スズキ拓朗さんにインタビュー

CHAiroiPLIN FES 2025 おどる小説「ERROR」 短編集「GOTTANI!!!」

ダンサー・演者が舞台から客席へ放つメッセージは誰もが自由に想像できる

ダンスと演劇の融合、かつ台詞、歌、オノマトペなどをふんだんに取り入れた独創的な作品が人気のダンスカンパニーCHAiroiPLIN(チャイロイプリン)。新作や再演を含めた華やかで見どころ満載な今回の作品について、振付・構成・演出を担当したカンパニー主宰のスズキ拓朗さんにお聞きしました。

スズキ拓朗(すずき たくろう)

ダンサー振付家・演出家。1985年、新潟県出身。桐朋学園芸術短期大学卒業。ダンスカンパニー「CHAiroiPLIN」(チャイロイプリン)主宰。国際文化学園非常勤講師。コンテンポラリーダンスカンパニー「コンドルズ」にも所属。紅白歌合戦、FNS歌謡祭などに出演、帝国劇場ミュージカルなどでも振付・演出を務める。第9回日本ダンスフォーラム賞、演出家コンクール最優秀賞、杉並演劇祭優秀賞、第3回世田谷区芸術アワード飛翔舞台芸術部門第1位受賞など多数の受賞歴がある。

待望の再演、期待の新作。チャイロイプリンならではのフェス

──おどる小説「ERROR」は2018年の初演以来の再演ですが、どのような作品なのでしょう。

太宰治の「人間失格」と「失敗園」という2つの小説を原作にしたストーリーをダンスにしています。単純に人間の様相というよりは、植物たちが「人間失格」をやっているようなイメージの作品です。「人間失格」の主人公である大庭葉蔵の、人生のバランスを取ろうとする気持ちを可視化したところ舞台美術がかなり特殊になり、上演できる劇場が限られてしまいました。個人的には自身の手がけたものの中でも3本の指に入る傑作だと思っているので、場所と機会があれば再演したいと願っていました。今回晴れて再演できることになりうれしいです。

──短編集「GOTTANI!!!」の「market」、「〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒」、「橋づくし」についてのご紹介をお願いします。

「market」は捨てられてしまったゴミたちの話で、私がダンスの振付を始めて間もない頃、ダンスフェスティバル「Nextream21」に出場して初めて賞をいただいた作品です。野菜たちの叫び声や訴えたい言葉から振付を作ったという、かなりオリジナリティのある作品になっています。振り付けは細部にまでとことん細かくこだわったこともあり、「このように振付を作っているんだよ」という意味で、チャイロイプリンのフェスティバルにこの作品はいいのではと考えました。

「〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒」は、2014年の「トヨタ コレオグラフィーアワード」にファイナリストとして出場することができた作品です。ダンサーたちが「郵便屋さん落とし物、葉書が10枚落ちました」という歌詞で始まる「郵便屋さん」というわらべ歌を歌いながら、踊りで言葉を表現します。楽器を用いず声だけでリズムを作り出しながら踊る、インドネシアのバリ島の「ケチャ」と似ていますね。おもしろおかしい作品になっていますが、もとは東日本大震災によって手紙が届かなくなってしまった家、届かなかった手紙に込められていた思いなどに心を寄せて作りました。

「橋づくし」は今回の新作で、来年没後100年を迎える三島由紀夫の小説をモチーフにしたものです。満月の夜に一言もしゃべらず7つの橋を渡り切れば願いが叶うという願掛けを信じる4人の少女が、実際に橋を渡ってみるというお話です。橋はいずれも都内に実在していて、大して時間もかからず7つすべて回れる位置関係です。三島由紀夫自身も気に入っていたといわれる作品で日本舞踊で舞台化されたこともあります。淡々と話が進んでいく中に日本らしさが含まれていて、かつ面白みのある内容です。「なるべく喋らない」「ダンスとしてやる」をテーマに作りました。

演者とダンサーがその魅力を存分に発揮する作品

──それぞれの作品の見どころを教えてください。

「market」はとびきりのダンサーを集めました。今回上演する中で最もダンスクオリティが高い作品なので、そこが見どころですね。

「〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒」は、これまでに「下北沢演劇祭」やワークショップ、神奈川で開催している「チャイロイプリン・アカデミー」などで出会った期待の新人たちが出演します。今の若い子たちが僕の作品をどのようにとらえて表現するのか、そこを楽しんでいただけるとうれしいです。

「橋づくし」はチャイロイプリンのオリジナルメンバーが全員出ているので、そこにご注目ください。また、三島由紀夫ってちょっと怖い、暗いといったイメージを持っている人もいるかもしれませんが、すごくやさしい作品なので「こんなかわいいお話も書いているんだ」と知っていただける機会だと思っています。

「ERROR」は私がずっとご一緒したかった鳥越裕貴さんやアングラ界でその名を知らない人はいない丸山厚人さんなど、ゲストも舞台を盛り上げてくれます。太宰治役を鳥越さんとチャイロイプリンのメンバーの小林らら、そして僕の3人で演じることで「人格が3つに分裂してしまった原因はどこにあったのか」を探るような内容になっているので、それぞれの太宰治も見どころといえるでしょう。

チャイロイプリンは安心できるかけがえのない場所

──チャイロイプリン設立の経緯と、スズキさんにとってどのような存在かお聞かせください。

進学した大学の学長が蜷川幸雄さんで、蜷川さんの「さいたまネクスト・シアター」企画のオーディションに受かり「真田風雲録」に出演させていただきました。芝居と同時に身体にも興味を持っていて、あるとき蜷川さんから「お前は身体が利く。これからはダンスの時代だから、ダンスをやったらどうだ」とアドバイスを受けたことをきっかけに、ダンスのワークショップに参加したり、振付を勉強するようになりました。そしてさまざまなオーディションを受けて出演することを繰り返す中で近藤良平さんと出会いコンドルズに加入、そして振付も始め、短大の同級生でもある清水ゆりに声をかけてチャイロイプリンを立ち上げました。僕にとっては安心でき、やりたいことをやれるかけがえのない場所です。

──チャイロイプリンの特色や強み、個性は何でしょう。

ダンスカンパニーではありますが、原作ものでもオリジナルでも、どの作品もストーリーに強みがあると思っています。「大きなカブができました、抜きました、終わり」みたいなものに感動しようがないですよね。チャイロイプリンの作品はどれも舞台上に追いかけるものがあり、それが何なのか、お客さんは自由に想像することができます。舞台からの一方的な発信ではなく、観てくださっている方に寄り添えるものを作りたいと考えているので、それが強みや個性につながっていると思います。

予習は不要、原作を知らなくても楽しめる

──長きにわたり精力的に活動を続けられる原動力はなんでしょう。

ダンスに感動したという体験はもちろん大きいと思いますが、それ以上に「こんちきしょう」の気持ちがあったからかなと感じます。喜びや楽しさと同じくらい、むしろそれよりもっと悔しいことをたくさん経験してきて、「絶対に負けないぞ」とか「もっとこうなってやる」の熱量が根底にある気がします。高校生のときに病気をしてそれまで打ち込んできたバスケができなくなったことも「こんちきしょう」のひとつですね。その後遺症で、今でも右手は缶が開けられないくらい弱く、常人のダンサーよりできることは少ないと思います。けれど自分のできることで人に伝えられることはあるはずですから、マイナスという意識はありません。

──公演を楽しむコツがあれば教えてください。

原作の太宰治や三島由紀夫の小説を読んでおかないと楽しめないかといえば、そんなことはありません。あらすじを知らなくても楽しんでいただけるように作っています。むしろ公演の後に読みたくなると思います。「難しいことは何も考えず、安心して観に来てください」がコツですね。

──都民芸術フェスティバルウェブサイトをご覧のみなさまへメッセージをお願いします。

今回は「ERROR」という作品を上演します。演目は太宰治の小説「人間失格」をダンスにしたものです。そして、チャイロイプリン歴代の代表作を一挙大公開、新作の「橋づくし」も上演します。みなさんが構えることなく心から楽しめ、かつ芸術に触れることのできる時間を提供できればと思っています。ぜひ劇場にお越しください。待ってます!



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