日本オペラ協会創立60周年記念公演『静と義経』 稽古場訪問&インタビュー|2019都民芸術フェスティバル 公式サイト

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2019都民芸術フェスティバル 公式サイト

日本オペラ協会創立60周年記念公演『静と義経』
稽古場訪問&インタビュー

田中 祐子(たなか ゆうこ)

田中 祐子さん
田中 祐子さん
©sajihideyasu

2018年4月、オーケストラ・アンサンブル金沢の指揮者に就任。平成30年度五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。2019年4月より1年間フランスのボルドーとリヨンの歌劇場にて研修予定。東京藝術大学大学院指揮科修士課程首席修了。12年より渡独しベルリンとミュンヘンにて研鑽を積む。東京国際コンクール「指揮」入選、ブザンソン国際指揮者コンクール、ショルティ国際指揮者コンクールのセミファイナリスト。13年クロアチア国立歌劇場リエカ管弦楽団に招かれ海外デビュー。15年藤原歌劇団公演「ラ・トラヴィアータ」でオペラデビュー、17年日本オペラ協会公演「よさこい節」、18年名古屋二期会公演「ちゃんちき」に登壇するなど、オペラ指揮者としても着実に実績を挙げている。2015-16-17年シーズンNHK交響楽団首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィ公式アシスタント。NHK-Eテレ「らららクラシック」やNHK-FM「名曲アルバム」、テレ朝「題名のない音楽会」等、メディア出演多数。http://yuko-tanaka.com/

坂口 裕子(さかぐち ゆうこ)

坂口 裕子さん
坂口 裕子さん

愛知県立芸術大学卒業。京都市立芸術大学大学院修了。平成20年度文化庁新進芸術家海外留学制度在外研修員として渡伊し、G.ヴェルディ国立音楽院を最優秀でディプロマ取得。第37回イタリア声楽コンコルソ入選。2007年G.ヴェルディ国立音楽院ASSAMI声楽コンクール第3位。08年伊リッソーネ市音楽コンクール優勝他。藤原歌劇団には、16年「ドン・パスクワーレ」のノリーナでデビュー以降、17年「ルチア」タイトルロール、18年「ドン・ジョヴァンニ」ドンナ・アンナで出演。日本オペラプロジェクト2017「夕鶴」つうで好評を得た。14年NHK-FMリサイタル・ノヴァ、15年NHKナゴヤニューイヤーコンサートや、宗教曲のソリスト、リサイタルなどに出演している。平成26年度坂井時忠音楽賞、平成30年度兵庫県芸術奨励賞受賞。日本オペラ協会会員。藤原歌劇団団員。兵庫県出身。

日本オペラ協会創立60周年記念公演『静と義経』

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田中さんは指揮者としてなかにし礼さんの台本、三木稔さんの音楽や世界観をどのようにとらえていらっしゃるのでしょう。

田中 なかにし先生と初めてお会いしたとき、先生は「自分の気持ちを伝えるために作詩するのではなく、どの人の心の中にも宿っている魂の叫びを世に伝えていきたい」ということをおっしゃっていました。そんななかにし先生の書かれた台本を、和楽器奏者を家族に持つ三木先生が手にされたことで、いい意味で非常に刺激的な化学反応が起こっているというのが、私が楽譜から読み取ったものです。シャンソンの訳詞からこの世界に入られたなかにし先生特有の「流線的な語感」と、「すり足の文化のような和の音楽」とが融合する、まさに「ここしかないんじゃないか」というピンポイントの答えを見つけられたときの喜びというのは、震えるほど大きなものです。涙が出るほど美しく、そして緊張感と緊迫感の宿った作品だと思います。また、なかにし先生は「能の世界や歌舞伎の要素も含んでいる」ともおっしゃっていたので、オペラという歌劇の枠にとどまらない世界観で物語を進めていければいいなと思っています。

『静と義経』の音楽的な盛り上がり、聴きどころはどのあたりでしょうか。

田中 このオペラは静という女性の成長記です。まだ稽古の途中なので答えを出す時期ではありませんが、今の時点では静を取り巻く男性陣や母親との関わりの中で彼女がどういった愛を育み、愛を遂げ、人生を進み、そして閉じるのかという一代記を、和楽器と共に進んでいくオペラだと感じています。その上で盛り上がりや聴きどころを挙げるとしたら、第2幕で静が白拍子として歌いながら舞うシーンでしょうか。白拍子といえば歌舞の職人ですから、振付を尾上菊紫郎先生にご指導いただいている舞も本格的なものです。そういう舞を舞いながら静がアリアを歌う、これはまさに見どころ、聴きどころ、そして聴かせどころが詰まっているといえるでしょう。

稽古風景1

坂口 この作品はとにかく声楽的に大変難しいのです。音取りが難しいだけでなく音域もかなり幅が広く、楽譜の中に「地声で」と書いてあるところがあるくらいドラマチックなところもあります。静が白拍子であること、義経の側室となった経緯、鎌倉時代という背景など、さまざまな要素がさらに静の役柄を難しいものにしていますが、その難しさが表に出ないようにすることがまた難しいんです(笑)。歌いながら舞うのも大変ですし、所作についてもいかに自分が今まで無知だったかを痛感しています。足を一歩踏み出すことにすら「これでいいのだろうか」と疑問を抱くこともありましたが、1つ1つクリアして本番の舞台に向けていきたいと思っています。また、総監督である郡愛子先生は初演時に磯の禅師役で出演されていたため、何度も稽古場に足を運びアドバイスをくださいます。大作の再演という緊張やプレッシャー以上に、そういった方々が見守っていてくださる喜びや心強さのほうが大きいですね。

日本語のオペラをどのようにとらえていらっしゃいますか?

田中 日本のオペラを指揮する面白さは、日本語で書かれたテキストを日本人が日本語で演じて歌唱できるという、まさにその部分だと思います。私はオペラにおけるオーケストラは、伴奏ではなく一緒にお芝居を作っていく存在だと思っています。ですから私を含むオーケストラも日本語をキャッチしてドラマを作る喜びを共有したいですし、指揮者人生を歩む上で母国語のオペラを楽しむことができなければ、そもそもオペラを指揮するのはやめるべきだと思っています。昨年末に名古屋弁で書かれた『ちゃんちき』というオペラを指揮したとき、名古屋出身の自分の人生を奥の奥までたどるような瞬間がありました。それほど言葉の力というのは強いものなので、言葉が舞台からお客様に届くよう、その日本語の持っている空気や発語のスピード、流れといったものを日本人同士で作り上げていくというのは、これ以上の喜びはないと思うほどです。もちろん言葉をいかに大事にするかで音楽の進め方が変わっていくのは西洋のオペラでもありますが、日本語が独特かつ貴重な言語で、唯一無二の音節を持っているところを再発見できるという点もすごく面白いところです。

稽古風景2

坂口 私はイタリアに留学していた際、コンメディア・デッラルテというイタリア喜劇の古典的な動きなどを学びながら、イタリア人の動きやヨーロッパの方の所作はどんなものなのだろうと憧れを抱いていました。その結果わかったのは、イタリア人だからといってそれができるわけではなく、イタリア人でも人一倍努力をし、その結果としていくつもの素晴らしい舞台が生まれているということです。ですから日本人だからといって日本語のオペラで容易に歌えたり動けたりするわけではなく、時間をかけて勉強することで、ようやくできるようになるものだと実感しているところです。
前に進もうとする西洋の音楽と少し重心が下がった日本の音楽が融合しているところに、このオペラの面白さを感じます。日本のオペラならではの独特なリズムもふんだんに使われているのですが、どうも腑に落ちない部分というのは、私が西洋の感覚で歌っていたりリズムを取っていたりしていたところなんですよね。それに気づいて納得できたときは、日本語で歌う楽しさも感じます。

オペラと管弦楽では、指揮する上で意識することなどは異なりますか?

田中 自分の思い描く音楽の間合い通りにならないことはオペラのほうが圧倒的に多いのですが、それが面白くてしょうがないですね。もちろんオーケストラと管弦楽を演奏するときも思い通りにならないことは山ほどありますが、オペラは長い稽古期間の間に山あり谷あり色々なことが起こり、さらに本番でも想像だにしなかったアクシデントが起こることも珍しくありません。舞台で何か起こるとそれがオーケストラピットまで伝わり、私が「今なにか起こったな、よしこっちだな」と舵を切らなきゃいけない瞬間にも遭遇します。自分の思い通りにいかないことを楽しみ、さらにそのアクシデントが自分の想像を遥かに超える美しい間合いと転じる可能性を信じることが、オペラを振る際に最も大事にしなければいけないメンタリティーだと思っています。
ちなみに今回のオーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団です。これまで何度も振らせてもらっていますがオペラでの共演は初めてで、ひとつの夢が叶ってうれしいです。オペラ愛のあふれるオーケストラとピットの中でご一緒できるというのは光栄なことなので、「自分はこの作品を知り尽くした」という自信を持ってピットに入れるよう猛勉強中です。

稽古風景3

坂口 オペラは総合芸術であるところが大きな魅力だと思いますし、日常と離れた世界を感じられる点も素敵ですよね。私自身がオペラを観に行っても、非日常的なところに身を置けてリフレッシュできますし、オペラには人の心を豊かにしてくれる力があると思います。

演出の馬場さんとはどのように作品を作られていますか?

田中 馬場さんとは今回初めてご一緒させていただくのですが、声楽家ご出身ということもあって、歌手のみなさんの言葉の運びであったり歌の調子であったり稽古場での過ごし方であったり、そういったものに関して非常に心配りができる方だと感じます。最初に「ぜひ音楽と共に稽古場の時間を作っていきたい」とおっしゃって下さって、実際にシーンごとに音楽の角度からも意見を求めてくださるだけでなく、その時間をたっぷり取ってくださるのでありがたく思っています。

坂口 私が田中祐子マエストラとご一緒させていただけてうれしいのは、私たちのところまで降りてきてくださって、静としての心の動きが私の腑に落ちるまで、そして日本語の独特の間合いなども静の心情として落ち着くまで見届けてくださることです。さらにすごいのは、私自身がまだどこがしっくりこないのかわからない段階で、マエストラのほうから「ここはこうなんじゃない?」と「そう、そこだ!」というところを指摘してくださるんです。一緒に役作りをしてくださるのでとても心強いです。

田中 指揮者にそうさせてくれるのは、まずご自身が譜面を読み込んで、イメージをふくらませ、掘り下げてきてくださっているからです。だからこそ指揮者の手の動きが1を出すところから100を感じ取ることができるわけで、指揮者冥利に尽きますね。坂口さんはこのオペラは音を取るのが難しいとおっしゃいましたが、ここまで和声感の伴った歌唱をしてくださる方は本当に少ないと言っていいと思います。沢崎さんは日本オペラの経験が大変豊富な方で、稽古場では常にプロダクションを牽引して下さっています。その部分で私も勉強になるところがたくさんあります。おふたりともオープンに心を開いて私の意見を受け止めてくださいますね。ほかのキャストのみなさんもオープンマインドで、指揮者にとってここまで音楽づくりの環境として恵まれていることってそうないと思います。みなさん、オープンマインドでなければ色々なものが吸収できないし、自分たちからも発信できないということを感じていらっしゃるのかもしれません。

坂口 実はマエストラとは大学時代からの知り合いです。いつかご一緒させていただきたいとずっと思っていて、今回ついにその機会が巡ってきたと喜んで最初の稽古に臨んだところ、マエストラの熱量のすごさに圧倒されました。友人という関係をこのオペラに持ち込んではいけないと瞬時に悟り、以来ずっと一定の距離を置いて、尊敬するマエストラとして接しています。オペラが終わったらまた友人の間柄に戻ります(笑)。

『静と義経』の魅力はどんなところにあると思われますか?

『静と義経』
PDF(638KB)

田中 この作品の魅力に「芸事に生きた女性としてのプライド」が挙げられると思います。静は白拍子の名手と言われた女性ですから、誇りを持っている仕事は捨てられない。しかし義経と道ならぬ恋をして、彼に付いて行きたいと言うこともあれば、白拍子として歌い舞うこともある。恋や仕事、または母との関係など、揺れ動く思いに対して静がどのように折り合いをつけていくのか。仕事へのプライドを持った女性が、その芸を見せながらひとりの男性を愛し人生を歩んでいく際の心理の変化は、このオペラの魅力のひとつだと思います。2019年に生きる日本の女性がこのオペラを観たとき、もしかしたら1993年の初演のときとは違う感想を持たれるかもしれません。ということは、今から20年後、40年後はまた違うかもしれないという意味では、この先はまた違った演出がなされる可能性を秘めた作品だと思いますし、どのように演奏されるのかも楽しみです。今回は坂口さんと沢崎さんがどのような静をやりとげるのか本番前日まで楽しみにして、本番では「ああそういう風に終えたのか」と驚きたいですね。

坂口 このお話は静と義経が吉野の山で離ればなれになるところから始まるので、いきなりドラマチックなシーンからスタートというのがまずインパクト大ですね。しかもそのとき静はすでに身ごもっています。その後は頼朝の前で舞い、生まれた子どもは男の子だったので殺され、義経も亡くなり、自分も自害するという、ストーリーが目まぐるしく展開していくその速さも魅力だと思います。また、静と義経だけでなく弁慶や頼朝やほかのキャストのキャラクターがすごく個性的で、どこを見ても目が離せないという点も大きな魅力です。

都民芸術フェスティバルのウェブサイトをご覧のみなさまへメッセージをお願いします。

田中 日本オペラ協会創立60周年記念公演『静と義経』、郡愛子総監督のもと、馬場紀雄さん演出で稽古真っ只中です。

坂口 静御前として舞に歌に頑張っております。

田中 オーケストラピットには東京フィルハーモニー交響楽団のみなさんが入ってくださいます。

田中坂口 ぜひご来場ください!

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