現代舞踊公演「魂のDance in Tokyo」より『グラナダーロルカー』稽古場訪問&インタビュー|2018都民芸術フェスティバル 公式サイト

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2018都民芸術フェスティバル 公式サイト

現代舞踊公演「魂のDance in Tokyo」より
『グラナダーロルカー』稽古場訪問&インタビュー

石井 智子(いしい ともこ)

石井 智子さん
石井 智子さん

5才からバレエ、9才からフラメンコを学び、14才で小松原スペイン舞踊団公演に初出演、その後、小松原庸子スペイン舞踊団のトップダンサーとして活躍。スペインをはじめ世界の大舞台を多数経験、スペイン人一流アーティストたちと共演を重ねる。
同舞踊団退団後は独自のステージ活動を展開。1990年に「石井智子フラメンコスタジオ」を設立。1998年には文化庁芸術家在外研修員としてスペインに派遣される。その後も毎年渡西を繰り返し、自身の研鑽、舞踊団を始めとする後進の育成、地域へのスペイン舞踊の文化的普及にも力を入れている。
2016年に現代舞踊協会制定・河上鈴子スペイン舞踊賞、2017年には第48回舞踊批評家協会賞を受賞。
平成29年度(第72回)文化庁芸術祭大賞受賞。

現代舞踊公演「魂のDance in Tokyo」

公演情報はコチラ

都民芸術フェスティバルの現代舞踊公演では、毎年3人の振付家による舞踊作品を紹介しており、今回は菊地尚子さんによるコンテンポラリーダンスの作品、野坂公夫さん、坂本信子さんによるモダンダンスの作品とともに、石井さんによるフラメンコの作品が選ばれました。石井さんがフラメンコを始められたきっかけをお聞かせください。

小さい頃は体が弱く喘息持ちで、体を動かし体力をつけて欲しいと考えた両親によって、いろいろな習いごとをしました。そのひとつが5歳から始めたクラシックバレエです。ほかの習いごとは続きませんでしたが、バレエだけは楽しくてずっと続けていました。そのバレエの先生がフラメンコも教えていらしたんです。私は最初、フラメンコに「足を細かく動かして難しそうな踊り」という印象しか持っていなかったのですが、母がとても気に入って「フラメンコもやってみたら」とすすめてきました。それが9歳のときです。それでしばらくはバレエとフラメンコという二足のわらじだったのですが、小学生の頃からもう「将来は踊りを仕事にする」と心に決めていたので、どちらか1本に絞ることにしました。中学2年ですでに身長が168cmあり、これではクラシックバレエは無理だな、男性が持ち上げられないなと(笑)。それに心のどこかで、本当はフラメンコにより惹かれていたのだと思います。それでフラメンコを選び、小松原庸子先生の研究所に入所しました。

2017年の『ちはやふる -大地の歌-』では文化庁芸術祭大賞を受賞されました。

昨年はスペイン舞踊と出会って40年、舞台作品を作り始めて10年という節目の年でもあったので、「自分がこれまでの人生で培ってきたものを表せれば」という思いで手がけたこの作品には並々ならぬ思いがありました。それだけに受賞は本当にうれしいお知らせでした。
小さなころからフラメンコに夢中でしたから、常に私の視線はスペインにあり、「和」のものに目が向くことはありませんでした。それが日本とスペインを往復する日々が続くほど、スペイン人のアーティストと共演するほど、自分が日本人であることに気づかされ、「ああ、私は日本人なんだ」と実感するようになりました。だからこそ『ちはやふる -大地の歌-』が生まれたのだと思います。
この作品では私がインスピレーションを受けた百人一首に和楽器で音楽を付け、そこに振付をしていきました。ただフラメンコの振りを当てはめればいいというわけではなく、百人一首に合い、和楽器にも違和感のない振りでなければなりません。すべてが融合した一体感を出す作業が大変で、完成までにとても時間がかかりました。大変でしたが、和楽器の音色を聴くと心が騒ぎ、自分が日本人であることを肌で感じることができましたし、自分の頭や心で描いていた世界が実際に形になった喜びは大きいものでした。

スペインと日本の相違点はどのように感じていらっしゃいますか?

スペインと日本では、表現方法が逆と言っていいほど異なります。スペイン人は、オブラートに包んで言うことに慣れている私たち日本人からすれば、思わず「えっ」と思ってしまうほどストレートにものごとを言ってきます。けれど「思ったことをとりあえず言ってみるという気質」だとわかってくると、こちらもイエスやノーとはっきりいいやすくなります。裏表がないと言えるかもしれませんね。
ただ『ちはやふる -大地の歌-』を通して、スペイン人の情熱的なところというのは、実は日本人も含めて全人類に共通しているのではないかと思うようになりました。それをどう表現するかが違うだけで、心の奥底に抱いている熱は同じなんじゃないかと。たとえば「長からむ 心もしらず 黒髪の 乱れてけさは ものこそ思へ」という百人一首は「あなたのお心が末永く変わらないかどうかわかりません。別れた今朝の私は、黒髪が乱れているように心も思いも乱れ、物思いに沈んでいます」というひとりの女性の情熱的な思いを歌っている歌です。日本人は黙って耐え忍ぶイメージがありますが、その思いをわっと出しているところはスペイン的でしょう?「日本もスペインも、人間は一緒だよ」という思いをこの作品で表現したいと思いました。

「たおやかなフラメンコ」として語られる石井さんの舞踊ですが、身体表現で大事にされているのはどんなことでしょう。

踊りというのは自分の持っている感情を体全体で表現するものです。それを観て感動していただくためには、「ここでこうしよう」とか「こうやって盛り上げよう」など、あえて作らないようにしています。舞台の上では自分を無にして、その状態で自然に内側のものがすっと出るように踊っています。ちょっと抽象的かもしれませんが、自分の意識をいったん「内」に向かわせ、そこから頭では考えずに無の状態で「外」に出すという感じでしょうか。そうすると魂の部分が伝わる気がします。

石井 智子さん

現代舞踊としてのフラメンコの魅力について、特に「同時代性」を取り入れる工夫などはありますか?

スペインには各地方に踊りがあり、舞踊の宝庫のような国です。アンダルシア地方で生まれたフラメンコもスペイン舞踊のひとつですが、ずば抜けて知名度が高く、ユネスコ無形文化遺産にも登録されユニバーサルな踊りになりつつあります。
フラメンコ界も随分変わり、昔ながらのギタリストがいて、歌い手がわっと盛り上げてというスタイルは古典になりつつあります。かつてはフラメンコ界の異端児扱いされた人や踊りが、今や抵抗なく受け入れられてもいます。踊る側だけでなく観る側も変わったのでしょうね。私も自分の昔の作品を見ると変化を感じます。芯の部分に共通しているものは普遍だとしても、年齢を重ねることで変わっていく感性に応じて、作風は変えていきたいと思っています。

普段は講師としてもご活躍されていますね。「フラメンコに憧れているが習い始めるハードルが高い」と感じている方もいるかと思います。

フラメンコはリズムを取るのが難しい上に、カスタネットも使って足も叩いて振りも覚えてと一度にやらなければいけないことが多く、「こんなに難しい踊りは無理」と思われがちです。けれどその分、1曲踊れるようになったときの達成感は大きいですし、難しいからこそやりがいがあると思います。パートナーも必要ではなく、ひとりで踊れるのもいいですよね。言葉を使わず喜怒哀楽を出せるので、普段は感情をあまり表に出さなくても、実は心の奥に秘めているとても情熱的な部分が出てくるような方もいらっしゃいます。短期間であきらめず、まず半年は週に1度レッスンを受けてみてください。そうするときっとフラメンコの楽しさが見えてきますから。私の教室には最年少で2歳、最年長では70歳過ぎてからフラメンコを始めた方もいらっしゃいます。何歳から始めてもOKです。

今回の都民芸術フェスティバルでの演目『グラナダ ―ロルカ―』とは、どのような作品なのでしょう。

現代舞踊公演 魂のDance in Tokyoチラシ
PDF(304KB)

中学生の時からずっと大好きだったスペインの詩人、ロルカの詩をテーマにした作品を作りたいと長年思っていました。その夢が叶い、2013年から2016年にかけて『ロマンセロ ヒターノ イ ジャント』『カンテ・ホンドの詩』『タマリット』という3つの詩集をテーマに、ロルカ3部作をつくりました。このように詩に音楽と振りを付けることは、スペインではよく行われています。今回はぜひロルカの世界を表現したスペイン舞踊を観ていただきたいと思い、この3部作から一部を抜粋、振りを変えた4曲をお届けします。
ロルカはスペインのグラナダという町で生まれ育ちました。グラナダは美しい町ですが、複雑な暗い歴史も併せ持っています。アルハンブラ宮殿の向かいにあるサクロモンテの丘には今もロマ族の方たちが住み、彼らの洞窟住居が残されています。かつて洞窟暮らしには大変なことも多く、彼らにとって唯一の楽しみが歌ったり踊ったりすることでした。今回のオープニングでは、そうしたロマ族に伝えられてきた民謡と踊りを見ていただき、子どもから大人まで入り混じって楽しく踊る中にも、ロマの人々の生活や歴史を感じていただければと思います。次はロルカ1作目で踊った『月よ、月よのロマンセ』です。鍛冶屋の少年が月を見つめすぎて最後は死の世界に連れられてしまうというロマンティックかつ抒情的な詩で、私が月、私の息子が鍛冶屋の少年役を演じます。3曲目も1作目からの抜粋で、音はバイオリンのみという『夜の図式』です。月明かりの中、何か不吉な予感をさせるグラナダの夜をイメージして、舞踊団のダンサーたちが踊ります。最後は3作目『タマリット』から『ジャスミンと雄牛』です。ロルカのこの詩において、ジャスミンはか弱き存在、雄牛は強さの象徴です。つまり強者とそれに従うしかなかった弱者のことを共に歌った詩で、私を含む16人による群舞で表現します。

稽古風景

『グラナダ ―ロルカ―』の見どころは?

今回の公演では、いわゆる「真っ赤なドレスを着てバラの花をくわえて情熱的に踊るフラメンコ」といった一辺倒のイメージからはかけ離れた多彩な踊りを見ていただけます。グラナダ、スペインの華やかでありながら暗さも併せ持つ部分も見どころですし、バイオリンだけで踊る曲などは「こんなスペイン舞踊もあったのか」と驚かれるかもしれません。一般的なフラメンコの固定概念を覆すような踊りをご覧いただけると思うので、その豊かなバリエーションをぜひ会場でお楽しみください。

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