現代舞踊公演 インタビュー
振付家・ダンサー
上原尚美さん、髙野美智子さん、内田香さん

上原尚美(うえはらなおみ)

1955年に設立された藤井舞踊研究所にて、父藤井公、母利子のもと舞踊を学ぶ。1960年藤井公・利子主宰により東京創作舞踊団が設立され、1975年より舞踊団員として作品の全てに出演。ソリスト又は重要なポジションを担い作品に携わる。 また、自身の作品も高く評価され、現代舞踊協会制定新人賞、群舞賞、新鋭・中堅による現代舞踊公演(現 時代を創る現代舞踊公演)奨励賞受賞。ニムラ賞、埼玉全国舞踊コンクール、東京新聞主催全国舞踊コンクール等にて第一位を受賞。 現在も新作リサイタル、文化庁助成公演、彩の国さいたま芸術劇場主催公演、埼玉県舞踊協会主催公演等にて多数の作品を発表し出演をしている。 また、フランス(アルル、パリ)韓国、オーストラリア、タイ、中国、ベネチア、ニューヨーク等で公演を行う等、幅広い活動と共に後進の育成に力を注ぐ。

髙野美智子(たかのみちこ)

東京外国語大学スペイン語学科卒。小島章司に師事。 氏の舞踊団でダンスミストレス・第一舞踊手として活躍。 1991年日本フラメンコ協会第一回新人公演にて奨励賞受賞。 1995年フラメンコ界初の文化庁派遣在外研修員として2年間渡西。ラファエラ・カラスコ、ラ・チナ等に師事。 帰国後『心の浮遊』『静-SHIZUKA-』等のリサイタルを行う他、2005年「愛・地球博」開会記念コンサート、2006年「美の巨人たち」放送300回記念コンサート、2011年東京文化会館50周年記念オペラ『古事記』等に振付・出演。2014年 現代舞踊協会制定河上鈴子記念スペイン舞踊賞受賞。

内田 香(うちだかおる)

金井芙三枝、大久保苑子、横山悦子に師事。 Roussewaltz(ルッシュワルツ)主宰。 現代舞踊協会制定新人賞、村松賞、舞踊批評家協会新人賞などを受賞し、文化庁派遣在外研修員としてパリに留学。帰国後2003年Roussewaltz(ルッシュワルツ)を設立。 Roussewaltz(ルッシュワルツ)とは、フランス語と英語からなる「赤毛のワルツ」の意。強さ、華かさ、儚さ、気まぐれ・・・、といった現代女性の多面性や日常をスタイリッシュに描く作品を次々に発表している。2006年1月には、「冷めないうちに召し上がれ」をニューヨークとサンチャゴで上演。N.Y.タイムズ紙では「絶えず魅力的な舞台、Roussewaltzの全プログラムを観ることが出来たら、何と素晴らしいことだろう。」と評される。 2006年 舞踊批評家協会賞、現代舞踊協会制定江口隆哉賞受賞。 2012年 現代舞踊協会制定時代を創る現代舞踊公演優秀賞受賞 主な作品『彼女のredな味』『なみだ』『冷めないうちに召し上がれ!』『moon』等。

  

それぞれの作品のテーマと、見どころを教えてください。

上原尚美
上原尚美さん

上原 タイトルどおり"たくましく生きる"人間の姿を舞台上で繰り広げる作品です。見どころとしては、31名のダンサーがエネルギッシュに踊るところにあると思います。そのパワーを堪能していただければうれしいですね。
髙野 フラメンコが題材になっています。ギターと歌と踊りの掛け合いを、原石が磨かれながら次第に美しい宝石となって輝き始めるイメージでつくりました。フラメンコの持つ独特のリズムを楽しんでいただければと思います。
内田 "concentration"とは、トランプの"神経衰弱"のことです。人生とは、期待したり、予感したり、ひらめいたり、チャレンジしたりの連続です。そういったことをカードゲームにたとえて、カードをめくるように記憶をシャッフルし、また次に進んでいこう! という思いを表現しました。そこを感じ取っていただければ。

舞踊を始めた動機や、現在のスタイルにたどりついた経緯についてお教えください。

上原 両親が現代舞踊をやっていて、必然的に私も3歳から始めました。両親の背中を見つめながら育ち、現在に至っています。私のスタイルは"モダンダンス"とジャンル分けされているようですが、どこからどこまでが"モダンダンス"で何が"コンテンポラリー"なのか、よくわかりません。そもそも定義などあいまいですし、見る人によって解釈は違います。ですから、ジャンルなどは気にせず、大きな視点で自分がつくりたい作品をつくろうと考えて取り組んでいます。
髙野 高校時代に偶然フラメンコと出合い、自分もやってみたいと思いました。実際に習い始めたのは大学に入ってからなので、かなり遅いほうだと思いますが、そこで夢中になって今日まで来てしまいました(笑)。
内田 私は小さい頃からダンスを習い始めたのですが、自分ではバレエのつもりがモダンダンスだったのです。でも、曲に合わせて自由に踊ることが好きでしたので、何でもよかったんだと思います(笑)。私はダンス創作のためにフランスに留学したので、つくるダンスは"コンテンポラリー"といわれていますが、上原さん同様自分では気にしていません。

作品を通じてどんなことを伝えようと考えて取り組まれているのでしょうか?

髙野美智子
髙野美智子さん

上原 言葉では伝えられない感情のおもむきを表現しようと考えています。たとえば、天気がいい日に洗濯物を干すと気持ちがいいですよね? そんな気持ち良さを伝えるために、両手で洗濯物をつかんでおひさまに向かってパーンと伸ばす、といった動作を演出するといったようにです。そんなシーンを見て「すがすがしい!」って想像してもらえればいいという思いですね。
髙野 これまでは、何かをつくるというよりも、まずはギターがあり、歌があるという感じでした。今回は舞台の上で表現するということなので、ギターや歌や踊りそれぞれのエネルギーを引き出して、一つにしたいと考えています。そんなエネルギーの輝きをお伝えしたいですね。
内田 私たちのグループのダンサーは、女性だけなんです。"現代社会に生きる女たち"をテーマに、そのいろいろな断面をお伝えしようと考えて取り組んでいます。今回はカードゲームを題材に、何かを選び、何かにサヨナラし、明日また頑張って生きよう! といった思いを伝えたいと思っています。

あらためて舞踊の魅力とはどういったところにあるとお考えでしょうか?

上原 舞踊作品を見て、ジーンとすることもあれば、勇気をもらえることもあれば、考えさせられることもあれば、暗く落ち込むこともあると思います。一つひとつの舞踊作品を見ることで、そのようにいろいろな感情が湧いてきます。そんな感情が湧くことで、人は立ち止まったり、振り返ったり、前に進んでいけたりという面もあるのではないかと思っています。
髙野 上原さんのいうとおり、見て感動できる、心が豊かになれるということではないかと思います。フラメンコの場合は、やはりそのエネルギーが魅力だと思います。よく言われるのは、「見て元気になった」ということですね。それと私は踊る時のあの足音が大好きなんです。非常に細かくリズムを刻んで踊るのですが、そこにいろいろな感情が表されているんです。
内田 何が舞踊を見る者を感動させるかというと、私は肉体による表現の可能性だと思っています。その表現の仕方はいろいろなのですが、ダンサーの動き一つひとつに、観客がグッときたり、ハッとしたりということがあります。言葉では表現できないものですよね。

現代舞踊がいま置かれている状況や、今後期待していることについてのお考えを聞かせてください。

上原 振付家が有名になったり、小・中学校や高校でダンスが授業として取り入れられるようになるなど、かなりその存在は認識されるようになっていると思います。ただ、学校においては体操的な側面もあるなど、どこまで芸術性のあるものとして取り組まれるのかはわかりません。これからは、深いものを表現できる創作性という面にも光が当たっていけばなおいいのではないかと思っています。
髙野 フラメンコは、昔は教室を探すのも大変でしたが、今はかなりポピュラーな存在になっていますね。海外のアーティストもよく来日するようになりましたし、本場スペインに行って観るという人も増えてきました。また、以前は、習っていてもただ足を動かしているだけ、という人が多かったのですが、今ではしっかり歌やギターも理解し合わせて踊れる人が増えています。いい傾向だと思っています。
内田 「バレエやミュージカルは知っているけど、現代舞踊って?」という人はまだまだ多いように思います。現代舞踊と聞くと、どこか難しそうなイメージがありますし、とっつきにくい感じがあるかもしれません。かといって、わかりやすければそれでいいというものでもないと思いますが、私たちとしてはもっと親しみやすいものにしていかなければならないと思っています。映画を見るように、舞踊を見に行く、といった風潮になるといいですね。

最後に、初めて現代舞踊を見る方に、どんな楽しみ方をすればいいかアドバイスをお願いします。

内田香
内田香さん

上原 "作品を鑑賞する"というのではなく、おかしいところで笑う、哀しいところは胸を痛める、感動したら涙を流す、と、心のおもむくままに見て、聞いて、感じていただければいいと思います。制約は一切ありませんから、ストーリーも勝手に想像を膨らませ、妄想していただいてかまいません。そして、何か一つでも心に残るものがあればいいなと願っています。
髙野 ギターと歌と踊りのハーモニーを楽しんでください。また、お店でフラメンコを見たことがあるという方は、舞台との違いを味わっていただくといいかと思います。お店では結構即興でやっているのですが、ステージでは構成がありますから。ただ、上原さんのとおり、見て聞いて感じていただくのが一番です。
内田 同じく、"きれい!""かっこいい!""すごい!"ってシンプルに思っていただければいいと思います。さらに、私としては「ここで足を上げるからいいのだ」と考えて一つひとつ振付をしているので、そんな小さなこだわりも感じていただけると嬉しいですね。そして、見終わって帰る時に「今日はよく眠れそうだ」「明日もがんばろう」なんて思っていただければ何よりです。