソ入選。東京文化会館新進音楽家コンサートに出演。これまでに「カルメン」「フィガロの結婚」「天国と地獄」「ラ・ボエーム」「ジャンニ・スキッキ」「イリス」「蝶々夫人」等の主要な役で出演し、いずれも高評を得ている。また、メキシコ・セルヴァンティーノ音楽祭において「夕鶴」のつうに抜擢され、メキシコ大統領臨席の場で公演し好評を博した。静岡県出身。

佐藤 路子(さとう みちこ)

佐藤 路子さん

富姫/6日(ソプラノ)
京都市立芸術大学卒業。大学在学中、ドイツ・ゾーベルンハイム・ゾンマーアカデミー修了。ABC新人コンサートオーディション合格。ノーヴイ国際音楽コンクール第1位。その他多数のコンクールや音楽祭等で入賞。03年堺シティオペラ「ジャンニ・スキッキ」のラウレッタでオペラデビュー。びわ湖ホールオペラには、「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」「こうもり」に出演。その他、「椿姫」「オルフェオとエウリディーチェ」「蝶々夫人」で好評を得ている。びわ湖ホール声楽アンサンブル・ソロ登録メンバー。兵庫県出身。

中鉢 聡(ちゅうばち さとし)

中鉢 聡さん

図書之助/5日(テノール)
東京芸術大学卒業。日本オペラ振興会オペラ歌手育成部第11期生修了。平成5年度文化庁芸術家国内研修員。藤原歌劇団で「ラ・トラヴィアータ」、「東洋のイタリア女」等に出演後、渡伊。文化庁青少年芸術劇場公演「愛の妙薬」、「イル・カンピエッロ」等の出演を経て、03年藤原歌劇団公演「ロメオとジュリエット」のロメオに抜擢され成功を収めた後、「ラ・トラヴィアータ」「トスカ」「愛の妙薬」等に出演。日本オペラ協会には11年「高野聖」の上人でデビュー以降、数々の作品で好評を博している。洗足学園音楽大学客員教授。秋田県出身。

迎 肇聡(むかい ただとし)

迎 肇聡さん

図書之助/6日(バリトン)
大阪音楽大学卒業、同大学大学院修了。その後渡独。第54回全日本学生音楽コンクール大阪大会第1位。これまでに「フィガロの結婚」「セビリャの理髪師」「魔笛」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」「カルメン」「こうもり」「メリー・ウィドー」「愛の妙薬」「道化師」「ラ・ファヴォリータ」「清教徒」「ラ・チェネレントラ」「ホフマン物語」「森は生きている」「イメネーオ」等、多数の作品にバリトンの主要な役で出演している。びわ湖ホール声楽アンサンブル専属ソロ登録メンバー。大阪府出身。

沢崎 恵美(さわざき めぐみ)

沢崎 恵美さん

亀姫/5日(ソプラノ)
洗足学園音楽大学卒業。日本オペラ振興会オペラ歌手育成部第10期生修了。91~94年渡伊。平成8年度文化庁芸術インターンシップ研修員。第5回「叱られて」歌唱コンクール第1位及び清水かつら大賞受賞。育成部修了オペラ公演「サンドリヨン」のタイトルロールでオペラデビュー。ヴィオッティ音楽院でも研鑚を積み、「ラ・ボエーム」のムゼッタでは好評を得た。日本オペラ協会には「山椒太夫」の安寿でデビューを飾り、その後「死神」「モモ」「高野聖」「袈裟と盛遠」に出演。洗足学園音楽大学・大学院講師。神奈川県出身。

伊藤 晴(いとう はれ)

伊藤 晴さん

亀姫/6日(ソプラノ)
三重大学卒業、武蔵野音楽大学大学院修了。日本オペラ振興会オペラ歌手育成部第25期生修了。ミラノ、パリで研鑽を積み、パリ地方音楽院コンサーティスト・ディプロマ修了。第9回藤沢オペラコンクール第2位。これまでに、「修道女アンジェリカ」「フィガロの結婚」「声」「白峯」「みすゞ」「ヘンゼルとグレーテル」「子どもと魔法」「椿姫」「魔笛」「ドン・パスクアーレ」等多くのオペラに出演。藤原歌劇団には、14年「ラ・ボエーム」ムゼッタで本公演デビュー。その他、各種コンサートで活躍している。三重県出身。