ニキヤ吉田早織さん、ソロル小野寺正太さんにインタビュー

日本バレエ協会 「ラ・バヤデール」

エキゾチックな非日常に引き込まれる「ラ・バヤデール」

バレエでは珍しくインドを舞台にした「ラ・バヤデール」。ダンサーに高い技術が求められることでも知られます。ニキヤ役の吉田早織さんとソロル役の小野寺正太さんに、作品の魅力や見どころ、バレエに対する思いなどをうかがいました。

吉田早織(よしだ さおり)

7歳よりバレエをはじめる。2014年新国立劇場バレエ団入団、2015年東京バレエ団に入団。2018年Kバレエ カンパニーにアパレンティスとして入団。2021年9月ソリストに昇格。主な出演作は熊川版「ロミオとジュリエット」のジュリエット、「ドン・キホーテ」、熊川振付「カルメン」のミカエラなど。現在はフリーダンサーとして活躍中。

小野寺正太(おのでら しょうた)

6歳よりバレエを始める。木ノ内真由美、沼尻祐二氏に師事。15歳より佐藤勇次氏に師事。翌年ロシア国立ペルミバレエ学校に留学。在学中にペルミバレエコンクール特別賞受賞。留学後、ロシア国立バレエに入団。2017年ルドルフヌレエフ記念ロシア国立バレエ団に移籍。ロシア国内、アメリカ、ヨーロッパ各地にて公演をしている。

舞台はインド、愛憎ひしめく世界で待ち受ける愛し合う二人の運命

──「ラ・バヤデール」は南インドを舞台にキューデコフが描いた、インドの神殿に仕える巫女ニキヤと戦士ソロルの悲恋物語です。マリウス・プティパが振付し、1877年に初演されました。規模の壮大さに加え、相応のダンサーでないと上演は困難という、レベルの高い演目のひとつです。
「ラ・バヤデール」の魅力はどんなところでしょう。

吉田:西洋の文化であるバレエの作品としては珍しくインドを舞台とした作品で、舞台装置や衣装の装飾がエキゾチックでとても華やかです。そして役柄ごとの感情の機微とメロディーがリンクしているミンクス作曲の情緒溢れる音楽が素晴らしく、私たちダンサーも音楽に助けられています。複雑な人間関係が織りなすドラマティックな展開を楽しんでいただける作品です。

小野寺:強く気高い戦士ソロルがニキヤを愛してやまないところです。心から愛おしく思っているのにガムザッティと結婚することになり、それでも最後まで心はニキヤにあるという……。変わらないでいることの大切さを教えられるのは、「ラ・バヤデール」の魅力だと感じます。

ダンサーの高い技量が求められる難しい演目だからこそ、見どころも満載

──見どころをお聞かせください。

吉田:第3幕の黄泉の国です。一糸乱れぬ影のコールドバレエはこの作品最大の見どころのひとつだと思いますし、高度なテクニックを必要とする数々のバリエーションも見ごたえ抜群です。また、ストーリーも愛と裏切り、プライドが交差してドラマティックなので、ニキヤ、ソロル、ガムザッティのどの役の視点から観るかによっても作品の見え方が変わってくるというのも面白いと思います。ぜひ感情移入してご覧下さい。

小野寺:第2幕の黄金の像の踊りもおすすめです。黄金の像を任されるのは誰もが認める一流のダンサーの証だと思いますし、男性舞踏家としての栄誉です。

──これまでに「ラ・バヤデール」に出演されたことはありますか。

小野寺:初めてバヤデールに携わったのは、ロシアのペルミバレエ学校留学中、卒業公演で黄金の像のバリエーションを踊った時です。その後、ソロル、黄金の像、兵士役などで出演してきました。学生の頃は、最初から最後まで踊りきることに必死だったのがいい思い出です。特に黄金の像を踊る時は、朝から晩まで映像を見あさり勉強しました。

吉田:東京バレエ団在籍時代に影のコールド、2幕のワルツで出演させていただきました。ダンサー全員意識を集中させてミリ単位で動きを揃え、それでいて現実的であってはならない難しさというバレエの本質のようなものを教わり、たくさんの学びがありました。幼少期にロシア人ダンサー、スヴェトラーナ・ザハーロワさんのニキヤの映像を観た時からいつか演じてみたいと切に願っていたので、夢が叶って本当に嬉しいです。

どんな場所の舞台もすべて特別なもの。一度は引退を決めたからこそ今がある。

──小野寺さんはロシアのバレエ団でソリストとして活躍されています。日本での公演には特別な思いはあるでしょうか。

小野寺:どこの国でも、どんな場所でも、気持ちに変わりはありません。バレエの師から「場所がどこでも、床がコンクリートでも、私たちダンサーは常に精一杯やること。子どもがサンタクロースからのプレゼントを楽しみに待つように、公演当日までのお客さまの気持ちを考えて稽古にリハーサルに励むこと。それを忘れる時がくるなら、その時は舞台に上がってはいけない」と教わりました。僕にとっては舞台一つひとつすべてが特別なものです。

──吉田さんはK-BALLETでソリストを務められるなど、さまざまな作品に出演されてきました。なぜフリーダンサーの道を選ばれたのでしょう。

吉田:実はフリーになるつもりはなく、ダンサーを引退するつもりでバレエ団を退団しました。それが約1年前に「パキータ」全幕の出演依頼をいただいて以来、「求めてくださる方がいる限りは踊ろう」と、フリーダンサーになった次第です。結果的に、自由な心で踊れる今はとても幸せです。一度は辞めると決めたバレエに関して失うものはもう何もないので、今の私は強いと思います(笑)。そして自分のバレエを客観視する時間があったことで、初心に返って取り組むことができています。まだまだダンサーとして成長していきたいと思う毎日です。

──おふたりは初共演になるそうですね。

小野寺:練習から伝わる彼女の勤勉さはすさまじいほどです。きっと、舞台では実際の身長よりずっと大きく見える方だと思います。また、ニキヤは女性の聡明さ、強さ、海のように広い心のすべてを持ち合わせている役だと思うのですが、さおりさんの人柄もそのものなんだろうと勝手に思っています(笑)。さおりさんのニキヤを、僕もお客様と同じくらい楽しませていただくつもりです。

吉田:お会いしたその日から、バレエへのパッションがあふれ出ている方だと感銘を受けたと同時に、私とは違うタイプのダンサーだなとも感じました。バレエの面白いところは、違うタイプの2人のダンサーが化学反応を起こした時、誰も予想しないことが起こり得るということ。私たち2人にはきっとそんな何かが起こるはずです。2人で力を合わせて、お互いが舞台でしっかりと役を生きられるよう、精進していきたいです。

知識も予習も不要。映画を観に行く感覚でバレエも観に来て欲しい

──普段あまりバレエを観る機会のない方に、バレエ鑑賞を楽しむコツなどがあれば教えてください。

吉田:「バレエの知識がないと楽しめない」、「台詞がないから理解するのが難しそう」など、ハードルが高くと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、バレエを観る際のルールは一切ありません。生の総合芸術を目で、耳で、肌で感じてください。そして日常から少し離れた世界に浸っていただきたいです。

小野寺:映画を観る、くらいの気持ちでいらしてください。普段と変わらない感覚で観るのは、芸術を楽しむ上で大事なことだと思います。「今日バレエ行かない?」くらいのノリで来ていただき、まず壮大な音楽に、幕が開けば華やかなセットと衣装、そしてダンサーの踊りを楽しんでいただけたらうれしいですね。音楽の美しさに睡魔に襲われてしまうことがあるかもしれませんから、睡眠はしっかり取っていらしてください(笑)。

──都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧のみなさまにメッセージをお願いいたします。

小野寺:みなさまから暖かい拍手をいただけるよう、ダンサー一同、全身全霊をかけて臨む所存です。会場でお待ちしています!

吉田:この作品は、ダンサーにとって肉体的にも精神的にも本当に難しい作品です。一人ひとりの役のドラマを感じていただけるよう、私もニキヤを精一杯勤めます。出演者一同力を合わせて素敵な舞台となるよう稽古に励んでいますので、ぜひ観にいらしてください。



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