藤原歌劇団 藤田卓也さんにインタビュー

藤原歌劇団公演 「ラ・ボエーム」 オペラ全4幕(日本語字幕付き原語(イタリア語)上演)

オペラが初めてでも楽しめる、青春時代のほろ苦い恋愛ドラマ。

自由で気ままに生きる若者たちの姿を描いた『ラ・ボエーム』は、初演から100年以上たったいまも世界中で繰り返し上演されるほどの人気作品です。
藤原歌劇団でも何度か上演され好評を博してきたこの舞台がどんな感動を与えてくれるのか、ロドルフォ役を演じる藤田卓也さんにお話をうかがいました。 藤原歌劇団公演 「ラ・ボエーム」 オペラ全4幕(日本語字幕付き原語(イタリア語)上演) 公演情報はこちら

藤田 卓也(ふじたたくや)

声楽家(テノール)。大阪音楽大学特任准教授、くらしき作陽大学非常勤講師。山口県出身。島根大学教育学部卒、同大学院を修了後、渡欧。第6回KOBE国際学生音楽コンクール第1位、エンミー・デスティン創設音楽コンクール2004第2位、第40回アントニン・ドヴォルザーク国際声楽コンクール・オペラ部門第2位など。留学中、欧州各地のオペラ公演や音楽祭に出演し、成功を収める。2006年に帰国し、数多くの作品に出演中。2015年より藤原歌劇団団員。

さまざまなコントラストとドラマチックなストーリー展開
──『ラ・ボエーム』はプッチーニの有名なオペラですが、改めてその内容をご紹介ください。

とても人気のある作品で、複合的な魅力があります。まずは恋愛ドラマです。恋の行方の物語ですが、その中に、パリで自由に暮らすボヘミアンの生活、貧しくとも希望を抱いて未来を考えている若者たちの間でいろいろな出来事が起こります。誰もが一度は経験したことがあるのではないかと思われる、青春時代のほろ苦い思い出が描かれていますので、幅広い層のかたが楽しめる作品だと思います。

また、いくつものコントラストが鮮やかに表現されているということができます。例えば、静と動、光と影、貧富、スポットライトが当たる者とそうでない者、生と死、音楽的な華やかさと落ち着いた静けさ。そうしたコントラストが幾重にも組み合わされた中で登場人物たちが悩んだり、迷ったり、安住しようとしたり、やはりこちらではないと気付いたりといった、さまざまな思いが交錯するのです。

──ドラマチックなストーリー展開ですね。

そうですね。恋が始まる、楽しい1幕。華やかで素敵な2幕。別れに悩む3幕。そして、死に心をえぐり取られる4幕。台本も音楽も非常に考え尽くされており、名作といわれるだけのことはあると思います。

身近な題材を取り上げた作品で、オペラ初心者にも最適
──いろいろな人物が登場するので、観客はそのどれかに自分を投影してみるといった楽しみ方もできますね。

ええ、私が演じるのはロドルフォという役ですが、私が『ラ・ボエーム』を観客として見た場合は、実は歌手のショナールという登場人物が好きなんです(笑)。彼は貧しい仲間たちのために食べ物を持って帰ったりするのですが、なぜかあまりリスペクトされていない。しかし、ストーリーの節目では大切な演技をする。愛らしくて憎めないショナールというキャラクターが気に入っています。

──華やかな貴族の世界や英雄が登場するオペラもいいものですが、この『ラ・ボエーム』の時代設定は現代に比較的近いので、オペラが初めてのかたでも入り込みやすいかもしれません。

ヴェリズモ・オペラといって、現実主義といいますか、生活に身近な題材を取り上げた作品に分類されるので、最初に見るオペラとしても適していると思います。

ラストシーンでは「観客よりも私が先に泣いてしまいます」
──『ラ・ボエーム』のラストシーンは、大きな感動とともに静かに終わります。

最後のほうはコントラバスの死の通奏低音がずっと鳴っているだけで、舞台全体が静かに進んでいきます。そうすると、涙をこらえきれないお客様も多いようです。しかし、誰よりも早く泣くのはロドルフォで、プッチーニの台本のト書きに、「泣く」と書いてあるのです。

私も若い頃にウィーンに留学しましたが、食費は1日に1ユーロ(130円弱)と決めて、切り詰めた生活を送りました。夢はたくさんあるもののお金はあまりなく、できることはとても限られるという状況で、まるで『ラ・ボエーム』の世界でした。ですから、登場人物たちの気持ちはよく分かるので、いつも涙をこらえきれません。幸いにも、「泣く」のあとは私の役はセリフだけで、歌う場面はないので助かりますが。

岩田達宗演出の『ラ・ボエーム』が楽しみ
──藤田さんは、ロドルフォ役をこれまでに何度も演じていらっしゃいます。

留学中にヨーロッパでも演じました。今回はまだ立ち稽古が始まっていませんが、岩田達宗さん演出の『ラ・ボエーム』がどんなものになるのか、どういった思いで舞台ができあがっていくのか、非常に楽しみにしています。

プッチーニの特徴として、舞台の仕上がりがほとんど決まっており、楽譜を見れば映像が浮かんでくるほど、仕上がりにこだわりを持って台本が作られています。ある意味で、われわれパフォーマーが表現できる幅が狭いように思われるかも知れませんが、例えば恋愛というものが、人を好きになって、続くか別れるかというそれだけのことなのに、ひとつとして同じものはないように、今回の『ラ・ボエーム』も、その狭い幅の中でありつつ、独自なものになると思います。

総合芸術といわれるオペラは日記のようなもの
──台本が細部まで作り込まれているということですが、一般的にオペラの台本は相当厚いものだそうですね。

ええ、昔のタウンページの電話帳のようです(笑)。数年前までは、7~8本のオペラの台本とパソコンを旅行用のスーツケースに入れて、いつも引っ張って歩いていました。重さが40キロくらいになることもあるので、体力勝負でしたね。いまはデジタル化されたりインターネットで楽譜を見られるなど、非常に便利になりました。

──便利といえば、オペラを初めて見るかたは驚かれるかも知れませんが、上演中に字幕が表示されて、歌詞やセリフの内容が分かるようになりました。

現代は情報化社会なので、意味が分からないことに対するストレスは以前よりも大きいのではないかと思います。ただし、制作側のこだわりによっては、舞台に集中してもらうために字幕を付けない場合もあります。将来は、例えば片方の耳にイヤフォンを付けて、そこから歌詞の意味や場面の説明が流れるような仕組みが出てくるかもしれません。

──初めて見るかたは、あらかじめ作品について調べてから劇場へ行ったほうがいいのでしょうか。

事前に勉強して楽しむ場合と、ただただ印象的に見ておいて、あとで調べて「あれがそうだったのか」と振り返る方法と、二とおりあると思いますが、少しでも事前に調べるほうをお薦めします。

オペラは総合芸術といわれ、演劇と音楽、舞台装飾、衣裳などさまざまな要素がありますが、私はある意味で日記のようなものだと思います。オペラでは、登場人物の気持ちの全てが音楽とともに印象的に表現されるので、それぞれの日記を読んでいるような、とても濃密な2時間になります。

かつての野球少年がアカペラに魅せられ、ついには欧州へ留学
──藤田さんは、どのようなきっかけで声楽の道にお入りになったのでしょうか。

小さい頃からプロ野球選手に憧れて、高校3年まで野球に熱中しましたが、夏の県大会でベスト8まで進んで敗れたあと、心にぽっかりと穴が空いたように感じて恐怖を覚えたほどでした。そこで出合ったのが音楽です。文化祭のステージで何かやるように頼まれて、思いついたのがアカペラでした。以前、FM番組のアカペラ特集をラジカセで聴いて、その美しさに衝撃を受けたことがあったのです。友人たちと練習して次第にハーモニーが生まれ、音楽ができあがっていく過程が非常に魅力的で、本番は大好評でした。

その経験が忘れられず、大学の音楽教員養成課程に進学して声楽を学び、さらに大学院へ。ヨーロッパに留学したい気持ちはあったものの、迷っていたところ、大学の先輩でウィーンで活動していらっしゃるテノールの松江隆司さんに国際電話をかけて相談したら「迷っているんだったら、こっちに来てから悩めばいい」と言われ、決心がつきました。

──その留学中が、先ほどのお話に出た「1日1ユーロ」ですね。

パスタや野菜をまとめ買いしておき、自分で作ったスパゲッティのペペロンチーノが最高のごちそうでした(笑)。ペペロンチーノを食べて、飛び上がるくらい幸せな気持ちになっていた自分が、『ラ・ボエーム』の登場人物と共通するところがあるかもしれません。

自分の人生に寄り添う身近な物語をお楽しみください
──最後に、お客様へメッセージをお願いします。

『ラ・ボエーム』という物語は、見ているどなたにとっても、どこかで自分の人生に重なるシーンがあるのではないかと思います。心に寄り添う身近な物語なので、オペラをまだ見たことがないかたやオペラは難しいと思っていらっしゃるかたも、ぜひお楽しみください。

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