振付家・ダンサー 米沢麻佑子さん、津田ゆず香さん、富士奈津子さんにインタビュー
現代舞踊公演 TSUMUGU−次世代の命から紡ぎだされるダンス振付家・ダンサー 米沢麻佑子さん、津田ゆず香さん、富士奈津子さんにインタビュー
現代舞踊公演 TSUMUGU−次世代の命から紡ぎだされるダンス「TSUMUGU」をテーマにした「いきるもの」「雨夜譚」「脈搏つ」の3作品。躍動感あふれる舞踊に込められたメッセージや現代舞踊の魅力について、振付を担当した3名にお聞きしました。
米沢麻佑子
黒沢輝夫、下田栄子に師事。新進気鋭の若手洋舞ダンサーに送られる東京新聞制定中川鋭之助賞を受賞。東京新聞主催全国舞踊コンクール現代舞踊ジュニア部、シニア部、創作舞踊部において第1位、文部科学大臣奨励賞を受賞。近年は後進の育成にも力を注ぎ、優秀指導者賞を受賞している。筑波大学、駿河台大学非常勤講師。
津田ゆず香
清水美和子の元でモダンダンスを学ぶ。高校卒業後、井上恵美子ダンスカンパニー入所。昭和音楽芸術学院舞台芸術科・舞台監督コース卒業。現代舞踊協会主催DANCEPLAN2O1Oにてダンスプラン賞受賞。平成25年度文化庁新進芸術家在外研修員として1年間NYにて研修。現在はダンサーかつ指導者として作品発表を続けている。井上恵美子ダンスカンパニー所属。
富士奈津子
自身の誕生前から舞踊家である母、金井桃枝の胎内でダンスと出会う。2003年全国舞踊コンクールジュニア部で1位・文部科学大臣賞を受賞。以後、コンクール及び国際コンペティションでの1位総数20回ほど。近年は自身の出場のみでなく振付作品でも1位及び優秀指導者賞を多数受賞している。現在は金井桃枝舞踊研究所所属。
──「TSUMUGU−次世代の命から紡ぎだされるダンス」とは、どのような公演なのでしょう。
米沢:今回の公演はタイトルにある「TSUMUGU」をテーマに、私たち女性振付家3人の作品を上演します。約20分のそれぞれの作品がシーンのひとつになっていて、3つのシーンがつながることにより、ひとつの公演が成り立っているという形になります。各作品いずれも「TSUMUGU」という大きなテーマのもとで核としたいメッセージがあり、それを物語にして舞踊で表現します。3作品合わせて総勢約80名が出演しますので、生命力あふれるダイナミックかつエネルギーに満ちた公演になると思います。
──米沢さんの「いきるもの」、富士さんの「雨夜譚」、津田さんの「脈搏つ」、それぞれの演目のご紹介をお願いします。合わせて見どころもお聞かせください。
米沢:「いきるもの」はこの世に生きるすべての生物ということをテーマに、「生きていること」、「生きてきたこと」、「記憶の中に生きるもの」、などをイメージして創作しました。強く、はかなく、そして懸命に生きる姿や、総勢24名によるエネルギーあふれる迫力あるダンスが見どころです。
富士:「TSUMUGU」というテーマをいただいたときに思い浮かんだのが「雨」でした。私の生まれた日は雨だったそうで、初めて長靴をはいてうれしくなった日、誰かと相合い傘をしてはにかんだ日など、記憶にある思い出の中に雨があったからかもしれません。そして、すでに忘れてしまったこともすべて今日につながっていて、何気ない日常はすべて必然だから今みんな生きている、そんな思いを込めて作りました。「雨」を表現するためにたらいや傘などの道具も使うので、演者は大変ですが、そこは見どころのひとつかと思います。また、総勢29名の演者の年齢が7歳から70代までと幅広いのも特徴です。どんな年代でも表現できるものがあるのが現代舞踊なので、そこも合わせてお楽しみいただければうれしいです。
津田:もともと打楽器やアフリカンミュージックが好きで、ドラムとダンスでコラボしたいと思ったのが、今回の作品「脈搏つ」が生まれるきっかけになりました。人間が初めて耳にする音は、お母さんのお腹の中にいるときに聞く「脈」(鼓動)だと思います。そんな元々ビートに馴染みのある[人]と、音楽の骨格を成しているドラム。様々な感情と理性の中でも脈は搏ち続けていることをドラムの力を借りて表現してみました。見どころとしては、ダンサーの表現力、そしてステージにも登場する、バック演奏ではなくダンスと対等なドラムとのコラボですね。お互いが迫力負けせず相乗効果でより素晴らしい作品にできるよう、24名のダンサーと演奏家の計25名で頑張っているところです。
富士:実は、私たち3人は小さい頃からの知り合いで、これまでに何度も共演し、年齢も出産時期も近いんです。なので今回も頻繁に意見交換しながら本番に向けて準備できているのがとても楽しいです。
米沢:3つの作品をつなぐ役割として3人一緒に踊るシーンもあるので、そこもぜひ楽しみにしていただきたいですね。
──みなさん小さなお子さんがいらっしゃいます。出産前と出産後では舞踊に関する変化はありましたか?
富士:私はずいぶん変わりました。出産の1年前に大きな怪我をして、手術後のリハビリ中に妊娠・出産・育児を経験しました。30年以上も踊り漬けの日々を過ごしていたときに比べると、落差が大きく大変なブランクになったので、まさかこうして再び舞台に戻れる日が来るとは思っていませんでした。現在の生活を思うと、以前の自分にはもう戻れないなぁと感じます。
津田:「子どもを抱っこしすぎて肩が前に入りすぎないかな」など、肉体面の不安はありました。けれど、逆にそれも受け入れ、その上で何ができるかということを考えるようになりました。ずっと観てくださっていた方は「動きが違う」と思われるかもしれませんが、それも含めて今の自分を受け入れ、活かしていきたいと思っています。
米沢:「何か変わるかな?」と思っていましたが、作風や興味の対象ががらりと変わるわけでもなく、思いのほか目立った変化はありませんでした。ただ、自分に使える時間が少なくなったので、その限られた時間でどう集中して作品を作り上げるかということは考えるようになりましたね。
──現代舞踊の魅力、現代舞踊だからこそできることは何だと思われますか。
津田:現代舞踊というのは何でもありだと思うんですね。体だけで表現するもよし、音を使う使わないもよし、すべて表現する側の自由です。何でも自由ということが難しいところでもあるのですが、何にでも変身できる、このNGがない自由というのは現代舞踊の大きな魅力だと思います。
米沢:津田さんの言うとおり、自由な表現ができるということは現代舞踊の魅力であり強みだと思います。また、言葉では伝えきれない思いも、踊りを通して観に来てくださった方に伝えられるものだと感じます。
富士:同じ振り付けをしているはずなのに、現代舞踊では十人十色の踊り方があります。それに、個人の鼓動の速さや感情の起伏によってスピードや角度なども変わってしまうのに、全員でしっかりそろえることもできるのも現代舞踊の魅力だと思います。さらに現代舞踊界では、義足の方や車椅子の方・持病を持つ方も、それをハンデではなく自分のカラーとして活躍しているのが素晴らしいところです。
──都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧のみなさまにメッセージをお願いします。
米沢:次世代の命から紡ぎ出されるダンス「TSUMUGU」では、私たち女性振付家3名の作品を上演します。「いきるもの」では、この世に生きるすべての生物をテーマに「生きていること」「生きてきたこと」「記憶の中に生きるもの」をイメージして創作しました。
富士:「雨夜譚」では、3作品の中でいちばん年齢層の広いダンサーたちが、それぞれにしか演じられない役どころを紡いでいく姿をお見せしたいと思っています。
津田:「脈搏つ」では、ビートを打つドラムの力を借りて、24名のダンサーとドラムとがコラボした大迫力になるような作品を目指しました。
米沢:それぞれの振付が身体表現の可能性をとことん追求した3つの作品はカラーや個性が異なるので、きっと楽しんでいただけるのではないかと思います。また、本公演を通じて少しでも生きる力や生きていることの尊さ、生きることの喜びを感じていただけたらと思います。次世代の命から紡ぎ出されるダンス「TSUMUGU」、3月18・19日、大田区民ホールアプリコ・大ホールにて開催いたします。お待ちしております。