劇団文化座 藤原章寛さんにインタビュー

劇団文化座公演166「花と龍」

劇団文化座が伝え続けてきた「生きる力」。
演劇の発するエネルギーが、明日を生きる糧になってくれたらうれしい。

昭和の人気作家、火野葦平の『花と龍』は何度も映像化されてきた有名な作品。過去に火野葦平の書き下ろし作品も上演してきた劇団文化座が、令和の世にこの物語を甦らせます。主人公、金五郎を演じる藤原章寛さんは自分をさらけ出す「覚悟」こそが、役者としてのエネルギーにつながっていると教えてくれます。今回の舞台の魅力と、伝えたい想いについて、熱く語っていただきましょう。

藤原章寛(ふじわら あきひろ)

1986年、埼玉県生まれ。大学卒業後、1年間の就職期間を経て劇団文化座に入団。2014年、平成25年度文化庁芸術祭新人賞、2021年、岡山市民劇場賞受賞 男優賞を受賞。「旅立つ家族」李仲燮役、「炎の人」ゴッホ役の演技で2024年、第58回紀伊國屋演劇賞 個人賞を受賞したばかり。

とにかくまっすぐな男、玉井金五郎と妻マンの物語。

──上演される作品をご紹介ください。

今回、小説の「花と龍」を舞台化します。原作者の火野葦平さんは昭和に活躍された作家で、彼の父、玉井金五郎さんと母、マンさんを主軸とした物語です。話は明治時代から始まり、二人はこの物語ではゴンゾウと呼ばれる沖仲仕(おきなかし)、港湾労働者として出会い、結婚します。そして、暴力がはびこり不条理が蔓延していた北九州の若松という土地で、労働者の労働条件を改善するために立ち上がり、二人で一生懸命生きようとする、そんな物語です。

──金五郎はどんなキャラクターでしょう?

親分肌ですごく面倒見がいい人なんです。そして少々子供っぽいところもある。金五郎は刺青を入れるのですが虚栄心も見え隠れします。金五郎自身、もっと大きくなりたいという気持ちから衝動的に刺青を入れてしまい、後悔もするしこれが自戒の印にもなる。無鉄砲なところもあるのですが、とにかく真っ直ぐに進んでいく人だなと僕は思っています。

大きな世界に飛び出したい。金五郎の想いが自分と重なる。

──金五郎の好きなセリフを教えてください。

物語の最初のほうに、こんなセリフがあります。

「俺はもっと広い世界を見てみたい。男やったら港じゃ。そして海じゃ! 海の向こうに自由の大地。俺は支那大陸を渡りたいんじゃ。でっけえ地平線を見てみてえ! 血がたぎるんじゃ」

とにかく外に飛び出したいという金五郎の気持ちが一番強く出ていて、僕も共感する部分がありました。僕は小さいとき、とにかく内気だったんです。その自分が嫌で、だからこそ大きい世界に飛び出してみたいと思っていた。役者という道にも決意を持って入ってきました。不安だらけでしたが、それでもこの道で生きてみたい。そして、ここで生きるからには、もっと大きくなりたい。そういった想いを持ち役者を続けているので、金五郎の行動力に共感ができるんです。

金五郎は後に大陸に渡るという当初の夢を諦めてしまうんですが、沖仲仕の現状を見て何とかしなくちゃならないと考え行動していく。夢が断たれても新しい道標を持って生きていこう……そう思うんですね。
自分もいろいろ迷うことがありますが、この「花と龍」に出てくる人たちと同じように、一日一日を大切に、懸命に生きていきたいです。

金五郎から引き継がれた、熱い想いを伝えたいです。

──「花と龍」は何度も映像化されている昭和の名作小説ですね。

そうなんです。僕は、石原裕次郎さんと高倉健さんが主演を務められた作品を拝見しました。それぞれ描かれ方が違うんですよ。僕たちの「花と龍」では、とくに港湾労働の話を描きたい。金五郎さんは労働者の組合を結成していきます。そこには、働く人たちの生活を改善したいという強い想いがあります。実は原作者の火野葦平さんは、アフガニスタンで命を落とされた医師、中村哲さんの母方の伯父にあたります。中村さんは、アフガニスタンで用水路を築いて多くの人々の命を救った方ですよね。そんな中村さんの大きな想いにも、金五郎の真っ直ぐな気持ちが受け継がれていると感じています。文化座の代表、佐々木愛も中村哲さんに感銘を受けました。それで、この作品を舞台にしたいとなり、今回上演に至ったんです。

劇団文化座が伝える「生きる力」を、明日の活力にしてもらえたら。

──劇団文化座はどのような団体ですか?

1942年の2月26日に結成された劇団です。太平洋戦争の終戦間際、1945年当時は東京で興行を打つことができなくなってきて、満州巡演に行きました。そこで終戦を迎えたので劇団員たちは1年間の抑留生活を強いられた。そうやって大変な思いをして戻ってきたら東京は、無残な焼け野原でした。そして、当時の演劇界はというと翻訳劇が主流。創立者の一人、佐佐木隆はなぜ翻訳劇ばかりやっているのか、このままではダメだと考えた。演劇は地に根付いた人たちの言葉、その言葉が俳優の口から発せられることで観客と呼応し、感動を生む。そういう想いもあり、劇団のテーマは、地から湧いた演劇で、地に足を根差した人たちをスポットに当てた作品が多いですね。「花と龍」も労働者の実態や大変さを描いているので、当時から続く劇団のテーマに沿ったものといえます。

──劇団として一番伝えたいことはなんでしょう?

大きくいえば「生きる力」なんじゃないかなと思います。苦しい思いをしている人たちこそ、一生懸命、エネルギーを発散しながら生きている。生きている姿、生きる力を劇団としても僕自身としても届けたい。それをエネルギーとして役者たちが発信している。そんなオーラのようなものが劇場で呼応する、それが演劇の魅力だと思います。そういう力を届けたいですし、それが明日を生きる活力につながったらうれしいです。

──お話のなかで何度か「呼応」するという言葉が出てきました。これこそ生の舞台の魅力でしょうか?

やはり舞台は観てくださる人があってこそ。それが演劇の最大の魅力だと思います。呼応する瞬間、それが一番ゾクゾクします。観てもらうことで芝居も変わっていくのが面白くて、それこそ化学反応ですね。観客の方に観ていただくことで、新しい発見もあります。演劇ってよく生き物だと言いますけれど、その通りだなと改めて実感していますね。

一度は就職したものの、消えることがなかった役者への想い。

──藤原さんは先日、第58回紀伊國屋演劇賞 個人賞を受賞されました。おめでとうございます。藤原さんが俳優になられた経緯を教えてください。

僕はもともと引っ込み思案でしかも病弱、人前に出ることが苦手だったんです。それが高校生のときにブレイクダンスの動画に出会ったんです。踊る姿に感動して人間にこんなことができるんだ! と驚きました。それで、自分もやってみたいと独学で挑戦することに。一緒にダンスをする友達もできて文化祭で披露しました。そのとき初めて舞台に立ったんですが、拍手がものすごくて人前で演じることの気持ちよさを感じました。

でもその後、大学に進学しても人前に出るのはまだちょっと苦手でした。どうすれば改善できるだろうと思い、社会人劇団に入ることにしたんです。児童劇をやっていたんですが、観客の子どもたちが声を発しながら観てくれたことがすごく嬉しかった。こうやって観てくれる人たちがいて、そこで初めて作品として成り立つ。その一体感に感動して芝居って楽しいかもしれないと感じるようになりました。大学卒業後には1年間、働いていたのですが、今の自分はこのままでいいのかと自問自答して、そこで残ったのが役者の道、役者への想いでした。

自分をさらけ出す覚悟が、役者としての気迫を生む。

──プロの世界に入られたときはどんなことを感じましたか。

プロの劇団はもちろんセットもしっかりしていますし、劇団の先輩たちと会ったときも気迫、迫力を感じました。芝居で生計を立てている、演劇を本業にしている人たちの意気込みがすごかったんです。僕も少しでも早くこの人たちに追いつきたいという想いがありましたね。養成所で勉強してから入ったわけでもないので劣等感も感じていたし、毎日、ガムシャラに取り組んでいました。

──稽古でも気迫や迫力を感じました。お芝居は技術も大事ですが、気持ちの部分ではどんなことを考えていますか?

今、自分が芝居を役者としてやっていく上でとくに大切にしているのは、覚悟ですかね。恥をさらけ出す覚悟。年をとればとるほど、テクニックが身につくとともにプライドも生まれてしまう。謙虚な姿勢というか、そういったものがなくなってしまったり、自分の芝居に対しても傲慢になってしまうこともあると思うんです。でも、それでも自分をどんどんさらけ出さないといけない。人から笑われようが、どう思われようが、その役を演じるために何でもいいから吐き出す、自分の中に溜まっているものを吐き出す。そういう覚悟が、気迫やエネルギーにつながっていくのかなと思っています。

沖仲仕として懸命に生きる夫婦を、熱く演じたいです。

──最後にお客様に、メッセージをお願いします。

皆さん、こんにちは劇団文化座の藤原章寛です。火野葦平原作「花と龍」、玉井金五郎とマンの夫婦が、懸命に生きる姿を届けたいと思います。
熱い、熱い芝居になっております。ぜひぜひ劇場まで足をお運びください。2月23日から俳優座劇場で公演いたします。よろしくお願いします。



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