シンデレラ 渡辺恭子さん、王子 池田武志さんにインタビュー
スターダンサーズ・バレエ団「シンデレラ」シンデレラ 渡辺恭子さん、王子 池田武志さんにインタビュー
スターダンサーズ・バレエ団「シンデレラ」誰もが知る童話「シンデレラ」は、バレエの人気レパートリーとしても知られています。スターダンサーズ・バレエ団でも人気のプログラムで、2月16日の公演ではシンデレラ役を渡辺恭子さん、王子役を池田武志さんが務めます。おふたりに各キャラクターへの思い入れやバレエ鑑賞の楽しみ方などをお聞きしました。
渡辺恭子(わたなべ きょうこ)
パリ高等音楽舞踊学院を首席卒業のち、チューリッヒ・バレエ団(スイス)、ライプツィヒ・バレエ団(ドイツ)を経て、2008年スターダンサーズ ・バレエ団に入団。2013年より文化庁新進芸術家海外研修制度研修員としてカールスルーエ・バレエ(ドイツ)にて研修(~2015年)。2023年には各作品を通して国際派としての表現を示し続けたことに対し舞踊批評家協会賞新人賞を受賞。2024年3月に世界初演したデヴィッド・ビントレー「雪女」ではオリジナルキャストとして主演した。
池田武志(いけだ たけし)
10歳より松本道子バレエ団にてバレエを始め、13歳の頃よりマシモ・アクリと堀本美和に師事。2009年ローザンヌ国際バレエコンクールファイナリスト。スカラシップを得てドイツのハンブルク・バレエスクールへ2年間留学。ハンブルク・バレエ団、新国立劇場バレエ団を経て、2017年スターダンサーズ・バレエ団入団。デヴィッド・ビントレー「雪女」ほか、数々の作品に主演している。
──スターダンサーズ・バレエ団の『シンデレラ』は2008年に初演されて以来、常に人気の作品です。長く人々に親しまれてきた理由はどんなところにあると思われますか。
池田:バレエの「シンデレラ」は原作に準拠した作品が多いのですが、鈴木稔さんが演出・振付をされた「シンデレラ」は家族愛を中心にすえているところに特徴があります。そこが日本人のお客様の心に刺さり、多くの方々から支持されているのではと思います。ファンタジーの世界でありながらどこかリアルな人間の感情が見え隠れしていて、その中で強く生きているシンデレラには、誰もが自然と感情移入してしまうのです。王子も友人たちと町に遊びに行くなど、等身大の姿が描かれています。「シンデレラ」のメルヘンチックな魅力にハートフルな要素が加わった鈴木稔版、それがスターダンサーズ・バレエ団の「シンデレラ」が長く愛されている一因だと思います。
渡辺:「シンデレラ」は、継母や姉妹がシンデレラに意地悪する様子が誇張して描かれているところが物語の面白さでもあります。ですからバレエの演出でもそこは外せませんが、鈴木稔先生の演出・振付では「彼女たちがなぜシンデレラに意地悪をするのか」という理由も追求しています。単に意地悪からやっているのではなく、心に欠落したものを埋めるすべがなくてシンデレラに当たってしまう、そしてそこにはお父さんと家族の関わりも影響しています。原作ではあまり目立たず、ほかの演出では死んでしまっている設定になっていることもあるお父さんを登場させることも、スターダンサーズ・バレエ団の「シンデレラ」ならではの魅力で、そういった点も支持していただいているのではと思います。
──シンデレラと王子、おふたりはどのように表現したいと思われますか?
渡辺:シンデレラは姉妹や継母にいじめられるシーンが多いので、そこばかり強調すると私も観てくださる方も悲しくなってしまいます。ただ、シンデレラには「絶大なる包容力とやさしさ」という揺るぎない強さがありますので、「受けるいじめ一つひとつをどう受け止めるか」を自分の中に落とし込んで挑まなければと考えています。そうでないと悲しい気持ちのままお城に向かうことになってしまいますから。また、鈴木稔版のシンデレラには友達のねずみちゃんたちがいて、一緒にお城に行くという設定になっています。彼らとの友情があったからこそシンデレラはくじけずにいられた部分もあるので、そこも意識して演じたいと思っています。
池田:王子の中には「等身大の男の子」という部分も見え隠れしているので、そこを強めに打ち出したいと思っています。シンデレラとの恋愛物語という大筋に加えて、王子とその周囲の人々との関係性も際立たせることで、王子が本当の恋を見つけて幸せになったときにより感情移入していただけるのではと思います。
──今回は障がいのある方や、小さなお子様連れのご家族も気兼ねなくバレエ鑑賞を楽しめるリラックスパフォーマンスでの公演です。
池田:リラックスパフォーマンスでの公演は海外ではポピュラーですが、日本のバレエ団では非常に珍しい試みといえます。一定時間じっとしていられないとか声が出てしまうとか、あるいは暗い場所が苦手だといったさまざまな事情を抱えた方にもライブでバレエを楽しんでいただきたいという思いから定期的に開催していて、「子どもにやっと生のバレエを見せてあげることができた」「普段はじっとしていられないのに音楽と踊りに夢中になっていた」など、うれしい声をたくさんいただいています。事情があって会場に足を運ぶことをためらわれていた方にも「どうぞ!」と間口を広げることで、バレエの魅力はもちろん、豊かな芸術に触れるきっかけになれればうれしいです。僕たちはリラックスパフォーマンスでもそうでなくても、舞台ですることは同じです。いつもより客席が明るいことも気になりませんし、いざ舞台に立てば、大きな声も人の出入りもパフォーマンスに影響はありません。ぜひ気兼ねなくいらしていただく機会になればと思います。
渡辺:今の時代はSNSで気軽にバレエ鑑賞できますが、できるなら最初はぜひ劇場という空間でバレエを体感していただきたいです。私自身も美術館や劇場で「空間を体験する」ことが大好きなので、そう強く感じます。リラックスパフォーマンスが「劇場に行くのは難しい」と思っていた方やそのご家族のファーストステップになったら素晴らしいことです。「全幕通しで見るのはしんどい」という方でも楽しめるといった具合に、ご自身の体調に合わせて体験していただける公演なので、ぜひ足を運んでいただければと思います。私たちもそういう機会に関われることはとても光栄なことですし、公演中の声や人の出入りで集中力が途切れるといったこともありませんから、そこもご安心ください!
──お二人にとって「スターダンサーズ・バレエ団」はどのような存在でしょうか?
渡辺:2008年に入団以来ずっとお世話になっていますが、古典バレエにおいて女性ダンサーたちが白いコスチュームで踊る、いわゆる「白いバレエ」以外のバレエを貫いているところがすごいと思います。スターダンサーズ・バレエ団ならではのカラーを大切にしたレパートリーはもちろん、リラックスパフォーマンスのようのように新しい試みにも果敢にチャレンジし、総監督が「今の世で何ができるか」を常に考えている。そこにダンサーとして参画できていることに誇りを感じます。
池田:僕は24歳のときにほかのバレエ団から移籍してきたのですが、当時は「あれやりたい」「これやりたい」っていう気持ちが非常に強い状態でした。その中で運よく主演させていただく機会を含め、さまざまな振付家の作品に触れることができました。振り返ればここは「チャンスをくれた場所」であり、「挑戦させてくれる場所」です。今もそれがすごく楽しいですね。
──渡辺さんは今回の「シンデレラ」を最後の公演として、現役を引退されるそうですね。
渡辺:まだ続けることも選択肢としてあるものの、同時にここまでやれるとは思っていなかった部分もあります。ダンサーって怪我して突然キャリアが終わってしまうこともありますから。できるなら自分で判断し、「この公演で 」と決めて終えたいというのは、ずっと思い描いていたことでした。バレエが大好きなことは変わりませんから、今後は指導という形でバレエに携わり、いろいろな方のサポートができればと思っています。
──普段あまりバレエを観る機会のない方に、バレエ鑑賞を楽しむコツなどがあれば教えてください。
池田:細かな知識を学ぶよりも視覚的効果から入るのが一番いいと思っているので、まずは「目につくすべてを楽しもう」っていう気持ちで来ていただきたいですね。最初は目で見て耳で聞いて楽しむということに専念するだけで十分だと思います。その中でとりわけ気になるとか心に残るものがあれば、それについて調べたり学んだりと、新たな興味につながるかもしれません。
渡辺:音楽には人の心を動かす力があり、踊りはその音楽を視覚化できるものだと思います。バレエは「セリフがないから難しい」と思われがちですが、実際にご覧になっていただくと「セリフがないのにわかった」と言ってくださる方がほとんどです。今回の「シンデレラ」もそういう作品ですので、気軽に足を運んでいただきたいです。
──都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧のみなさまにメッセージをお願いいたします。
2025年2月15、16日に新国立劇場オペラパレスにてスターダンサーズ・バレエ団リラックスパフォーマンス「シンデレラ」が上演されます。鈴木稔版「シンデレラ」は家族愛にあふれる作品です。普段劇場に足を運べないという方でも安心して見られる仕様となっています。ぜひ観に来てください。お待ちしています。