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日本バレエ協会『海賊』全幕 稽古場訪問&インタビュー
日本バレエ協会『海賊』全幕
メドーラ役 加治屋 百合子さんインタビュー
加治屋 百合子(かじや ゆりこ)
加治屋 百合子さん
名古屋出身。同地の松本道子バレエ団研究所に入所の後、中国の上海舞踊学校に入学。
2000年、ローザンヌ国際バレエコンクールにてローザンヌ賞受賞、カナダ国立バレエ学校にスカラシップ入学。
2001年、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)の研修生になり、翌年コール・ド・バレエとして入団、2007年7月にソリスト昇格、古典作品のみならず多くの現代作品で主演、または主要な役柄を演じる。2011年のアメリカン・バレエ・シアター来日公演では『ドン・キホーテ』で主演。
2014年、同団を退団、ヒューストン・バレエ団に移籍。現在、同団プリンシパルとして活躍中。
『海賊』のあらすじを教えてください。
海賊のコンラッドが奴隷として売られていたメドーラという美しい女性に惹かれ、メドーラを買い取ったパシャから奪い取ります。ところがその後、奴隷の女性たちの取り扱いをめぐって海賊の中で仲間割れが生じ、さまざまな出来事が起こるというお話です。
加治屋さんは『海賊』への出演経験が何度もあるそうですね。
はい。現在はヒューストン・バレエ団に所属していますが、その前に在籍していたニューヨークのアメリカン・バレエ・シアター(ABT)では、毎年のように『海賊』が公演されていました。私がABTの一員として初めて日本で公演したのも『海賊』でした。これまでメドーラを含むいろいろな役で踊らせていただいてきましたが、パ・ド・ドゥだけといった部分的なものでなく、全幕を通してメドーラ役を踊るのは今回が初めてです。
見どころはどんなところでしょう。
まず、ストーリーが比較的シンプルなので、どんな展開でなにが起こっているのかがわかりやすいことです。また、コンラッドとメドーラだけでなくたくさんの中心人物が登場するので、踊りのシーンが多彩なのも魅力ですね。コメディあり、シリアスなパ・ド・ドゥあり、女性たちの群舞ありと、さまざまな踊りが繰り広げられるので、飽きることなく楽しめます。「バレエって女性のものだけじゃない」と実感できるような作品でもあるので、大人の男性にも楽しんでもらえるはずですし、小さな男の子ならこの作品をきっかけにバレエを好きになったり、自分でもやってみたいと思ってくれたりするかもしれません。
1幕から3幕までがらりと変わる衣装も楽しんでいただけると思います。たとえばメドーラたちは奴隷として売られる女性なので、最初はちょっと露出が多めな衣装です。一方、有名な「花園」のシーンでは、女性たちが頭にティアラやチュチュを身につけるという、まさに小さな女の子が憧れるような典型的な衣装です。
普段あまりバレエを観る機会のない方に、バレエ鑑賞を楽しむためコツなどがあれば教えてください。
バレエに限らず、芸術作品には「かならずこうでないといけない」という“縛り”はないと思っています。もちろんバレエにはあらすじがありますが、「今、舞台ではなにが起こっているんだろう? 私にはわからない」ではなく、「多分こうなんだろうな」と自由に解釈できるものです。たとえそれが本来のあらすじと違っていたり演出家の意図と異なっていたりしたとしても、「けれど私はそう解釈した」でいいんです。
バレエ鑑賞の機会が少ない方から「バレエのこと、よく知らないから」とか「なにに注目して観ればいいのかわからない」という声を聞くことがありますが、自分の解釈で作品をとらえれば、きっとその中に楽しさを見出していただけると思います。あれこれ先入観を持たずにオープンなマインドでいるほど、楽しんでいただけるはずです。
いいコンディションを保つために気をつけていらっしゃることはありますか?
子どもの頃はがむしゃらにやって乗り切ることができていましたが、ここ数年は体と対話して、休むことも大切だと感じるようになりました。とはいえ、休むといっても1週間なにもしない、などということはないですね。1日休んだら次の日はジムに行ったりと、バレエ以外のことで体を動かすなどしています。また、オフの日もストレッチは欠かさないなど、なにかしら体は動かしています。長時間飛行機で過ごすときは、客席が寝静まった頃に機内の隅で体を動かします。到着した翌日が公演ということも少なくないので、これをやっておくと体がガチガチに固まらないで済みます。食べ物はあまり細かく気をつけているわけではなく、お肉も魚も食べますし、炭水化物も大好きです。アメリカはベジタリアンが多いのですが、野菜しか食べないでどうやって踊っているんだろうと思います(笑)。最近、昔はまるで興味がなかった豆腐にはまっているんですが、年と共に食の嗜好も変化しているのかもしれませんね。
現在はアメリカを拠点にされていらっしゃいますが、日本公演には特別な思いがありますか?
どんな公演でも一つひとつが特別なのですが、やはり生まれ育った日本での公演には格別の思いがあります。しかも今回の公演はヒューストン・バレエ団に移籍してから初の日本公演で、日本のお客様の前で全幕を通して踊るのは数年ぶりです。少しでも成長した踊りを観ていただければと思っています。また、プライベートな話になりますが、日本に来たときはかならず実家に寄るようにしています。私は10歳で上海のバレエ学校に留学して以来、カナダ、アメリカとずっと海外で暮らしています。長く親元を離れているからこそ、親のありがたみや家族の絆をより強く感じるのかもしれません。
都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧のみなさまにメッセージをお願いいたします。
今回、『海賊』ではメドーラ役で踊らせていただきます。とても豪華なキャストのうえ、バレエを知らない方でも楽しめる作品なので、観に来ていただけるとうれしいです。劇場でお待ちしています!
再振付/演出:ヴィクトール・ヤレメンコさん
振付補佐:タチアナ・ベレーツカヤさん インタビュー
ヴィクトール・ヤレメンコ
ヴィクトール・ヤレメンコさん
ウクライーナ共和国人民芸術家。
タラス・シェフチェンコ記念ウクライーナ国立キエフ・オペラ・バレエ劇場バレエ団(以下キエフ・バレエ団)振付家。
1983年、モスクワ・バレエ学校卒業の後、キエフ・バレエ団入団。同団のプリンシパル・ダンサーとして数多くの作品に主演、また世界各国の舞台に招かれて客演。現役を離れてからはキエフ・バレエ団他で作品の振付を担当、多くの話題作を世に送り出している。
タチアナ・ベレーツカヤ
タチアナ・ベレーツカヤさん
ウクライーナ共和国人民芸術家。
ウクライーナ国立キエフ・バレエ学校を卒業の後、タラス・シェフチェンコ記念ウクライーナ国立キエフ・オペラ・バレエ劇場バレエ団(以下キエフ・バレエ団)入団。同団のソリストとして数多くの作品で主役、準主役を踊る。現役を離れて後は後進の育成に積極的に取り組み、門下の数多くの生徒が世界的に権威あるバレエ・コンクールに上位入賞、現在はキエフ・バレエ団教師として活躍中。
今回のヤレメンコさんの再振付・演出にはどのような特色がありますか?
ヤレメンコ
「花園」のパ・ド・ドゥなど、プティパの伝統的な部分は残しつつ、コンセプトを新しくしてプロローグとエピローグを加えました。今までのバージョンでは最初から海賊の世界が始まりますが、今回はバレエの『海賊』のもととなった長編物語詩『海賊』の作者である、イギリスの詩人バイロンがロンドンを歩くシーンから始まります。創作のためのインスピレーションを求めて歩いていたバイロンは、街なかでメドーラに会ってひとめぼれします。そしてその晩見た夢が『海賊』という設定です。エピローグでは、目が覚めたバイロンがまたメドーラと出会いますが、今度はプロローグのときのようにただすれ違うだけでなく、メドーラに花を渡します。その瞬間、バイロンには創作のインスピレーションが湧き、そこで幕が閉じます。現実の世界から夢の世界に、そしてまた現実の世界へと、世界がスムーズに移行していきます。
出演する日本人のダンサーたちについてお聞かせください。
ヤレメンコ
昔から日本には何度も来ていますが、今回出演する日本バレエ協会のダンサーはとても集中力があり仕事熱心で、リハーサルから真摯に向き合ってくれているのが伝わってきます。まだリハーサルが始まって数日ですが、そのたった数日間でもそれを強く感じます。
ベレーツカヤ
女性のダンサーについて言えば、メドーラを踊る3キャストをはじめ、ダンサー全員のクオリティが上がりました。特に今回の3人のメドーラ役は本当に素晴らしく、世界のどこで踊っても通用するクオリティだと確信しています。
日本の観客についてはどのような印象をお持ちでしょうか。
ベレーツカヤ
日本人のお客様は、舞台中は遠慮をしてあまり拍手をしませんね。けれどそれは拍手したくないわけではなく、流れを止めたくないと思ってくださっているからだと伝わってきます。実際、公演終了後はとても大きな拍手をくださるのでとてもうれしいです。
ヤレメンコ
私はコンクールで受賞経験はありましたが、初めて金メダルを取ったのは1987年の大阪国際コンペティションでした。ですから日本は思い出深い国ですし、その後もガラコンサートなどで何度も来日していて、大好きな国です。
都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧のみなさまにメッセージをお願いいたします。
ヤレメンコ
親愛なる日本のバレエファンのみなさま、こんにちは。2月8日、9日の『海賊』の舞台にみなさまがいらしてくださることを心待ちにしています。ファンタスティックなバレエをぜひご覧になってください。お待ちしています。
ベレーツカヤ
親愛なる日本のみなさん、舞台を観に来てくださることをお待ちしています。とても面白い作品だと思いますので、ぜひいらしてください。ありがとうございました!
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