第50回都民寄席 出演者インタビュー|2020都民芸術フェスティバル 公式サイト

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第50回都民寄席 出演者インタビュー

春風亭 昇太(しゅんぷうてい しょうた)


春風亭 昇太さん

新作落語の創作活動に加え、昇太独自の解釈で古典落語に取組み、文化庁芸術祭大賞を受賞するなど、新作、古典問わず高い評価を得ている実力派真打。さらに、演劇への出演も多く役者としても活躍し、ミュージシャンとのライブも意欲的に行なうなど、ジャンルを越えて積極的に活動。平成28年から日本テレビ「笑点」 6代目司会者を務めている。また長年にわたる「お城めぐり」が高じ、著書の執筆、城郭フォーラムのパネラー、講演、城イベントの出演も多い。

第50回都民寄席

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古典落語『二番煎じ』はどのようなお話なのか教えてください。

暮れや正月など、寒い時期によく話される演目です。時代劇にもよく出てきますが、今も「火の用心」と言いながら町内を巡ってくれるおじさんたちがいますよね。『二番煎じ』はその人たちのお話です。番屋に詰めた旦那たちが町内を巡るのですが、そこでなにかが起こるという話です。庶民からお侍さんまで色々な人が登場するので、にぎやかで楽しく、僕は好きで冬の時期はよくやっています。食べるシーンをはじめしぐさが多い話なので、そういった部分も楽しんでいただけると思います。

生で落語を聴く機会が少ない方に楽しんでいただくコツなどがありましたら教えてください。

初めて落語を聴くという方によく聞かれるのが、「事前になにか勉強したほうがいいですか?」ということです。噺家は自分でしゃべってわからないことはしゃべりませんから、勉強などしなくてもなんの問題もないし、あらすじを予習する必要もありません。本当は『二番煎じ』のざっくりとしたあらすじも言いたくなかったほどなんですよ(笑)。落語という芸能は、古典芸能でありながら難しいことがひとつもないのが特徴でもありますから。
落語は、演者がやることを見てもらうのではなく、演者がしゃべった言葉をお客さんに頭の中で想像してもらい、絵を作っていただくという共同作業のようなところがあります。たとえば本を読んでいて「○○のような場所がありました」という一節があれば、その場所を頭の中で想像するでしょう。落語もそれと同じことをしているので、時代劇やドラマを見て楽しんでいる方や本を読んだことのある方なら、かならずわかっていただけるはずです。なんの心配もなく劇場に来て、落語家の話すことに身を委ねていただきたいですね。

春風亭昇太さんが落語の道に入られたきっかけはどんなことでしたか?

大学で落語研究部に入って初めて落語に触れました。それまで僕は、落語っていうのは「おじいさんおばあさんが聴き、おじいさんが喋っている陰気くさいもの」と思っていたんです。ところが生で聞いてみたらそれがとんだ勘違いで、非常に素晴らしい芸能だということがわかり、それから夢中になりました。就職の時期はちょうどそろそろバブルの到来というバブル前夜だったため、いくらでも就職先はあったんです。そこで、じゃあ一度落語やってみて、だめだったら普通の仕事に付けばいいやと、わりと軽い気持ちで落語家になりました。「この道で生きていこう」と思えたのは25歳くらいのとき、二ツ目になってからですね。

春風亭 昇太さん

落語の魅力はどんなところにあると思われますか。

演者としてしゃべっていて非常に楽しいのは、先ほど言ったように、お客さんに想像してもらって絵を作っていただく世界であるということです。
小説を映画化したりドラマ化したりすると、しっくりこないときってありません? あれはなぜかといえば、小説を読んでいるときは自分用に想像しているからです。「すごい美人が現れた」「いい男が来た」と書かれていたら、自分にとっての美人やいい男を想像するものでしょう。ところが実写化されると、自分が思い描いたイメージとは異なる役者さんが出てくることもありえますから、「この人じゃないのに」と感じることも出てきます。
一方、落語だったら、僕が「向こうからいい女が来たねえ」と言ったら500人のお客さんが500通りの顔を浮かべるわけです。それがすごく楽しいんです。すべてを見せない、さらけ出さないことで、逆にすべてのお客さんにマッチするというのが落語の最大の魅力であり、座ってしゃべるというだけの芸能が何百年残っている最大の理由だと思います。
また、落語は同じ演目でも演者によって水墨画のような趣にもなればマンガのような世界にもなるので、落語家一人ひとりが劇団でもあります。シェイクスピアの作品は世界中の多くの劇団によって舞台化されていますが、演出も出演者もすべて異なりますよね。同じ作品でありながら、やり方が違うからこそ楽しんでいただけるという点は落語も同じです。これもまた、落語が今日まで親しまれている確かな理由のひとつでしょう。

落語という古典芸能が今なお存続しているだけでなく人気を誇る理由は、ほかにもありますか?

日本人はさまざまなものを小さくするのが得意で、その最たるものが俳句や短歌です。「言いたいことがあるならそのまま書きゃいいじゃないか」って話なのに、わざわざ五七五という制約を設け、言葉を吟味してその中にうまくはめ込んで、あとはそちらで行間を読んでくださいということをしますよね。機械だってなんでも小型化できる。おそらく落語も、演劇をどんどん小さくしていき、最小限にまでそぎ落としたものだと思います。
江戸時代、演劇は照明設備のない夜にはできなかったので、昼間に行われていました。けれどそれでは日中働いている人がなにも見られないから、ろうそくがあれば聴ける落語が登場したのかもしれません。だから、落語は演劇のカテゴリーに属するのだと思っています。演劇を究極に小さくした結果、座布団1枚というスペースでできる芸能。おそらく世界で日本だけの演劇スタイルではないでしょうか。

昇太師匠は今年6月に落語芸術協会の会長に就任されました。落語界の現状や展望などをお聞かせください。

おかげさまで落語界は人数が増える一方で、特に最近は非常に増えました。同時に、落語への理解も深まって若い人もたくさん聴きに来てくれるので、業界全体としてはいい方向に進んでいると思います。ただ、人数は急激に増えたものの、仕事のキャパがそれほどある世界というわけではないので、この先どうなるかというのは考えています。
バイトをしながら演劇をやるという役者さんはたくさんいますが、落語界ではそれがまかり通りません。僕も落語家になったとき、師匠から「バイトするなら落語家やめろ」と言われました。落語家で食えないならこの世界を去るというのがスタンダードなので、人数が増えた今、業界としてどのようにしていけばいいのかは考えるところです。協会としては、できることなら全員が落語でご飯を食べられるようにと思いますが、し烈な競争社会でもあるのも事実です。認知されすぎて人が増えているという、ある意味贅沢な悩みかもしれませんね。

師匠が抱える弟子の数もおのずと増えているのでしょうか。

増えていますね。落語家の師匠と弟子の関係って、師匠にはなにひとつ見返りがないんですよ。無料で落語を教え、落語界で生きていくすべを伝え、結婚したらご祝儀包んだり、真打に昇進したら着物の1枚も作ってやったりと、得なことひとつもないんです(笑)。でも、僕も師匠にそうやってもらって今があります。師匠に恩返しはできないから、代わりに弟子を受け入れることで先輩にやっていただいたことに対してのお礼をしているんですよね。
落語がほかの古典芸能と違うことのひとつとして、世襲制ではないということが挙げられます。ごくまれにそういう方もいらっしゃいますが、僕自身がサラリーマンの子であるように、基本こちらが本流です。世襲制でないからこそ、いろんなやり方や演出に寛容な世界なのかもしれません。
また、落語は伝統芸ですが伝承芸ではありません。形をずっと伝えていくという芸能ではないので、弟子にも教えはしますが弟子はその通りにやる必要はなく、弟子は弟子で落語家という劇団の座長として、自分なりの演出方法を追求していいんです。だから師匠の役目は、落語というスタイルや生き方を伝えるということだと思っています。

春風亭 昇太さん

最後に、都民寄席のお客様へのメッセージをお願いいたします。

若い頃から都民寄席に出させていただいています。色々な地域、色々なお客さんの前でやるのをいつも楽しみにしています。落語という芸能は堅苦しくなく、劇場に来ていただけさえすれば楽しんでいただけるものですので、ぜひ都民寄席にお越しください。

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