名取事務所公演『渇愛』稽古場訪問&インタビュー|2018都民芸術フェスティバル 公式サイト

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名取事務所公演『渇愛』稽古場訪問&インタビュー

名取 敏行(なとり としゆき)

名取 敏行さん
名取 敏行さん

劇団 浪漫劇場、五月舎、劇団俳小を経て名取事務所 を1996年設立。俳小時代は演出家早野寿郎の演出助手を長く勤め、演出作品も何本かある。名取事務所では現代イプセン連続公演12作品を終え、最近では別役実海外交流シリーズをスタートし、海外での公演も多い。カナダ演劇シリーズも好評で特に2015年2月公演「ベルリンの東」は高い評価を受けた。2018年2月「屠殺人 ブッチャー」で第25回読売演劇大賞 優秀作品賞受賞。
又国際イプセンフェスティバル東京のプロデューサーでもある。

寺十 吾(じつなし さとる)

寺十 吾さん
寺十 吾さん

1964年生まれ。92年、劇団「tsumazuki no ishi」を結成、主宰として作・演出・出演をこなす。俳優・演出家として幅広く活躍中。近年の主な出演舞台に、小山ゆうな演出『人民の敵』、日澤雄介演出『あの記憶の記録』、天野天街演出『真夜中の弥次さん喜多さん』、倉持裕作・演出『お勢登場』など。演出舞台に、高木登作『奇想の前提』、竹内銃一郎作『あたま山心中~散ル、散ル、満チル~』『関数ドミノ』など。北村想作品は『虎☆ハリマオ』『悪夢くん』や、シス・カンパニー「日本文学シアター」では『グッドバイ』『草枕』『遊侠沓掛時次郎』『黒塚家の娘』と全作の演出を手がけ好評を博している。

名取事務所公演『渇愛』

公演情報はコチラ

今回、韓国の劇作家キム・ミンジョン氏に新作を委嘱した経緯をお聞かせください。

名取 4年前に『海霧』という韓国映画を観たとき、作品自体に感心しましたし、その原作が、事実を基に30代の女性作家が書いた演劇作品の戯曲だということにも興味を持ちました。それでぜひ日本で上演する本を書いてもらいたいと思い、今回の委嘱にいたりました。ちなみに舞台の『海霧』は2007年に韓国で上演され、その年の韓国演劇ベスト7に選ばれています。
今回の作品も事実を基にした話です。韓国の日常生活での常識や感覚が日本で受け入れられるかという部分のやりとりなどに1年ほどかかりましたが、最後は演出の寺十さんにも目を通してもらった上で戯曲が完成しました。キムさんの戯曲はこれまでリーディング公演で上演されることはあったようですが、舞台公演として日本で上演されるのは今回が初めてです。彼女とはこの作品限りでなく、今後も継続して一緒にやっていきたいと思っています。

名取事務所では国内外問わずさまざまな劇作家との共同作業に取り組んでいらっしゃいますね。

名取 日本と海外でのスタンスの違いは特にありません。その作品が日本に合うかではなく、自分が面白いと思えたかを重視しています。国外の劇作家の作品を通して感じるのは、移民や多様性といった、日本人には今ひとつピンとこない社会的な課題が生々しくリアルであるということです。そのため、日本人にとってわかりにくいテーマは、あえて外国の方が書いた作品で提示するという方法を取ることもあります。それも演劇の持つ力のひとつだと思います。原爆を例にとってみると、被爆国である日本とほかの国から見た原爆ではとらえ方が異なることもあるし、僕らでは見えなかったり気づかなかったりするところが、海外の人によって浮き彫りになることもあります。そういう観点からも、今後も海外の作家に書いてもらうというのは続けていきたいと考えています。

プロデューサーとして心がけているのはどんなことでしょう。

名取 「小さく・狭く・深く」です。僕にとっての演劇とは、役者の息遣いやささやき、体温が届く範囲のサイズで上演されるものです。500席を超えるような劇場では、どうしても演劇でないものの要素を加味しなければならなくなってしまうので、なるべく小さな規模の劇場に合わせた芝居を作りたいと思っています。また、作品を選ぶに当たっては「過剰・極端・過激」の3Kが僕のテーマで、いわゆるタブーを扱うようにしています。というのも、僕は人間の本質は暗部に表れると思っているからです。たとえば犯罪も人間の本質を表すもののひとつであり、社会が反映されたものでしょう。僕はそういうものに惹かれます。ハッピーエンドはどうも嘘くさく感じてしまう。寺十さんに出演してもらった『ピローマン』も犯罪を扱った作品でした。そういう人間の暗部から本質を見据えるような作品を小さな劇場で見ていただき、コアな観客がどんどん広がっていくというのが僕にとっては演劇的ですね。

稽古風景

プロデューサーの名取さんから見た寺十さんの演出の魅力はどんなところですか?

名取 2016年の『記念碑 [The Monument] 』や2013年の『ピローマン』いう作品では、役者として出演していただきました。彼は役者としてもコアで得がたいものがありますが、かねてから演出もすごく向いていると思っていました。というのも、非常にしつこくて(笑)、執着しているものがあるんです。実はこれ、演出家の資質として一番大事な要素なんじゃないかと思っています。僕が演出家を目指しながらもなれなかったのは、まさにこの執着心が足りなかったせいでした。演出家を見ていると「こんなにしつこいのか、こんなに執着するのか!」と驚かされますから。寺十さんは付き合っているうちにそういう演出家としての資質を持っていると感じたので、今回の演出は寺十さん以外には考えられませんでした。

寺十さんはこの戯曲を最初に読んだとき、どのような感想を持たれましたか。

寺十 最初に読んだときは、音やしぐさなどの演出効果的なことが結構こと細かに書いてあって、ト書きが非常に多いという印象を受けました。また、シーンがいろいろ飛んだりコラージュだったりと、ちょっと映像的な戯曲だなとも感じました。ト書きについては基本的に本の通りにやりたいと思っていますが、それは書いてあることをそのまま舞台上で実際にやることが目的なのではなく、それをやることで「何を見せたいのか」という点が演出の上では大事です。セリフにしても同じです。そのセリフを言うことそのものが目的ではなく、それを言わせることで書き手は何を見せたいのか、そこを僕は考えます。だからト書き通りにやってみたものの期待した効果が得られなければ、どんどん変えていきます。「こう書くことでこれを見せたい」のト書き部分を変えることで「これを見せたい」がより鮮明になることもある、そう思っています。

役者として出演される場合と演出される場合では、作品に対する向き合い方は異なりますか?

寺十 吾さん

寺十 作品に対する向き合い方そのものは変わらないですね。ただ役者の場合は演出家と、演出の場合は役者との信頼関係を大事にします。名取さんは作品を探すアンテナがすごいというか、選んでくる作品のセンスがいつも面白いんです。あまり見たことのないような作品が多く、役者としては「やりませんか」と言われたら「ぜひ!」と思うものばかりです。

本作の演出では、民族性の違いあるいは共通点を意識されましたか。

寺十 違いは感じました。たとえばセリフに「!」マークが多いとか、人間関係の距離感といったところです。触るとか抱きしめるとか、人と人が接触する頻度や感情をむき出しにする頻度が日本人に比べて非常に多いので、日本の役者さんが演じるときに「ここまで怒るかな?」と考えたりもしました。韓国は日本より感情をあらわに表現するのがひとつの文化なんでしょうね。また、今回の作品の中に出てくる「ムーダン」といういわゆるイタコ的なものへの関心や、日常におけるムーダンの置き方などは独特だと思います。

会場は下北沢小劇場B1です。おふたりにとって小劇場演劇とはどういうものでしょうか。

名取 今回の作品もまずは「劇場ありき」で、小劇場のサイズを意識して作りました。閉鎖された空間でやる作品だと思うので、大きな劇場でやるつもりはありません。この芝居でお客さんに感じてほしいのは、「人はどこまで人を理解できるのか」、そして「ひとりに起こったことはすべての人に起こる可能性がある」ということです。舞台の上で起きていることは決して他人事でも遠い話でもなく、すぐ隣にある話だということを感じてほしいですね。あまり言葉にすることではないですが、あえて説明するならそういうことです。そして小劇場B1のようなサイズの劇場で1ステージでも長く続けられるのが僕の理想です。

稽古風景

寺十 みんなで作って積み上げた果てにできたものを見てもらう場所ですね。作り上げていく過程で心許なかったり曖昧だったりぼんやりしている部分があればそこは修正し、「こんなものができた」という最終的な結果を見てもらう場所が僕にとっての小劇場です。魅力はやはり、舞台とお客さんの距離が近く臨場感があることでしょうか。また、舞台が狭いのでいろいろ工夫しなくちゃいけなくて、発見と発明を繰り返さなければ成立しないことが多いんです。それは苦労する点である以上に、小劇場ならではの魅力であり醍醐味と言えるかもしれません。大劇場よりもよほど手こずりますが、その分すごいものができあがります。

都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧の皆さまにメッセージをお願いします。

名取事務所公演『渇愛』チラシ
PDF(2.14MB)

寺十 この作品は実話から発生した戯曲です。ある程度フィクションという形で再生はしていますが、目の前で行われる役者さんと役者さんの感情のやりとりは現実なわけです。実話をフィクションで立ち上げてまた現実の肉体に落としていくと一体どうなるのか、そこを見ていただきたいです。苦手かもと思いつつ見たら意外に「ゾクゾクする」という方もいるかもしれませんし、「やっぱり触れたくない」と感じる方もいるかもしれません。みなさんに観ていただくことで人間の本質について改めていろいろ考える機会になれば幸いです。

名取 最近は演劇を専門にしている人だけでなく、一般の方、特に若い人で小劇場に繰り返し足を運んでくれるリピーターが増えてきたと感じます。ぜひこの作品も観ていただいて、率直な意見を伺いたいです。

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