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第48回 邦楽演奏会 出演者インタビュー
須田 誠舟(すだ せいしゅう)
須田 誠舟さん
琵琶奏者。1947年東京生まれ。
1968年、辻靖剛氏に師事し薩摩琵琶の指導を受ける。
1970年、日本琵琶楽協会主催「琵琶楽コンクール」で優勝。文部大臣奨励賞を受賞。
1991年、金田一春彦氏に師事し平曲の指導を受ける。
国立劇場主催「邦楽鑑賞会」、日本琵琶楽協会主催「琵琶楽名流大会」、横浜能楽堂「平家物語の世界」等への定例的な出演のほか、各種邦楽公演への出演、テレビドラマや演劇作品での琵琶指導なども行う。文化交流のため香港、イギリス、ドイツ、ポルトガル、オランダ、イスラエル、中国等海外諸国での演奏も多数。
日本琵琶楽協会理事長、薩摩琵琶古曲研究会会長、薩摩琵琶正絃会理事長
第48回 邦楽演奏会
琵琶の歴史や種類について教えてください。
琵琶は奈良時代に大陸から伝来した楽器と言われていますが、その歴史には諸説あります。琵琶も各種あり、雅楽の演奏に使われる楽琵琶(がくびわ)からさまざまな琵琶が派生しました。
楽琵琶はとても大きいため、持ち運びしやすいサイズに改良されたのが平家琵琶です。『平家物語』で知られる平家琵琶は語りの伴奏楽器としての色合いが強く、江戸時代には譜本(ふほん)も発達しました。国語学者の金田一春彦先生は長年にわたって『平家正節(へいけまぶし/へいけせいせつ)』の譜本を研究され、平家琵琶の研究書も上梓されました。ほか、お経等の伴奏楽器として使用されたものに盲僧琵琶もあります。
私が演奏する薩摩琵琶は今から約500年前、島津日新公によって始められたものです。若い武士の心身の健全な育成に役立てるため、盲僧琵琶を改良して武家音楽としての薩摩琵琶を普及させました。明治維新によって薩摩琵琶の奏者が上京したことで、現在の薩摩琵琶は鹿児島よりもむしろ東京で盛んになっています。また、盲僧琵琶に薩摩琵琶の弾法を取り入れたものに筑前琵琶があります。ほかにも錦琵琶や肥後琵琶などさまざまな種類がありますが、雅楽用の楽琵琶以外は基本的に語りながら演奏する「語りもの芸能」として受け継がれてきています。三味線等の和楽器の多くは歌舞伎の音楽にも取り入れられ、なじみの多いものとなっていますが、琵琶は舞踊に合わせて弾くこともほとんどなく、そういう点では、琵琶は邦楽の中でも少し異質な楽器といえるかもしれません。
なお、薩摩琵琶は桑の木で作り、中は空洞になっています。弦は絹糸を4本よったものです。現在残っている琵琶専門の楽器店は虎ノ門の「石田琵琶店」1軒のみです(平成18年度文化庁選定保存技術認定)。
平家琵琶
薩摩琵琶
奏法の特徴について教えてください。
薩摩琵琶は武士の音楽ですから、大きな撥(ばち)を叩きつけるように弾くことが特徴です。その力強い奏法は打楽器を彷彿させるかもしれません。一貫して大きな声で元気に歌い、かつ固定した節があるので、語りの内容によって声を小さくするといった表現方法は用いません。一方、平家琵琶の場合は琵琶をかき鳴らしたりその音色で情景を表現したりするのではなく、語りの合いの手のような役割を果たします。また、非常に時間をかけて語るのが特徴で、有名な「祇園精舎の鐘の声」というフレーズだけでも1~2分かかります。このゆっくりしたテンポを現代の人は退屈に思われるかもしれませんが、この「間」があるからこそ、人々は波間に揺れる平家を乗せた船を思い浮かべることができるわけで、むしろ平家琵琶の魅力と言えるでしょう。
須田さんの琵琶との出会いについてお聞かせください。
詩吟が好きだった父の影響で、小さな頃から邦楽に親しんでいました。琵琶の演奏家が詩吟の先生を兼ねることも多いので、おのずと琵琶に触れる機会にも恵まれていました。琵琶を本格的に始めたのは大学2年生のときです。たまたま自宅のそばに薩摩琵琶の伝承者である辻靖剛先生の稽古場があり「毎日でもいらっしゃい」と言ってくださいました。当時の大学は学生運動の真っ只中でろくに授業がなかったので、本当に毎日辻先生の元に通って教えていただきました。また、平家琵琶は金田一春彦先生からご指導いただきました。本格的に琵琶を習い始めたのが大学生と聞くと遅いと思われるかもしれませんが、実は琵琶は子ども向けに小さなサイズに作っても音が出ないのです。そのためある程度体が大きくならないと琵琶を扱いにくいということで、大人になってから始めるのが一般的です。
海外での演奏も数多く経験されていらっしゃいますが、現地での反応はいかがですか。
これまでヨーロッパで演奏する機会が多かったのですが、歌については発声方法への関心が高かったですね。海外ではあまりなじみのない発声なのかもしれません。また、薩摩琵琶もあれほど大きな撥(ばち)で叩いて弾くというのが珍しいようで、非常に興味を持たれる方が多かったです。
中国の琵琶と日本の琵琶の弾き比べの演奏会をするということで、中国の中央音楽学院に招かれたこともあります。そこには中国の琵琶や二胡などの伝統楽器のみで構成された楽団があって、伝統音楽の継承に力を入れているのがよくわかりました。ただ、文化大革命の際に古い楽譜が処分されてしまったため、平家琵琶のような譜本ではなく数字譜を用いています。また、中国でも昔は撥(ばち)で琵琶を弾いていましたが、現在は爪(つめ)をつけて弾くスタイルになっています。同じ琵琶でも日本と中国でそのような違いがあるということですね。
若い演奏家の育成や伝統音楽の継承に関してはどのようなお考えをお持ちでしょうか。
約50年前、辻先生が若い世代へ薩摩琵琶を受け継いでもらいたいと考えられたように、今私も同じ思いでいます。そのため、ひとりでも多くの方に琵琶に親しんでいただけるよう、いろいろな活動をしています。そのひとつが「正絃会」という薩摩琵琶の同好会による、月に一度の演奏会です。正絃会は大正5年に始まり、戦時中は休会したこともありましたが戦後間もなく復活し、毎月開催されています。会員は大学生から80歳を超えた方まで老若男女、さまざまな職業の人が集まっています。2年程前から稽古を始めたIT関連の仕事をしている若い男性は、薩摩琵琶の曲によって歴史上の人物やその生きざまを知り感銘を受けたと話していました。琵琶の音色がとても魅力的だとも言ってくれており、若い琵琶奏者が育っていることをうれしく思います。また、各流派をまとめた日本琵琶楽協会でも琵琶の普及活動を行っています。
今回の邦楽演奏会の演目『彰義隊』の特徴や聞きどころなどを教えてください。
今回は「明治150年」がテーマということでしたので、この演目が相応しいと思い選びました。大政奉還により徳川幕府が瓦解する中、慶喜側近の旧幕臣を中心として結成されたのが彰義隊です。慶喜の護衛、江戸警備の名目で上野寛永寺に立てこもりますが、官軍によって壊滅します。この義を貫く姿をうたったものが『彰義隊』です。1曲30分ほどですが、今回はコンパクトにまとめて20分ほどとなっています。聞きどころとしては薩摩琵琶ならではの「崩れ」という奏法です。撥(ばち)を叩きつけるように激しく演奏することで、戦場の猛々しい空気や臨場感を味わっていただけると思います。薩摩琵琶の魅力に触れていただくとともに、ほかの演目と合わせて伝統音楽の素晴らしさを感じていただける機会となることを願っています。
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