中村梅彌さんにインタビュー

第66回日本舞踊協会公演

日本舞踊界を代表する舞踊家が流派を超えて集結する、日本舞踊の「宴」

中村流家元を継承し、門弟への指導や歌舞伎舞踊の振付を手掛けるほか、日本舞踊協会理事として学校巡回公演を担当し、普及活動にも努めている中村梅彌さん。日本舞踊の魅力と公演の楽しみ方など、お話を伺いました。

中村梅彌(なかむら うめや)

中村流八世家元。父・七世中村芝翫、二世藤間勘祖に師事。日本舞踊協会理事。歌舞伎の振付やテレビ・映画などの所作指導を担当するほか、日本舞踊協会主催公演、国立劇場主催公演、ジャポニスム2018日本舞踊フランス公演等に出演するなど国内外の舞台で活躍。流儀門弟への指導をはじめ、子供向け事業の監修、初心者を対象としたワークショップ「梅の手習ひ」を開催するなど、普及活動にも携わっている。主な受賞に日本芸術院賞、文化庁芸術祭優秀賞、舞踊批評家協会新人賞など。

公演の幕開けを飾る「雛鶴三番叟」、翁の役に込める思い

──今回の公演全体のご紹介をお願いします。


大和楽「今昔浅草模様」 第65回日本舞踊協会公演より

現代、第一線で活躍中の舞踊家の方たちが流派を超え、若手からベテランまでが一堂に会する公演です。地歌舞や歌舞伎舞踊だけでなく、素踊りや近現代に創作された踊りなども披露され、日本舞踊はこれほど幅広いジャンルがあるということを知っていただけるかと思います。2日間で3回の公演があり、すべて演目は異なりますので、気になる演目やお気に入りの舞踊家が出演される公演にいらしていただくもよし、全公演をご覧になって多彩な日本舞踊の世界を満喫していただくもよし、一年に一度の貴重な機会をお楽しみいただければ幸いです。

──中村さんが「翁」を踊る「雛鶴三番叟」のご紹介をお願いします。

「三番叟」とは能楽の「翁」を元にした舞踊で、五穀豊穣や国土安穏を祈願して翁、千歳、三番叟という3人で踊ります。長唄に何種類かある「三番叟」の中で、この「雛鶴三番叟」が最も古くに作曲されたと言われています。ほかの「三番叟」に比べてとても柔らかな女性らしさのある内容で、今回は藤間恵都子さんの振付となります。これまでは千歳の役が圧倒的に多く、翁は今回が初めてです。私も翁を踊る年齢になったのだと実感しています。翁は神様ですから重厚に踊らなければいけないと、身の引き締まる思いでいます。千歳役と三番叟役のお二人とは親子くらい年が離れていますが、恵都子さんが「三人姉妹のつもりで」と言ってくださったので、3人一緒に踊るところはまさにその気持ちで踊っています。

今回の公演での最初の演目となりますので、素晴らしい公演になりますようという思いと、会場にいらしてくだったお客様が幸せな思いになるよう、楽しんでいただけるようにという思いも込めて踊りたいと思っています。

踊りの意味が分かると次は歌が聞こえるようになる

──日本舞踊という芸能についてご紹介ください。

日本舞踊は歌舞伎の舞踊の部分に特化したもので、男性だけの歌舞伎舞踊と異なり、女性による舞踊が加わって発展したものです。踊りと舞と仕草という3つの要素からなり、扇を使って舞い踊ることや、踊りで風景を描写する点などに特色があります。江戸時代、庶民の娯楽として人気だった歌舞伎は、作中で女形が踊る歌舞伎舞踊も注目も的でした。今の時代に人気アイドルのダンスを真似るように、当時も流行りの歌舞伎舞踊を教える教室があちこちにあったほどです。魅力的に感じる踊りを自分でも踊ってみたいという気持ちは、昔も今も同じですね。

──日本舞踊の魅力とはどんなところにあると思われますか。

弟の九代目福助のファンの方が、私が開催している「梅の手習ひ」というワークショップに参加してくださったことがあります。そのとき歌舞伎公演で福助が踊っていた「紅葉狩」の振りの解説をしたところ、25日間連続で観ていた方が、踊りの意味をまったくご存じありませんでした。役者の顔ばかり見ていたようです(笑)。「こういう扇の動かし方は、お酒をついであげている仕草を表しているんですよ」と言うと、「そういう意味があったんですか!」と。踊りの動きの意味を知ってからは「これまで以上にもっと面白くなりました」と喜んでいただけました。踊りの振りに意味があること、それを知るために勉強が必要なこと、これは日本舞踊の魅力だと思います。

そして意味がわかるようになると、今度は演奏者の演奏している声も聴こえてくるようになるはずです。昔は日常的に三味線の「ちんとんしゃん」が聞こえていましたが、今は学校教育でもあまり取り上げられません。私は学校の音楽の授業で三味線音楽を聴くだけでなく体験する機会を作っていただきたいと強く願っています。三味線音楽には歌がつきますから、最初は何を歌っているのかわからなくても、何度か聴いていると歌詞が聞き取れるようになります。そうするとますます日本舞踊の奥深さを知っていただけるでしょう。

日本舞踊は、三味線も歌もお囃子も踊り手も息で合わせます。オーケストラのように指揮者がいるわけではないので、みんなに「合わせよう」という気持ちがなければ成り立ちません。この気持ちは日本人が昔から持っている素晴らしいもので、それが日本舞踊に備わっているのは私自身もうれしいですし、息がぴったり合って踊るのは本当に楽しいのです。

鑑賞を楽しむために「推し」を見つけるのもおすすめ


常磐津「乗合船」 第64回日本舞踊協会公演より

──普段あまり日本舞踊を観る機会のない方に、鑑賞を楽しむためコツなどがあれば教えてください。

「勉強して知るほど日本舞踊は楽しくなる」とは言いましたが、今回の公演については古井戸秀夫先生が見どころの説明をしてくださいますからご安心ください。プログラムに書かれている解説なども、ぜひ目を通してみてください。最初は「踊りがきれいだな」だけでもいいと思うんです。次に耳を澄まし、歌を聴いてみていただくと、踊りと歌詞の内容が合致して「なるほど!」と楽しんでいただけると思います。次は気になった踊りやいわゆる「推し」を見つけられたら、公演に足を運ぶ機会も増え、どんどん日本舞踊との距離が縮まっていくはずです。

──今回の公演のほかのご紹介もお願いします。

1日目の公演でいえば、「連獅子」は親の獅子が子どもを谷に落として自力で登って来た獅子だけを育てるという日本舞踊版「ライオンキング」ですから、どのような踊りであらすじを表現するのかが見どころのひとつです。また「お染」は、日本舞踊では子どもの時に習う踊りなのですが、お話は大坂油屋の娘お染と店の丁稚の久松の心中ものです。歌舞伎や人形浄瑠璃でも人気の「野崎村」とつながっていますので、「野崎村」のあらすじをご存じだと、より踊りの意味がわかりやすいでしょう。

日本舞踊という芸能に触れ、体験し、身近なものに感じて欲しい

──日本舞踊の現状とこれからの展望について、ご意見をお聞かせください。

日本舞踊は伝統を守るだけでなく新作も作っていますし、今後も変化を恐れずイノベーションを繰り返していく必要があると考えています。また、ぜひ若い方に日本舞踊という芸能に触れていただきたいです。世にはさまざまな習いごとの教室があり、働いている方も学生さんも、自分の興味のある習いごとを楽しんでいらっしゃいます。日本舞踊もそういった習いごとのひとつです。ダンスが好きな方なら、日本版ダンスである日本舞踊を習うことで、より踊りの幅が広がるかもしれません。日本舞踊を通して日本の歴史や着物に興味を持つ方もいらっしゃるでしょう。日本舞踊の体験会やイベントなどの機会を設け、最初の一歩のきっかけ作りには今後も取り組んで行くつもりです。

──都民芸術フェスティバル公式サイトをご覧のみなさまにメッセージをお願いします。

第66回日本舞踊協会では、現在活躍している若手からベテランまでが流派を超え、一つひとつの演目に心を込めて踊ります。人気の古典舞踊から比較的新しい舞踊、上方舞など、日本舞踊の魅力を存分に楽しんでいただけると思いますので、ぜひお出かけくださいますようお願い申し上げます。



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