2020都民芸術フェスティバル 公式サイト
藤原歌劇団公演 オペラ『リゴレット』稽古場訪問&インタビュー
佐藤 美枝子(さとう みえこ)
佐藤 美枝子さん
武蔵野音楽大学卒業。日本オペラ振興会オペラ歌手育成部修了後、ローマに留学。1997~99年五島記念文化財団の奨学生として引き続きローマで研鑽を積む。第64回日本音楽コンクール、第11回チャイコフスキー国際音楽コンクールでそれぞれ第1位。95年ローマにて「リゴレット」ジルダ、99年新国立劇場「カルメン」ミカエラでデビュー。藤原歌劇団には、2000年「ルチア」でデビューを飾り、以降数々のプリマドンナで成功を収める。第7回五島記念文化賞オペラ新人賞、第9回出光音楽賞、第10回新日鐵音楽賞フレッシュアーティスト賞、第2回ロシヤ歌曲賞、第3回下總皖一音楽賞受賞。藤原歌劇団団員。大分県出身。
光岡 暁恵(みつおか あきえ)
光岡 暁恵さん © Flavio Gallozzi
昭和音楽大学卒業、同大学大学院修了。平成14年度文化庁新進芸術家国内研修員。平成16年度文化庁新進芸術家海外留学制度研修員として渡伊。2007年からチューリッヒ歌劇場のオペラ研修生IOSメンバーとして2年間研鑽を積む。Bunkamura/産経新聞主催“第2回オペラティックバトル”第1位。08年静岡オペラ国際コンクール優勝(日本人初)、同時にオーディエンス賞、三浦環特別賞の三冠獲得。藤原歌劇団には、06年「ランスへの旅」のフォルヴィル伯爵夫人でデビュー以降、「ルチア」「夢遊病の女」「愛の妙薬」等で好評を得ている。第39回川崎市アゼリア輝賞受賞。藤原歌劇団団員。埼玉県出身。
藤原歌劇団公演 オペラ『リゴレット』
『リゴレット』のあらすじを教えてください。
佐藤 女好きの公爵に仕えているリゴレットという道化師は、ジルダという娘を大事にするあまり、人目に触れないように育てていました。そのジルダが唯一外出を許される教会で、身分を偽って近づいてきた公爵と出会い恋に落ちます。自分の娘が辱めを受けたリゴレットは公爵への復讐を誓いますが、それを知ったジルダが身代わりとなって死んでしまうという悲劇です。
光岡 なぜジルダが女好きの公爵を好きになったのかといえば、週に一度の教会にしか外出を許されていない環境で暮らす中で、情熱的なイタリア人男性にアプローチされたわけですよね。恋を知らなかった女の子が、瞬時に恋に落ちるのは無理もなかったのでしょう。公爵が歌う歌は「女心の歌」をはじめ、派手で女性の気持ちをつかむメロディ展開のアリアがとても多いんですよ。
『リゴレット』の魅力はどんなところにあると思いますか?
光岡 独唱部分からアンサンブルまで、終幕になるほどどんどんドラマティックになっていくところでしょうか。また、イタリア語がとても聞きやすいオペラであると同時にイタリアらしい作品なので、お客様の耳にもなじみのいいオペラだと思います。
佐藤 悲劇のストーリーですが、登場人物たちの気持ちに共感しやすい部分もあります。それをヴェルディの音楽がぐいぐい盛り上げていくのが『リゴレット』の魅力であり、長く親しまれている人気作品である理由だと思います。私はローマでのデビューがこのジルダ役でした。以来、何度も歌う機会をいただいてきましたが、指揮者や演出家によっても解釈が違うので、そのつど新しい発見があり、役柄が膨らんでいきます。ですから何度歌っても飽きることがありません。
ジルダを演じるにあたって心がけていらっしゃることがあれば教えてください。
佐藤 歌手としてすべてに万全を期すことが務めだと思っています。ジルダを演じるにあたっては、お客様に「佐藤さんが出てきた」と観ていただくのではなく、『リゴレット』の登場人物のひとりであるジルダとして観ていただけるような役作りに努めたいと思っています。舞台に「リゴレットの娘がいる」というようなところまで突き詰めていけたらいいですね。
光岡 まずは本番に向けて体調管理をしっかりすることです。それから役に謙虚であることを意識しています。悲劇のヒロインの役なので、歌う側も感情移入しやすかったり、自分を投じやすかったりするのですが、やみくもに自分の思いを役にぶつけるのではなく、「ジルダだったらどう考えるだろう」と考えながら全幕演じきりたいです。
イタリア語がわからない人でもイタリアオペラを楽しむコツなどはありますか?
光岡 気軽な気持ちで来ていただくのが一番いいのではないかと思います。イタリア語には響きの明るさがあるので、おのずと明るくストレートに気持ちを表現している作品が多いんです。字幕もありますし、気楽に観ていただければきっと楽しんでいただけると思います。もちろんストーリーや作曲家、出演者についてなどあらかじめ知っていれば、知っているなりの楽しみ方がありますが、知らないからといって楽しめないわけではありませんから安心してください。舞台のセットや出演者の衣装などが見どころの作品もあります。また、歌手としての視点で言うなら、私たちは歌を通じて言葉や思いをお客様に伝えるのが使命だと思っていますので、そこがしっかり伝わり、受け止めていただければうれしいですね。
佐藤 最近はミュージカルがとても流行っているので、オペラとミュージカルの違いを聴きに来ていただくのも面白いと思います。声もオーケストラもマイクを通さない「生音」の迫力を、ぜひ感じていただきたいですね。また、オペラは予習や予備知識なしでも楽しんでいただけると思いますが、会場ではかならずパンフレットが販売されているので、それを入手して開演までの時間に知識を仕入れるのもおすすめです。パンフレットにはあらすじだけでなく登場人物の性格や音楽の特性といった細かなことも載っていますから、オペラ鑑賞後に再読するとまた新たな発見があると思いますよ。パンフレットあり字幕ありと、会場には気軽に楽しんでいただけるお膳立てが整っていますから、あまり難しいことは考えず、まずは会場に足を運んで臨場感を体感していただくのがいちばんだと思います。
オペラという舞台芸術の魅力はどのような点にあると思われますか?
光岡 オペラを1本上演するにあたり、歌い手は何年も準備して臨みます。そして客席から見えない裏には、スタッフの方が何百人といます。たった1日のためにセットを作ったり、衣装を用意したり、実に多くの方が膨大な時間を費やしていい作品にしようと尽力します。このチームワークこそ、舞台芸術の魅力を象徴しているように思います。また、本番の舞台は、私たち歌手が伝える呼吸をお客様が受け取り、また舞台に返してくださるというキャッチボールの場でもあります。そういったものが上手くかみ合わさってオペラの公演は成り立つので、舞台芸術の魅力は舞台に立つ出演者だけでなく、それを支えるスタッフや客席のお客様もあってのものだと感じています。
佐藤 私もまさに、光岡さんがおっしゃったことと同じ思いです。たとえば今日もこれから稽古ですが、私たちより先にスタッフの方々が来て準備をしてくださっています。スタッフのみなさんがいなければ、決して公演は成り立ちません。大道具や小道具、照明に字幕、オーケストラなど、本当にたくさんのクオリティの高い方々が集結し、理想とする頂点に向かって一緒に作り上げ、その集大成をお客様に観ていただくわけです。この過程、この一丸となった思いそのものが、舞台芸術の魅力ではないでしょうか。そして私たちは小さな声帯ひとつで声をお届けするわけですが、生声でホール全体に声を響かせる臨場感は、マイクを通してでは伝えられないものがあるはずだと思っています。私たちはお客様の五感に声を響かせる、ということなのかもしれませんね。
都民芸術フェスティバルのウェブサイトをご覧のみなさまへ、一言メッセージをお願いします。
佐藤 藤原歌劇団公演『リゴレット』は、大変人気の高いオペラです。ストーリーは悲劇ですが、いらしていただいたお客様みなさんが楽しんでくださり、ドラマに惹き込まれるようなオペラに仕上がると思います。ぜひいらしてください。
光岡 藤原歌劇団公演『リゴレット』、ジルダ役の光岡暁恵です。『リゴレット』は藤原歌劇団を代表する作品のひとつだと思っています。何十年か前、この公演を観客として一生懸命勉強しながら見させていただきました。その思いを公演できちんと表現できるように努めていきたいと思っております。ぜひみなさま、お運びください。よろしくお願いいたします。
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