ミュージカル『HEADS UP!』インタビュー|2018都民芸術フェスティバル 公式サイト

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ミュージカル『HEADS UP!』インタビュー

ラサール石井(らさーる いしい)

ラサール石井さん
ラサール石井さん

大阪出身。コント赤信号を結成し1980年花王名人劇場にてテレビデビュー。タレントとしてだけでなく、俳優としても出演多数。書籍、エッセイも執筆。
脚本・演出家としては小劇場から商業演劇まで幅広く数多くの作品を手掛ける。
オリジナルミュージカル『HEADS UP!』で第23回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。
最近の主な作品:出演 舞台「円生と志ん生」、WOWOW「天使のナイフ」、演出 舞台「夫婦漫才」、ファミリーミュージカル「ゲゲゲの鬼太郎」、「志村魂」など。

ミュージカル『HEADS UP!』

公演情報はコチラ

ミュージカル『HEADS UP!』の初演は2015年、KAAT神奈川芸術劇場での12公演でしたが、今回は再演の期待に応えて、全国5会場を巡る大規模なツアーの真っ最中ですね。

おかげさまでお客様の反応はものすごくいいです。特に12月14日の神奈川での初日は「待ってました!」みたいな方が多くて。とくに上田市のサントミューゼで行った長野公演は過去最高の盛り上がりで、上演しながら思わず涙が出たと役者さんも言っていました。この『HEADS UP!』は栃木県の黎明会館という架空の古い劇場を物語の舞台にしているので、地方公演でより臨場感が出たのかもしれません。

舞台写真

『HEADS UP!』を観るのが2度目、3度目といった方ならではの楽しみ方もあるのでしょうか。

ありますよ。最後にある仕掛けがあるんですが、それを知った上でもう一度ご覧いただくと、まったく違った見方ができるので、観れば観るほど楽しんでいただけると思います。また、最初は歌っている人に視線が集中しがちですが、2度目だと歌っていないほかの人を見る余裕もできます。そうするといろんな人がいろん舞台作りの動きをしていることがわかって、そこも面白いと思います。

今回の再演には初演のキャストがほとんど揃っていますね。

ミュージカル『HEADS UP!』チラシ
PDF(677KB)

これは奇跡的ですね。特に中川晃教君はミュージカルで引っ張りだこですから、普通はこんなにスケジュールを空けてもらえるなんてありえないんですが、「この作品が好きだから」とやりくりしてくれました。ほかの役者さんたちも「再演したい」という思いをもってくれていました。再演よりは次々と新しいことをやりたいという人もいますが、僕は再演が好きです。内容がより深まりますし、お客様が初演を観て「あの人にも見せたかったな」と思ってくださったとしたら、再演でその人を誘って一緒に観られるでしょう。そういうの、いいですよね。

舞台の裏方さんにスポットを当てたのはなぜですか?

芝居をやっている役者の多くは、それだけでは食べていけないので、男だとたいてい大道具のバイトをやっているんです。ということは、バイトでやっている裏方の仕事を、そのまま舞台で演じることもできるわけです。「裏方を主役にして、観客が見ることのない舞台の仕込むところを見せる。これは面白い」と思い、ゲネプロを舞台にした芝居を、以前新宿にあったシアタートップスで作ってみました。それが『HEADS UP!』のベースになっています。最初は小劇場でやるのがいいと思ったんですが、ふと「この話は一幕で仕込んで二幕でバラすという大きなミュージカルになるんじゃないか」と考えました。それから10年間、僕はこのミュージカルの構想を周囲に話し続けたんですが、みんな「いいね」とは言うものの、実際にやれるとは思っていなかったようで、誰も乗ってくれませんでした。それがようやくKAAT神奈川芸術劇場さんが手を挙げてくださり、2015年の初演にいたったわけです。裏方を主役にするってアイデアをブロードウェイで先にやられてしまったら、こっちは真似になってしまうので、とにかく誰かがやる前に最初にやりたいと思っていました。

舞台写真

役者さんたちは、再演ではどのような変化があるのでしょう。

2015年初演時の初日は、みんな受けるかどうかわからない状態でやっていたようなので、お客様の反応が良くて「こんなに反響があるのか」とびっくりしていました。それぐらい、みんないっぱいいっぱいだったということです。再演だとそういうバタバタはないので余裕ができますね。そうすると初演にはなかった「もっとこうしなきゃ」とか「ああすればよかった」といったことが逆に見えてきます。それはそれで良いことだと思いますが、僕としては、今考えると「この演出はちょっとおかしくありませんか」と突っ込まれたら怖いですね(笑)。

オリジナル楽曲も好評です。本作で作詞されていますが、作詞の際にどのようなことに気を使われたのでしょう。

できるだけ韻を踏むようにしています。たとえば「いつかきっと」という歌では、「ワンルームマンションとは名ばかりのアパートで一人、明日行くオーディションで歌う苦手なパートの稽古」と、「ション」と「パート」で韻を踏んでいます。韻を踏むことで気持ちの良いリズムになり、耳にすっと入ってきて、なおかつ後で読むと「おー」ってなるでしょう。

そもそもなぜミュージカルにしようと思われたのですか?

学生時代、早稲田ミュージカル研究会というところに入っていて、当時学生だった小池修一郎さんや宮本亜門さんなどと一緒に、よくミュージカル映画を観に行っていました。もともとミュージカルが好きだったんですよ。漫画の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が舞台化する際、アニメ版で主役の声を担当したご縁で、主役も作・演出もやらせていただけることになりました。それで『こち亀』をミュージカルにしたのが、僕の手がけた初ミュージカルです。けれど、お笑いタレントの僕にはミュージカル演出のオファーはなかなかなく、翻訳ミュージカルにいたっては皆無に等しいので、それならば自分で制作するしかないと思って『HEADS UP!』が生まれました。この作品がロングランになったらうれしいですね。僕も役者さんたちも、「自分たちが関わらなくなっても上演され続けていってほしいミュージカル」だと思っています。なんならこのコンセプトだけ持って、歌もあらすじも変えてブロードウェイでやってもらってもいいくらいですね。
生の舞台ってそれまでに散々努力しても、小劇場なら400人、大劇場でもせいぜい1500人程度しか一回の公演で見せることができません。これほどアナログで、これほど贅沢なことはないですよね。どれだけ世の中がデジタル化・システム化されても舞台は残っているわけですから、やはりお客様にとっても劇場体験というのは貴重なものなのだと思います。それから僕自身が生の舞台をやっていないと、テレビなど他のことに対する筋力が衰えるような気がするんです。舞台をやることでまた他の表現活動もできるという感覚があるのでやめられませんね。

舞台写真

演出家としてはどのようなポリシーをお持ちですか。

稽古場の風通しをよくすることは、常に心がけています。具体的には、たとえば看板になる役者さんはおのずと大事にされますよね。長時間待たせないとか、できるだけ稽古を早く終わらせて早く帰れるようにするとか。けれどそういうことばかりしていると、他の人のモチベーションが下がってきます。だから工夫はしますが、できるだけ平等にというのが僕の信条です。また、台本を少し短くしなくちゃいけないという場合、セリフが1つ、2つしかない出演者からは絶対にセリフを取らず、看板役者のように多い人から取るように心がけています。出番の少ない役者のセリフが減ると、セリフの多い人は気づかなくても、セリフを減らされた役者の周囲は気がつくでしょう。そうすると全体のモチベーションまで下がってしまうんです。だからその辺はすごく気をつけています。
『HEADS UP!』の稽古場はみんなすごく仲がいいですよ。特にこの作品では哀川翔さんという超兄貴的存在の素晴らしい人がいますからね。初演の時にLINEのグループを作り、今回の再演までの2年間、1日も途絶えることなくやりとりしてきたほどです。
演出家って孤独なもので、みんなが盛り上がっているところに入っていくと、すーっと人がいなくなるようなこともあるんですよ。僕はそういうのが嫌なので、できるだけ自然に溶け込めるよう心がけています。そのほうが何か相談したいことがある場合、相手も話しかけやすいでしょうから。かといって馴れ合わないようにする必要もあります。ただみんな大人ですからね、その辺のさじ加減はわかってくれています。

TBS赤坂ACTシアターにいらっしゃるお客様に向けて、メッセージをお願いいたします。

「間違いなく面白い」と自信をもって言える作品です。爆笑したあと最後に号泣できるようになっているので、きっと感動していただけると思います。「ラサール石井」という僕のイメージからは想像がつかないかもしれませんが、本格的なミュージカルになっているので、ミュージカルファンの方にも、初めてミュージカルを観る方にも楽しんでいただけます。決して損はさせません!
それから、今回は僕がプロデュースした公演関連グッズもいろいろと用意しましたので、ぜひ手にとってみてください(笑)。

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