劇団文化座公演155『炎の人』-ゴッホ小伝- インタビュー|2020都民芸術フェスティバル 公式サイト

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劇団文化座公演155『炎の人』-ゴッホ小伝- インタビュー

藤原 章寛(ふじわら あきひろ)


藤原 章寛さん

1986年生まれ。埼玉県出身。
2010年文化座に入座。その年の文化座公演「大つごもり」(原作=樋口一葉)の俥夫役で初舞台。2014年「GO」(原作=金城一紀)の主人公の杉原役で文化庁芸術祭新人賞を受賞。その後も「旅立つ家族」(演出=金守珍)、「命どぅ宝」(演出=鵜山仁)、「しゃぼん玉」(原作=乃南アサ、演出=西川信廣)ほか、多くの作品で主演を務める。

劇団文化座公演155『炎の人』-ゴッホ小伝-

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『炎の人 ゴッホ小伝』とはどのような作品なのでしょうか。

チラシ
PDF(4.38MB)

画家ゴッホの半生に焦点を当てた作品です。ベルギーの炭鉱で伝道師としてキリスト教の教えを説いていたゴッホは、あまりに信仰が過剰ゆえに解雇され、絵を描くことにたどり着きます。おそらく絵も彼にとっては伝道の手段であり、絵によって人々を救えるかもしれないという思いもあったのでしょう。 オランダのハーグに移り住むと娼婦のシーヌと出会い恋に落ち、彼女をモデルにした絵をたくさん描きます。その中で、自分のいちばん描きたいものは大地で働いている労働者たちだと思いいたります。
シーヌと別れ、弟テオを頼りパリに移ってからは、ゴーガンやロートレック、ベルト・モリソウといった画家たちの影響を受け、明るい色彩を使うようになります。そして崇拝していたゴーガンとフランスのアルルで共同生活を始めるものの、わずか2カ月で破綻、ゴッホが自らの耳を切るという事件が起こります。その後、療養院で耳に包帯を巻いた自画像を描こうとしているゴッホのもとにある男が現れ語り始め……というあらすじです。この語りは作者、三好十郎さんからゴッホへ向けた言葉のようでもあります。
『炎の人 ゴッホ小伝』は、ゴッホの絵や人間に対する思いに共感した三好さんが、ゴッホに捧げた作品という気がします。ゴッホが絵で描きたがっていた「人間がそこにちゃんと生きている」ということを、三好さんは戯曲という形で表現されました。ですからこの作品は単なるゴッホの半生というよりも、三好さんとゴッホというふたりの感情が入り混じっているものだと思っています。

『炎の人 ゴッホ小伝』の見どころをお聞かせください。

ゴッホが自分の絵というものを見つけるまでになにを考え、どんな苦悩をしてきたのかという部分は見どころだと思います。また、演出の鵜山さんはこの作品を演出するのが2度目で、1回目は無名塾さんで仲代達矢さんがゴッホ役を演じられています。ですから鵜山さんの演出の違いなどに着目するという見方もできるのではないでしょうか。
個人的には、演じる当時のゴッホはまだ無名の存在で、今の僕も誰もが知る役者というわけではありませんから、おこがましいかもしれませんが、そこは唯一ゴッホと共通しているところだと感じています。ですから、ひとりの無名の役者がいかにゴッホと三好さんの戯曲と鵜山さんの演出を自分に取り込み、それを舞台で出せるかという点も、見どころにできればと思っています。

実在した人物を演じる難しさはありますか?

それはありますね。ゴッホの生きた軌跡やたどってきた道を、自分の体の中に通していかなきゃいけないと思うのですが、それはとてつもなくしんどい作業です。ゴッホの思考は僕の中から生まれるものではないですし、思いもよらないことを考えられてしまうこともありますし、ゴッホのように絵で表現することはできませんし。それでもなんとか本人に近づかなければいけないので、とにかく大変です。

数々の俳優がこの作品に出演しゴッホを演じられてきました。

偉大な先輩方がゴッホ役をされてきたのはもちろん知っていますが、作品は見ていません。今はまだ苦しみながら自身のゴッホ像を構築している真っ最中なので、そういう時期に見てしまうと、無意識のうちに表面的に模倣してしまうことがあるかもしれないと思って。実は台本を読んだとき、これはなかなか難しいと思う箇所がいくつかあり、先輩方はどんな風に演じられたのかと見たい衝動にかられたんです(笑)。けれどゴッホの苦悩には自分自身も苦悩して模索しない限りたどり着けない、見つけ出せないと思いとどまりました。公演が終了したら、見させていただくかもしれませんね。

初演は1951年ですが、これほど長く支持される理由はどのようなところにあると思われますか。

ゴッホに関する映画は2019年だけで2本上演され、日本では大きな展覧会も開催されました。それだけ関心を持つ人が多い人物だということです。彼の絵は、ゴッホという人間の総合芸術なのかもしれませんね。だから絵に興味を持つと、おのずとゴッホ自身のことも気になるのでしょう。『炎の人』も、ゴッホの絵や人間に対する思いに共感した三好さんが、身を削ってゴッホの思いをひとつずつ丁寧に言葉にしたからこそ、このような重厚な作品となり、多くの人々の支持を得たのだと思います。

三好十郎さんの作品の魅力をお聞かせください。

三好さんの作品は、一つひとつの言葉が重いです。人間の醜さや嫌な部分もはっきり言葉になっていて、言葉にするとそれ以上のことを言われたり、まるでグサグサ斬り合っているかのような会話があったり。けれど三好さんは、そういう人間のネガティブな部分すらも愛そうとしています。だから「どんなことがあっても人間は生きていくことが大事なんだ」という究極のメッセージが、作品の中に込められているのがわかります。人間関係が希薄になってきている今の時代だからこそ三好さんの作品の価値をより感じますし、実際、上演される機会がかなり増えました。三好さんの言葉をちゃんと世に出さなければいけないという思いが、ほかの方たちにもあるのかなと感じています。

藤原さんにとって1942年に結成された長い歴史のある劇団文化座は、どのような存在ですか?

実は、僕は文化座の歴史もどんな芝居をやっているかもまったく知らずに入団しました。芝居を始めたいと思って手当たり次第に受けた劇団のひとつが文化座だったんです。入団して文化座の作品を見ていくと、今度は「地味だな。これで面白いのかな?」とこれまた失礼な感想を(笑)。歴史について不勉強で、短絡的なとらえ方しかできていませんでした。それが歴史を学び、さまざまな知識を得ていくうちに、自分がこれまでいかに考えずに生きてきたかに気づきました。そして、自分と同じ世代の人たちにも文化座の作品を観てもらいたいと思うようになりました。
文化座が「知から湧いた演劇」を標榜し、市井の人々、地道に働いている人々に目を向け光を当てたいという思いは、ゴッホの「労働者たちを描きたい」という思いにも共通していると思います。こういう人たちほど毎日を実直に生きている気がするし、作品にすると「生きる」というエネルギーが出ているのではないかというところまで自分の意識がたどり着いてからは、「文化座の作品はやるべきもの」という思いでいます。ですから役者を続けていく限り、文化座は僕の原点であり立ち返る場所です。

都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧のみなさまにメッセージをお願いいたします。

これまで聞いてくださってありがとうございました。稽古はまだ序盤ですが、いい作品にしていきたいと思います。2月20日、スペース・ゼロで『炎の人』始まります。興味をお持ちになったら観に来てください。よろしくお願いします。

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