第45回 邦楽演奏会 ―日本の四季 Ⅲ―
インタビュー
山田流筝曲演奏家 萩岡松韻さん

萩岡松韻(はぎおかしょういん)

昭和37年5歳で初舞台、祖父二世萩岡松韻より手ほどきを受ける。
昭和45年中能島慶子師に入門。
昭和55年四代目萩岡松韻継承。
東京藝術大学邦楽科卒業。
東京藝術大学教授、日本三曲協会常任理事、 山田流筝曲協会副会長、萩岡會会長。
「第45回邦楽演奏会」では第二部の長唄・三曲の掛合による『新松竹梅』に出演。

  

都民芸術フェスティバルの「邦楽演奏会」とはどのような演奏会なのですか。

私が代表を務める邦楽連合会主催の演奏会となります。当連合会は、義太夫協会、清元協会、古曲会、新内協会、常盤津協会、長唄協会、日本三曲協会の7つの邦楽団体の集まりですが、この「邦楽演奏会」はそれぞれの演目がいわば"盛り合わせ"のように一度に楽しめる、大変贅沢な機会です。また今回は第45回記念として、義太夫と新内、長唄と三曲による掛け合いといった珍しい取り組みも行います。邦楽ファンだけでなく、初めてという方もこの機会にぜひお運びいただきたいと思っております。

邦楽の魅力とは、どういったところにあるとお考えですか? また、どういった楽しみ方をすればよいのでしょうか?

一言でいえば、"日本の心"ということになるでしょうか。都会の喧騒を離れて、邦楽が鳴り響く空間に身を置くだけで、ぐっと日本的な情緒に浸れて心も落ち着くのではないかと思います。ご自分なりに曲のイメージを思い浮かべながら聞いていただけるとよいのではないでしょうか。この邦楽演奏会の会場では歌詞の字幕が出るスクリーンがしつらえてありますので、それを目で追っていただければ意味もよくわかると思います。
楽しみ方としては、例えば歴史が好きな方ならば、浄瑠璃は歴史物が多いですし、歌舞伎が好きな方ならば、芝居のない音だけを聞いて情景を思い浮かべるといったことがあると思います。
また、いろいろな楽器を見比べ、聞き比べることも面白いかもしれません。同じ三味線でも、義太夫のものは棹が一番太いですし、反対に長唄のものは一番細いという違いがあります。ヴァイオリンとヴィオラのようなものですね。弾き方や発声の仕方にも違いがありますので、ぜひ注目していただきたいと思います。

邦楽もいかに次世代に継承していくかが重要な課題だと思います。状況についてお教えください。

少子化や、学業が忙しいといった事情で邦楽を習い始めるお子さんの数は減っています。一方、私は東京藝術大学で教えていますが、高校生ぐらいになってから邦楽に興味を覚えて勉強したいという若者は少なくありません。昔よりも音感がよくレベルが高い演奏を行う学生が多くいることも事実です。逆によい傾向といえるかもしれませんね。
藝大では毎年「和楽の美」というイベントを開催しています。藝大の音楽学部邦楽科には、長唄、三味線音楽、箏曲、能楽、邦楽囃子、尺八、日本舞踊、雅楽の専攻があります。これら様々なジャンルの邦楽科に加え、西洋音楽の他科や美術学部の教員、学生にも協力してもらい、専門の壁を超えた新しい邦楽の舞台作品の創作および上演をするというものです。外部の方々にも好評を博しており、若い人にも関心を持ってもらうよい機会になっていると思います。
また、邦楽連合会加盟の団体の多くは、全国の学校を巡回して生徒さんに邦楽に触れてもらう機会も設けています。こうした草の根的な活動が今後実を結ぶことを願っております。

現代にあっては、なかなか邦楽に親しむ機会がなく、敷居が高いという人も多いかと思います。

邦楽というと、着物を着て正座をし、決まりごとの多い演奏をしなければならないといったイメージがあるかもしれませんが、そんなことはまったくありません。Gパンをはいて椅子に座って演奏しても構わないのです。また、曲も、例えばヴィヴァルディの「四季」を演奏したり、ポピュラーを演奏するといった人も大勢います。そういったことから興味を持って、邦楽の古典を勉強するということでもよいのではないでしょうか。 例えば、ピアノは西洋の古典的な楽器であり、箏はわが国の古典的な楽器です。どちらも長い歴史の中で人々に親しまれてきて現在に至っています。伝統楽器の箏だからといって杓子定規に難しく考える必要はありません。 遊びでも構いませんので、まずは触れてみる機会があればぐっと親しんでいただけると思います。