劇団俳優座公演『いつもいつも君を憶ふ』稽古場訪問&インタビュー|2018都民芸術フェスティバル 公式サイト

読み上げブラウザ用メニュー

メインメニュー

このページの本文へ

  1. Home
  2. 特集
  3. 劇団俳優座公演『いつもいつも君を憶ふ』稽古場訪問&インタビュー

2018都民芸術フェスティバル 公式サイト

劇団俳優座公演『いつもいつも君を憶ふ』稽古場訪問&インタビュー

有馬 理恵(ありま りえ)

有馬 理恵さん
有馬 理恵さん

俳優。
劇団俳優座所属。
高校時代に『釈迦内柩唄』(水上勉作・浅利香津代主演)を観て衝撃を受け芝居の道へ。様々な作品に出演しつつ、1999年より『釈迦内柩唄』をライフワークとして全国各地で500回におよぶロングラン公演継続中。
2013年日本新劇俳優協会
「詩と朗読 Mini Festival」観客賞 受賞。

加藤 頼(かとう らい)

加藤 頼さん
加藤 頼さん

俳優。
劇団俳優座所属。
俳優座公演では主要キャストを演じ
父、加藤剛との親子共演も多数。
出演作
NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』
NHKBSプレミアム『大岡越前』
映画『ふしぎな岬の物語』
ほか 多数。

深作 健太(ふかさく けんた)

深作 健太さん
深作 健太さん

演出家・映画監督
脚本家・プロデューサー
映画『バトル・ロワイアル』にて
第24回 日本アカデミー賞優秀脚本賞
第20回 藤本賞 新人賞 受賞。
おもな演出作品
『里見八犬伝』 『罠』 『ダナエの愛』
『スルース~探偵~』
ほか 多数。

劇団俳優座公演『いつもいつも君を憶ふ』

公演情報はコチラ

構想から約2年とお伺いしています。『いつもいつも君を憶ふ』はどのような作品なのでしょうか。

第48回 都民寄席チラシ
PDF(422KB)

有馬 俳優座が設立されて74年になります。数年前から、俳優座のその歴史の延長線上にあるような、そして演劇人として何か世に問えるような作品を作れないだろうか思っていました。実際に話が動き出したのは、同じような思いを抱いていた加藤頼君と「そういう作品を作りたいね」という話をしてからです。よし、ぜひやろうということになり、脚本や演出をどなたにお願いするかといった具体的な話へと進んでいきました。
まず脚本ですが、劇作家で俳優でもある山谷典子さんにお願いしました。Ring-Bong(リン・ボン)という演劇ユニットを主宰し、過去と現在をリボンで結び未来へつなげる作品を多く生み出している山谷さんならば、今私たちが語り継ぎたいものを物語にしてくれると思ったからです。そして、作品の中で描かなければいけない歴史的事実や、大切なメッセージはありながら伝え方によっては作品が堅苦しくなってしまう恐れは常に感じることで、そこを打破していただくためにも、演出は深作健太さんにお願いしたいと思いました。現代の社会問題を演出に組み込みつつお客様の心をつかむという、深作さんの巧みな演出と演劇人としての気概に惹かれ、いつか俳優座で演出していただきたいとかねがね思っていたのです。

加藤 お二人に参加していただけることが決まってから4人で何度も話し合いを重ねた末、とある一軒家を舞台に、そこでの7度のお正月を通して1923年の関東大震災からの約100年を描くという構成が決まりました。モチーフになったのはソートン・ワイルダーの『ロング・クリスマス・ディナー』という作品です。そこから話を肉付けし、2021年までの約100年間を日本人がどう暮らしてきたのか、日本はどんな国だったのかを見つめると共に、若い世代が2021年以降をどう生きていくのかという問いも含めた話になりました。山谷さんは「一番小さなコミュニティは家族。そのミクロを描きながらマクロを描きたい」とおっしゃっていました。家族という最小単位にも時代は反映されるので、それを舞台だからこそできる表現で伝えたいと思っています。また、あらゆるもののデジタル化が進む現代社会の中で、舞台というアナログな2時間の世界を、時に仲間とぶつかりあいながらも共に時間をかけて作り上げるということ自体が、この作品で伝えたいメッセージの1つではないかとも感じています。

有馬 主役は時計で、役者が演じます。これは頼君の発案でした。俳優座の大御所、小笠原良知さんが2時間舞台で立ちっぱなしで時計の役をやるという、恐ろしい台本です(笑)。

加藤 舞台上の定点でひとつの家族を100年間見守り続ける存在が必要だと思ったのですが、人間では描きにくいので、その家にずっと置かれ続けてきた柱時計という設定ならばどうかと思ったところ、山谷さんがうまく脚本に組み込んでくれました。

壮大なスケールの物語を舞台上で表現するにあたって、どのようなことを重視して演出されたのでしょう。

深作 今回は74年続く俳優座の中で、過去100年の日本と日本人を振り返ろうという大きなテーマです。100年の間に日本は大きく変わり、家族の在り方も変わりました。しかし、時間と空間は変われど、そこに生きる人間の抱えている大切なものは変わらず、むしろ豊かに育ち続けるべきなのではないかという一筋の希望がこの戯曲には含まれている気がします。そこを100年という時間軸の中で描き、示したいと思いました。
また、俳優座を立ち上げられた千田是也先生や諸先輩方が残してきたものが若い俳優さんたちにどう伝わっていっているのか、稽古しながら日々考えています。なぜなら、僕はフリーの演出家として連綿と続く俳優座の74年という時間の中に飛び込み、そこに異世界を持ち込んでいるわけですから。僕が一石を投じて起こす波紋を俳優座はどう取り込み、新劇を代表する劇団として豊かな流れにつないでいくのかを、憧れの劇団とご一緒しながら絶えず考えています。

深作 健太さん

役者さんから見て、映画、映像作品も手掛ける深作さんはどのような演出家ですか。

加藤 作品をトータルにとらえてシーンを一つひとつ構築していくその積み重ね方に、いい意味でとても確かな計算があるところはさすがだと思います。また、役者をとてもよく見てくださっていると感じますし、それぞれの役者の力を引き出しお客様に伝わりやすい色を紡ぎだすことが非常に巧みな方です。

有馬 繊細でありながらダイナミックな演出をしてくださる演出家です。劇団も各役者も、深作さんから「愛情」というものすごく大きなプレゼントをもらっているような感じですね。だからこそ私たちもそれに応えなければならないという思いがあり、スタッフキャスト一同、絶大な信頼を抱いています。

深作さんは近年、演劇作品の演出に力を入れていらっしゃいますね。

深作 映画の撮影現場で育ったもので、そこは自由に呼吸できるホームという感覚があります。一方、演劇やオペラという外の現場は、僕にとっては自分から飛び込んで勉強する場所であり、そこでの表現者の「一瞬」に魂を揺さぶられます。また、映画は「瞬間」の寄せ集めを編集してひとつの芸術に高めていきますが、撮影は毎回がOKとNGの積み重ねです。演劇はどれほど演出家があれこれやっても結局は俳優さんがお客さんとその空間を作り出すものだと思うので、OK・NGがない、答えのない芸術です。その楽しさと苦しさが、僕にとってはすごく大切ですね。

俳優座は70余年の歴史を持つ日本を代表する劇団で、全国から俳優や演出家を志す人たちが集う場所でもあると思います。有馬さんや加藤さんにとって俳優座はどのような場所ですか。

加藤 僕の芝居経験は、父が所属しているこの俳優座の芝居を見るところから始まりました。また、初舞台は10歳、父が主演の俳優座公演です。そんな僕にとっての俳優座は今回の作品の時計のように、自分の芝居観や仕事全般を見守ってくれているような存在ですね。父がかつて「ほかの現場で仕事をしたり、色々なことに挑戦したりできるのは、俳優座という帰ってくるところがあるからだ」と言っていましたが、その気持ちもわかるようになってきました。

有馬 劇団に入って25年経ちますが、俳優座は私の家族という感覚です。しかも大家族なものですから考えや芝居も各々違いますが、困った時にはかならず助けてくれる人たちです。また、私にとっては勇気をもらえる場所でもあります。俳優座の創立は1944年2月と、戦争真っ只中でした。その状況で、演劇人が時代を切り開くために演劇をやり続けてきたことにものすごく勇気をもらっていて、私もそういう演劇人でありたいと思っています。

深作 俳優座のみなさんと1つの作品を作り上げている今、僕は友達の家のお正月に呼んでもらって一緒におせち食べている気分を毎日味わっています。人のつながりがある場所、それが生まれている場所は幸せですね。ただ激動の100年間の流れを作っている最中に「家族っていいな」と浸っている場合ではないぞという危機感もあり、自分のお正月気分と戦う日々です(笑)。

稽古風景

俳優座の公演をまだ見たことのない方に見ていただくため、取り組んでいらっしゃることなどがあれば教えてください。

有馬 映画でいう予告編を芝居でもやってみようと、今回の作品の予告パフォーマンスを作りました。3分バージョンから30分バージョンまで何種類も用意して、これまでに100か所以上回って披露してきました。それを見てくださった方がその場でチケットを買ってくださったり、ツアーを組んで団体で観劇に来てくださることになったりと、うれしい反響がたくさんありました。

加藤 演劇公演では、役者が発信したものをお客様が受け止めて舞台に返すという、いわば舞台と客席がキャッチボールをしながら芝居が進みます。ですから予告パフォーマンスを見てくださった方が客席にいらっしゃれば、それだけでいい意味での安心感につながりますし、客席からいただけるエネルギーでこちらもどんどん変わることができます。芝居は舞台から一方通行のものではなく客席と一体になって作っていくものだということを、予告パフォーマンスを通じて再確認することができました。

作品にフォーカスしたワークショップも盛況でした。俳優座さんは日頃からワークショップにも力を入れていらっしゃいますが、どのような方針で行っていらっしゃるのでしょうか。

有馬 多くの方に演劇の楽しさを知っていただく目的で開催しています。今回はお客様と共に作品を作りたいということで、そしてこの作品をより楽しんでいただくため、深作さんにもご協力いただいて開催しました。

加藤 ワークショップは参加された方から僕らが学ぶことも多々あります。まったく演劇経験のない方のセリフの説得力はすごいですよ。通し稽古が始まっている時期に自分のセリフを違う方の声で聴く機会ってあまりないので、「こういう風に読むのか」と驚かされ、自分の芝居を改めて見直すきっかけにもなっています。

都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧の皆さまにメッセージをお願いいたします。

深作 新劇は日本の演劇史の伝統です。その新劇の大きな柱である俳優座が今、この時代に何を発するのかを見に来ていただきたいですね。僕も外から参加させていただく演出家として、何を届けられるかということに全精力を傾けているので、新劇を見たことがない方も俳優座が輝いているところをぜひ見ていただきたいと思います。

有馬 私にとってこの作品は、自分の息子たちの世代に対するラプソディーです。自分の言葉では若い世代に伝えたいことを伝えきれないけれど、このお芝居を見てくれたらきっと伝わるし、私の思い以上のものを感じてくれるだろうと確信しています。これからの未来を生きる、次の世代の人達への願いが詰まった作品なので、ぜひ受け取っていただきたいです。

加藤 今の時代、自分の居場所に不安や冷めたものを感じたりすることもあると思います。この作品には「そんな時でもあなたのことを見ている人がいますよ」というメッセージが込められています。「いつもいつも君を憶ふ」という気持ちがみなさまに伝わるように、心を込めて演じたいと思います。

ページの内容終わり

このページの関連メニュー

TOPへ