2020都民芸術フェスティバル 公式サイト
日本オペラ協会公演 美内すずえ「ガラスの仮面」より
歌劇『紅天女』稽古場訪問&インタビュー
日本オペラ協会公演 美内すずえ「ガラスの仮面」より
歌劇『紅天女』新作初演(日本語上演 日本語字幕付)
阿古夜×紅天女役 小林 沙羅さん&笠松 はるさんインタビュー
小林 沙羅(こばやし さら)
小林 沙羅さん
東京藝術大学大学院修了。2010~15年欧州にて研鑚。東京芸術劇場、新国立劇場等に出演。2012年ブルガリア国立歌劇場「ジャンニ・スキッキ」ラウレッタで欧州デビュー。2017年藤原歌劇団「カルメン」ミカエラ、2019年全国共同制作オペラ「ドン・ジョヴァンニ」ツェルリーナ、日生劇場「ヘンゼルとグレーテル」グレーテル等に出演。2019年英国にてリサイタル開催。CD「日本の詩」新発売。第27回出光音楽賞、第20回ホテルオークラ賞受賞。藤原歌劇団団員。
笠松 はる(かさまつ はる)
笠松 はるさん
東京藝術大学卒業、同大学大学院修了。第16回日本クラシック音楽コンクール声楽部門大学院の部最高位受賞。大学院修了後すぐの2007年4月に「ユタと不思議な仲間たち」ヒロイン小夜子で劇団四季初舞台。その後8年間劇団の主演女優として1800ステージ近くの舞台で活躍。主な作品に「オペラ座の怪人」クリスティーヌ「ウェストサイド物語」マリアなど。退団後も演劇界を主軸に様々な活躍を続ける中、歌劇「紅天女」ではオーディションを受け主役に抜擢された。
原作の『ガラスの仮面』はお読みになったことはありますか?
小林 小さい頃から夢中になって読んでいました。昔から舞台は見るのも好きだし、自分が舞台でなにかをするのも好きだったので、北島マヤちゃんに自分を重ねていました。舞台を見に行ったらその台本を買って、セリフを暗記したりもしていましたね。その後は演劇ではなくオペラの世界に進みましたが、まさか『ガラスの仮面』の『紅天女』がオペラになるとは思ってもいなかったので、それを知ったときは本当にうれしかったです。
笠松 私は、高校1年生のときに声楽を始めたのですが、同じ時期に初めて読みました。ミュージカルに出たい、演劇の世界に行きたいと思っていた私にとって『ガラスの仮面』のストーリーはダイレクトに響くものがありましたね。上京の際は全巻持参、引っ越す際もいつも一緒です。また、このマンガを通して「嵐が丘」や「奇跡の人」などいくつもの名作を知り、実際に舞台や映画を見るなど、私の演劇の世界を広げてくれた作品でもあります。
台本を初めて読まれたとき、どんな感想を持たれましたか?
笠松 まず、ファンのひとりとして、結末まで描かれたこの領域に、原作内ではまだ未公開の今の段階で踏み込ませていただけることがうれしく、「オーディションに受かった甲斐があった」と思いました(笑)。マンガで描かれていない結末の部分を読んだときは鳥肌が立ち、涙が止まりませんでした。阿古夜と一真以外の出演者たちの深い物語もたくさん描かれていて、「やっぱり美内先生はすごいな」と改めて感じました。
小林 最初に読んだとき、いつの間にか読みながら泣いていました。内容が深いんです。紅天女のことだけを書いているのではなく、世界の真理、宇宙の真理というか、今の時代に美内先生が強い熱い思いをもって伝えたいことが、台本の中にぎゅっと詰まっています。だから一言一言が深くて、すべてのセリフに意味があります。新作って一回上演されて終わってしまうことも少なくないのですが、『紅天女』は古典になるくらい強い力を持った作品だと思います。
阿古夜/紅天女の役作りの難しさはどんな点でしょう。
小林 阿古夜と紅天女は、「ふたりでひとり」という面がありつつ、性格はまったく異なります。阿古夜ちゃんは可愛い女の子、紅天女である紅姫は強く、神としてちょっと突き放して人間を見ています。その紅姫が阿古夜に憑依したり、阿古夜の気持ちがいつの間にかどんどん紅姫の方に近づいていったりと、まるで違う性格が重なり合い混じり合うという点に難しさを感じます。しかも、どちらともいえないグレーゾーンもあるんです。そういった複雑な部分をお客様には「あ、阿古夜ちゃんだな」「これは紅姫だな」とわかっていただけるようにするため、今も模索中です。
笠松 阿古夜という子と、紅姫という神様のバランスに苦労しています。「この場面では何パーセントくらいの割合でふたりが重なっているのか」といったことを見つけていくのが難しいですね。阿古夜の格好なのに中身は紅姫のときがあったり、紅姫に阿古夜ちゃんの未来の姿が影響を及ぼしていたりするシーンがあったりするんです。そういうような状態を自分の中の感覚としてきちんと持った上で、音楽表現に繋げていかなければいけないところが大変です。
『紅天女』は音楽もすべて書き下ろしです。音楽についてはどのように感じられましたか。
笠松 あまりに素敵な音楽で、デモ音源を聴いて泣いてしまったほどです。ただ、歌うとなると体力的にもとても大変で、最初は「これ、本当に歌い切れるかしら?」と不安になるほどでした。初めて歌だけを全幕通したときは、最後のほうはランナーズハイのような状態になりました(笑)。
オペラの魅力はどのようなところだと思われますか?
小林 オペラは舞台の上に立って歌う歌手だけでなく、オーケストラのみなさんや多くのスタッフが関わる総合芸術です。その誰もが強い思いを持って同じ作品に取り組み作り上げていくという過程は大きな魅力だと思います。3時間ほどのオペラ作品のためにどれだけの人の思いが詰まっているかを考えると、オペラって本当にすごいものだと感じます。そしてできあがったものをお客様が見てくださることで、舞台とお客様の間でエネルギーのやりとりが生じます。それによって作品として完成する、そんな気がします。
日本語のオペラならではの難しさはありますか?
小林 日本語って「あーっ!」と響く言葉でしゃべらないんですよね。子どもがうるさくすると「静かにしなさい」って言われるでしょう。そういう文化なので、奥ゆかしさはあるんですが、このまま歌うと響きません。だから、日本語で歌うときには、気持ちや表現は日本人のまま、けれど歌い方はイタリア人のように響くところに声をもっていくようにしています。私もまだまだ研究中ですね。もっと子音を立てたらいいんじゃないか、もうちょっと母音を流したらいいだろうかとか、そういうことを常に考えながら日々アプローチしています。
都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧のみなさまにメッセージをお願いします。
笠松 このオペラは、私が演じます阿古夜と一真という仏師の魂の繋がり、恋を描いたお話です。ふたりがどのように繫がり、そしてどのような結末を迎えるか以外に、たくさんの登場人物たちの人間ドラマも大変面白いお話になっています。音楽は耳に残り、心を沸き立ち、そしてとても瑞々しく、さまざまな感動にあふれています。今、いい初演になるよう頑張ってお稽古していますので、ぜひ劇場におこしください。オーチャードホールでお待ちしています。
小林 今回、紅天女役と阿古夜役の二役を演じさせていただきます。『紅天女』は本当に力のあるオペラで、この作品を稽古している間中、私自身も大きなエネルギーを感じながらやっております。見に来てくださったみなさんの人生をちょっと変えてしまうような、そういうエネルギーを持ったオペラだと思います。オーチャードホールの舞台でお待ちしておりますので、見に来ていただけたらうれしいです。
指揮:園田隆一郎さんインタビュー
園田 隆一郎(そのだ りゅういちろう)
園田 隆一郎さん
2006年シエナのキジアーナ夏季音楽週間「トスカ」でデビュー。翌年、藤原歌劇団「ラ・ボエーム」で日本デビュー。同年夏、ロッシーニ・オペラ・フェスティバル「ランスへの旅」を指揮以降、国内外でオペラや管弦楽との共演を重ねる。本年6月、藤原歌劇団「フィガロの結婚」にも出演を予定しており、オペラと交響曲の両分野で活躍。東京藝術大学大学院修了。第16回五島記念文化賞オペラ新人賞、第16回斎藤秀雄メモリアル基金賞受賞。藤沢市民オペラ芸術監督。
『紅天女』のあらすじを教えてください。
オペラによくある、誰かが恋して成就するとか、あるいは病気になって悲恋に終わるとか、そういう単純なストーリーではありません。人が愛し合うことの尊さや憎み合って争うことの醜さ、自然をないがしろにする愚かさなどが書かれています。また、阿古夜と一真が中心ではありますが、それ以外の人々にもさまざまなストーリーがある群像劇です。たとえば伊賀の局という非常に大事なことを言う役は、ふたりに一度も会うことがないんです。ですから見ている方も、いろいろな登場人物に感情移入したり、自分を投影できたりする作品だと思います。それから、原作では描かれていなかった『紅天女』の結末が、このオペラで明かされます。個人的には台本の力をひしひしと感じました。台本がいかに大事か、美内先生から教えていただいたと思います。
『紅天女』の音楽についてお聞かせください。
ひとつの大きなテーマについて、姿形を変えながら何度も演奏されるメロディがあるのですが、それがまさに普遍的なテーマを歌っているようで素晴らしいと感じます。また、誰もが思わず口ずさみたくなったり、帰り道に歌いたくなるような、そういう聞きやすいメロディもありつつ、ちょっとミステリアスな音楽もあったりと、いくつもの要素が含まれています。指揮者としては音楽を作るのではなくて再現することが大事なので、寺嶋民哉先生が作曲された音楽をどのように歌とオーケストラで表現していくか、腕の見せどころですね。なお、マンガが原作だとオーケストラも軽めのものというイメージを持たれる方がいるかもしれませんが、いわゆる普通のオペラのフル編成です。ですから豪華で華やかなオーケストラの音が鳴りますし、今回は笛や琴などの和楽器もオーケストラピットの中から聞こえてきますよ。マイクを通さない生の音がどうホールに響いていくのか、私も今からすごく楽しみです。
今回の作品を指揮する上で、心がけていらっしゃることなどはありますか?
新作なので、まずは寺嶋先生の感じたことを汲み取りたいという思いがいちばん強いですね。そして、歌がきれいに聞こえるようにするのも指揮者の大事な仕事です。テンポがちょっと違うだけで歌いづらくなり、その歌手を苦しめてしまうことってあると思うんです。また、重厚なものをイメージしてたくさんの楽器を分厚く書いたパートがあったとします。それに対して、歌う人はひとりだったりするわけです。ひとりの人間と、大きな音の出る楽器が何十人も一緒に演奏するとなったときに歌の美しさを残すには、オーケストラを柔らかく軽く抑える必要があります。歌う方はひとりで何十人に立ち向かっているわけですから、指揮で支えていきたいという気持ちはありますね。
日本のオペラならではの指揮の難しさはなんでしょう。
私はイタリアで15年暮らし、日本に帰ってきてからの仕事もかなりの割合がイタリアの作品なので、恥ずかしながら「日本語でどう歌うか」ということに関して経験が浅いんです。そのため、リハーサルの中で、小林沙羅さんや笠松はるさんをはじめ、出演されるみなさんから勉強させていただいています。「紅」の「く」と「昨晩」の「く」は、同じ読みですが言い方が違うんですよね。口の中の形とか重みとか、みなさんすごく考えながら歌っています。また、話し言葉の日本語と歌の日本語も違います。小林さんも話していたように、日本は小さな声でしゃべることが美徳とされてきた文化ですから、日本語で歌うというのはとても難しいと思います。けれど工夫すればホールに響き渡る声で日本語のオペラを歌うことは可能です。私も引き続き学びつつ、その点を磨いていきたいと思っています。
都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧のみなさまにメッセージをお願いします。
今、新しいオペラが生まれようとしております。原作は女性のファンの方が多いと思いますが、生きる意味といった非常に深いテーマをはらんだ、むしろそこがテーマの作品なので、女性のみなさんはもちろんですが、男性のみなさんにも見に来ていただきたいと思っております。ぜひ、オーチャードホールまでお越しください。
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