第49回都民寄席 出演者インタビュー|2019都民芸術フェスティバル 公式サイト

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第49回都民寄席 出演者インタビュー

一龍斎 貞水(いちりゅうさい ていすい)

一龍斎 貞水さん
一龍斎 貞水さん

「講談は守るべきものと開拓すべきものがある」を座右の銘とする大看板真打。
その活動は多岐にわたり、自ら主催する「講談・湯島道場」や寄席の定席をはじめ、自治体主催のホール寄席、ディナーショウ、海外公演、学校公演など幅広い公演活動を精力的に展開。「講談師、夏はお化け、冬は義士で飯を食い」と言われるほど怪談噺と忠臣蔵は大切な読み物(演目)ですが、講談師として初の全編読みきり『四谷怪談』<全5巻>、『忠臣蔵・本伝』<全15巻>のCD化を実現。また子供向けの『一龍斎貞水の歴史講談』を著作。TV、ラジオなどに多く出演。幅広い層に講談の魅力を発信し続けている。特に怪談に関しては特殊演出効果を駆使した「立体怪談」と、その取り組みが関心を呼び「怪談の貞水」と言われる。2002年 講談界初の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。

第49回都民寄席

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都民芸術フェスティバルでは今年度から「講談の会」として新たに講談の公演を上演することになりました。講談は軍記や物語などを講義解釈するので“講釈”と言われ、そのジャンルも多岐にわたるそうですね。一龍斎さんにとって講談とはどのような芸能でしょうか。

講談には長い歴史があり、今から約400年前に赤松法印という人物が徳川家康の前で『太平記』を講じたのが始まりと言われています。ただ、何が元祖かという話には諸説あります。
難しいこともわかりやすく講釈することから講釈師とも言われ、ジャンルは三方ヶ原などの「軍談」、赤穂四十七士などが活躍する「義士伝」、大岡越前などが活躍する「政談」、鼠小僧など泥棒が出てくる「白波物」などに分類できます。笑いあり涙あり、さらに娯楽として楽しんでもらうだけでなく、難しい話をわかりやすく講釈して指導するという2つの「顔」があることも講談の特色です。
また、講談師は自分の口調、声柄、肺活量にあった上でしゃべる商売なので、「ここのところでこういう風にやらなくてはいけない」といった法則はないと思っています。

同じ寄席の話芸である講談と落語はよく比較されます。講談は史実に基づいた内容が中心であるのに対して落語は創作性が濃いストーリーであること、講談では張り扇で釈台(机)を叩き、調子よくメリハリをつけて語るといった特徴があることのほかに、どのような違いがあるでしょうか。

講談も落語も硬いことばかり言っていたらお客様が飽きてしまいますから、笑わせる場面もありますよね。落語家がやると「人情噺」となり、講談では「世話講談」となります。内容は同じでも落語家がやっているものを講談と言わないのは、しゃべり方が違うからです。講談は独特の「講談調」とでもいうリズムがあり、張り扇と釈台といった小道具を巧みに用いることで、リズミカルな話芸がより際立ちます。この話芸の妙味こそ講談の魅力と言えます。

一龍斎さんは高校入学と同時に講談の世界へ入られたそうですが、どのようなきっかけで講談の道を選ばれたのですか。

小学生の頃から勉強よりも学芸会や運動会に夢中になる性格であったことや、たまたま身近に講談師がいたということが大きいですね。「勉強のできない奴がいやいや勉強するよりも、好きな仕事を早く覚えたほうが親のためになる」という考えもあってこの道に進み、気づいたら講談に惚れてやめられなくなっていました(笑)。

一龍斎 貞水さん

一龍斎さんは「怪談の貞水」とも称されます。特殊な演出効果を駆使した立体怪談はどのように生まれたのですか?

私がこの世界に入った頃の講談界は老大家ばかりで、若い方がなかなか寄席に足を運んでくれませんでした。同級生の友達が見に来てくれても客席がお年寄りばかりなのに驚いて、もう一度来てくれようとはしません。なんとか若い人にも来てもらいたい、私の講談で楽しんでもらいたい、そのためにはどうすればいいだろうと考えた時に人気があったミュージカルです。ミュージカルは「芝居」「踊り」「音楽」「背景」という要素があり、「民謡講談」を考えました。講談はそもそも芝居のようなものですし、民謡が音楽、それに合わせて踊る人がいて、その民謡が生まれた背景を話すのだから、これはもう立派なミュージカルじゃないかと。そこで将棋棋士・坂田三吉の生涯を描いた『王将』を講談ミュージカルに仕立てて披露しました。これが、立体怪談が生まれる素地になったのです。

講談だけでは食べていけないからと、キャバレーで司会の仕事をしていた時のことです。ある日怪談ショーという出し物がありました。陳腐なセットでお化けに扮したアルバイトの男子が場内を駆けずり回っているだけでそこそこ受けているのを見て、これなら講談ミュージカルで使った照明のほうがよほど立派だと思い、私も演出を工夫して怪談を披露したところ、大いに盛り上がったのです。これが立体怪談の始まりでした。
とはいえ、これはあくまでもキャバレー用の怪談であり、講談でお客様に喜んでいただいているのではないと思っていましたから、おのずと「講釈場で披露するちゃんとした怪談も覚えなければ」となりました。
実は講談でいちばん難しいのは怪談なんです。脅かしたり驚かしたりするのはお化け屋敷のやり方です。けれど講談の怪談は話芸で怖い、恐ろしいという感情を表現します。つまり「なぜ幽霊になってまで生き続けなければいけないのか」、「なぜその人がそこまでたたられるのか」といった人と人とのつながりを語る芸がなければ、怪談は怖くなりません。だからこそ、怪談は講談師にとって登場人物のデッサンを描きだすことが高いハードルの1つなのです。

講談界で初の人間国宝であり、講談協会の会長も務められている一龍斎さんから見て、これからの講談界はどうあって欲しいと思われますか?

これまでに講談とジャズダンス、講談と京劇など、異なるジャンルの芸能と共演してきました。今後の講談界もこういった試みはどんどん行っていくべきだと思いますし、これからはますますジャンルの垣根が取り払われていく時代になっていくと思います。
その時代に適応した講談でその時代のお客様が喜んでくださってこそ、伝統を守ったということになります。今の時代を生きているわれわれが明治時代の講談をそのままやったところで、伝統を守ったことにはなりません。江戸時代には江戸の講談が、明治時代には明治の講談がありました。明治時代などは新しい講談が流行し、主人公がアメリカに行ったなどという話ありましたし、戦争中になると戦争賛歌のような話ばかりでした。講談は時代を反映するものでもあります。

2020年へ向けて日本的な文化に対する関心が高まっていますが、講談の魅力は日本語のわからない外国人にも伝わると思われますか?

2005年に講談師としては初のヨーロッパツアーを行いました。声をぴったり合わせたタイミングの字幕など、スタッフも尽力してくれたおかげで好評を博しました。本来は日本人が日本語で日本人に聴かせるための芸ですから、日本語をまったく知らない外国人にわかってもらおうとするのが無謀といえば無謀なのですが、講談ならではのリズミカルな口調や醸し出す雰囲気、そしてどんぴしゃのタイミングで表示される字幕の効果もあって、とても受けました。ドイツでは馬の競争の話をドイツ製とアメリカ製の車の競争にしてドイツ製が圧勝するという話にしたら、大いに盛り上がりました。

都民寄席で公演される「三村の薪割り」は牧割りに扮した赤穂浪士と刀研ぎとの交流を描いた話です。見どころなどを教えてください。

人と人とのつながり、ここに注目していただきたいですね。赤穂浪士の青年と刀研ぎの老人が親しくなり、討ち入り後に青年の正体を知った刀研ぎが涙する。人間というのはかくあるべきというか、こういう了見で生きていくべきだということでしょうね。この話は赤穂浪士と刀研ぎを通して人の心を語っています。人を思いやる気持ちや技に対する敬意など、人の世とはこうして支え合い助け合って成り立っているのだということを、この話から感じてください。

一龍斎 貞水さん

講談初心者があらかじめ知っておいた方がいい予備知識などはありますか?

講談はなにしろ聞けばいいんです、予備知識などむしろないほうがいいですよ。「なんとなく聞いたらおもしろかった」でいいんです。なまじ知識があると「この話はここで笑わないと通じゃない」などと考えてしまうでしょう。講談は笑いもあれば涙もある、悲しくなったら泣けばいい、つまらないと思ったら途中で帰ればいい(笑)。ぜひ先入観も固定観念もない状態で聞きにいらしてください。

都民寄席を楽しみにしている方々に一言お願いいたします。

講談を聞いてわれわれが語りだす喜びと悲しみ、笑いと涙、そういったようなものを味わっていただくと大変うれしいと思います。どうぞごゆっくりお楽しみください。

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