演出家 小笠原 響さん
俳優 千賀功嗣さん・夏海 遙さん・西本さおりさんにインタビュー

劇団俳小 第49回本公演「闇の河」

一度は中止になってしまった舞台。1年半温めた想いをしっかりステージの上でぶつけたい。

オーストラリアに入植したソーンヒル一家と先住民、アボリジニとの対立を描いた作品「闇の河」。そこには生きる力、エネルギーが満ちていると出演者のみなさんは、熱っぽく話しています。ここでは演出の小笠原 響さん、主要キャストを演じられる千賀功嗣さん、夏海 遙さん、西本さおりさんに作品への想いを伺いました。

小笠原 響(おがさわら きょう)

演出家。劇団俳優座、文学座、木冬社、木山事務所などで演出を学ぶ。その後、数多くの舞台監督、演出助手、演出を務め、現在はフリーの演出家として活動。俳優座、劇団昴などの劇団公演や都内を中心としたプロデュース公演の演出を担当し、市民演劇・ミュージカルの演出も多数ある。日本演出者協会会員。2018年、読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。

千賀功嗣(せんが いさし)

俳優、ナレーター。劇団俳優座に入団後、俳優座の作品に出演しながら客演としてもあらゆる劇団での演技を経験。舞台だけでなく映画、テレビドラマと幅広い活躍をみせている。

夏海 遙(なつみ はるか)

俳優。劇団昴に所属後、現在はプロダクション所属の女優として、さまざまな劇団の舞台に立つ。映画、テレビドラマに加えて、多くのテレビコマーシャルにも出演している。

西本さおり(にしもと さおり)

俳優。勝田声優学院を卒業した後、劇団青年座研究所、劇団俳小附属俳優養成所を経て、劇団俳小に所属。女優として、数多くの舞台で活躍している。

日本初演の舞台、入植者とアボリジニの対峙を描いた作品です。

──上演される作品をご紹介ください。

小笠原 オーストラリアの作家ケイト・グランヴィルという人の原作を脚本家アンドリュー・ボヴェルがお芝居に書き直した作品です。その作品を翻訳家の佐和田 敬司さんが日本語に翻訳したものを上演いたします。今回が本邦初の上演です。オーストラリアの建国の歴史に関わる話でして、イギリス人の入植者と、先住民たちとの対立が描かれます。先住民の方からすると、それは侵略の歴史です。でも、入植者たちにも切実な事情があった。これらは文明と自然の対立とも言えるかもしれません。そんなある種、歴史の闇を扱った作品です。

──見どころを教えてください。

小笠原 翻訳劇は、基本的に全てのセリフを日本語に翻訳するものなのですが、この作品は先住民、アボリジニたちの言葉は訳さずにそのままの言葉で話すという試みを取り入れています。舞台上で、まるっきり違う二つの言語がぶつかり合うわけです。お互い、意思疎通ができないということが舞台上でもリアルに繰り広げられる。そこが見どころかなと思っています。

ソーンヒル一家の感情や彼らがどんな選択をするのかを、しっかり伝えたい。

──演じられる役柄を教えてください。

千賀 主人公のウィル(ウィリアム・ソーンヒル)を演じる千賀功嗣です。彼はイギリス出身なのですが、島流しにあってオーストラリアに渡り開拓をしていきます。一言で言うなら、長年、夢を持ち続け、それを叶えるために努力し続ける男ですね。彼は、自分の信念は絶対に曲げないし、家族のために生きようとする。その部分を見ていただけたらと思います。


夏海 ウィルの妻、サル・ソーンヒルを演じます夏海 遙です。サルは原作を読んだときからとても演じたい役でした。ウィルとは幼なじみで、オーストラリアに渡ってからも彼を支えます。ウィルを信じて生きていく、そんな女性です。ウィルはシドニーの土地を手に入れてそこで生活したいと考えていますが、サルはロンドンに戻りたいと思っています。そこで意見が分かれていくんですね。けれど、サルが一番にしているのはやはりウィルへの想い。世界中、どこにでもついて行くという信頼感や愛情もある。その愛の強さを観てほしいと思います。


西本 ディラビンという物語の語り手とドゥラ・ジンという先住民の役を演じます西本さおりです。ディラビンは観客と一緒になって、ソーンヒルたちがどうなっているかを見つめているという視点です。お客様には、ソーンヒル一家がどんな選択をするのかを私と一緒に観ていただけたらうれしいです。

生きる力にあふれた物語。この作品が発するエネルギーを体感してほしい。

──作品を通して、どのようなメッセージを届けたいでしょうか?

千賀 オーストラリア文学やカナダ文学などの海外作品は、このように翻訳劇として演劇化されることが多いんです。その当時の文化や、人種の問題などがフィーチャーされていくのですが、この作品では、人と人、そして文化と文化の違いを描いていきます。我々も今、いろいろと学ばせていただいているので、お客様にもそれが伝わればと思っています。作品全体にすごいエネルギーがあり、そのエネルギーを味わっていただきたい。人が発するオーラ、エネルギーがそれぞれのシーンに散りばめられています。

夏海 劇団俳小さんでは、以前、今回と同じ劇作家アンドリュー・ボヴェルの「聖なる日」という作品を上演されていて、それをお客として観て衝撃を受けたんですね。西本さんも熱演されていて、本当にとても面白い舞台で……。今回は皆さんからそのバトンを受け取り、次につないでいきたいです。「闇の河」はまさに生への渇望、とてもエネルギーのある作品で、オーストラリアの大地も描かれます。物語が発する、生きる力を感じ取っていただけたらと思います。

西本 オーストラリアは今、観光の名所として有名ですが、その裏にある闇の部分に、この作品で触れていただけたらと思います。皆さんが正しいと思うことだけが正解じゃないということに気づいてほしい。もっと優しい世界になっていけたらなぁ、という気持ちが伝わればと思っております。

50周年を迎えた歴史ある劇団、個性豊かな人々が集っている。

──劇団俳小はどのような劇団ですか?

西本 劇団俳小は創立が1974年の1月でして、ちょうど50周年にあたります。前身となっているのが演出家の早野寿郎、俳優の小沢昭一両名が中心となり活動した劇団俳優小劇場。その想いを今の代表が受け継ぎ、海外演劇、そして日本の新作を上演してきました。小説や詩を元とした、演劇や戯曲の枠や理念にとらわれないような作品も幅広く扱うのが特徴で、小中学校、高校など学校公演も精力的に行っています。

──小笠原さんはさまざまな劇団の演出をされていますが、小笠原さんから見て、劇団俳小はどのような劇団ですか。

小笠原 人間味もありますし、個性も強く気さくな方が多いんですよ。メンバーそれぞれがさまざまな味を持ってらっしゃる。それにプラスして実力派の俳優を他の劇団からも客演という形で招いています。劇団員たちと客演の方たち、そこで生まれる化学反応がすごく面白くて、僕としてはとても刺激的な現場になっています。

──千賀さん、夏海さんは今回、客演として参加されますがどのような感覚ですか?

千賀 今回のようにほかの劇団に呼んでいただけると、初めて一緒にお芝居する人も多くとても新鮮です。新しいエネルギーをいただけます。そうすると相乗効果で僕も今までできなかったような表現ができる。本当にたくさんの刺激をいただいていて、感謝しています。

夏海 実は俳小さんには以前、何度か客演させていただいていました。知っているメンバーも多く、今回も楽しみです。また呼んでいただいてうれしいですね。

セッションのような役者のやりとりを届ける、ライブだからこその面白さ。

──ずばり、舞台の魅力とは?

千賀 月並みなのですが、やはりライブ感ですね。舞台はナマモノなので10回の公演があったら10回が全て違う。来てくださるお客様も、そこをとても楽しみにされています。我々もそのような舞台ができるよう心がけて、常に新鮮な気持ちで望みたいです。

夏海 役者同士のやりとりは、ジャズのセッションのようなものとはよく言われますけれど、その変化も面白い。また、お客様とのライブ感があるやりとりもとても面白いですね。以前、「父と暮らせば」という二人芝居に出演したときに、号泣されているお客様がいたのが印象的でした。それだけこちらから何かを渡すことができた、共感してもらえた。それがとても良い経験になっています。

西本 本当にお二人のおっしゃる通りですね(笑)。やはり生の舞台というのが一番の醍醐味だと思っています。例えば失敗してもその瞬間、舞台にいるメンバーで何とかするしかない。テレビのように、カメラを止めたりすることもできない。そういう部分も含めてライブという楽しさがあります。

上演4日前の公演中止。あの悔しさから1年半を経て、作品はパワーアップしています。

──今回の公演は一度、延期になってしまったそうですね。

小笠原 ちょうど1年半前、2022年の夏に上演予定だったのですが、いよいよ劇場に入る直前で新型コロナウイルスの影響で、中止という苦渋の決断となりました。みんな残念な想いをしたのですが、劇団としてはいつか絶対に再上演をするとおっしゃっていた。それで出演者、スタッフは散り散りになりながらもまた集結して、上演に向けて稽古を重ねています。1年半の間、温めた想いをぜひ舞台にぶつけたいです。

西本 当時はただただ悔しいという気持ちだけでした。けれども時間を置き、この時間が逆にありがたかったと思えた部分もあるんですよ。私ごとですが、出産も経験し以前は見えなかったものが見えてきました。母親の立場になり作品の見え方も変わってきましたね。「闇の河」は残虐な歴史へのメッセージでもあるのですが、子どもたちのために温かい世界であってほしいという想いもテーマの一つだと感じています。そこまで伝わったらいい、それがこの1年半の間で感じたことですね。

夏海 本番の4日前に中止と決まり、私は家で一人で泣いてしまいました。みんな悔しかったと思いますが、でもその分、猶予ができた。私はこの間に、物語の舞台、オーストラリアに旅行に行きました。ブルーマウンテンというところに行って丘の上に立ったら、本当に一面の緑でブルーが広がっていたんですね。入植者と先住民がこの土地を取り合っていたということを、実際に感じられました。この期間にいろいろな経験ができたので、パワーアップしたサルをお見せできればと思います。

千賀 時間を置くことによって、以前は気づけなかったことを気づくことができます。まだ本番まで時間があるので、前回作りあげた良いものと前回できなかったこと、そして今回感じたものを合わせていけたらと思っています。そんな新たな気持ちが生まれて、一度中止になってしまったことも、今は良い意味として捉えているんです。

開拓者の物語にして普遍的な愛を描いた作品。ぜひ劇場で体感してほしいです。

──最後にお客様に、メッセージをお願いします。

小笠原 オーストラリアの壮大な自然をバックに、劇団俳小のメンバーが望む舞台。先住民アボリジニと、彼らの土地に入ってきたイギリス人入植者たちの交流、それから壮絶な争いを大きなスケールで描きだした作品になっています。ぜひ両国シアターX(カイ)に観に来ていただければと思っています。お待ちしています。


千賀・夏海・西本 劇団俳小公演「闇の河」、両国シアターX(カイ)で2月16日から25日まで上映いたします。貧困から這い上がる男の物語であり、普遍的な家族の物語であり、日本では上演機会の少ないアボリジニに光を当てた作品です。ぜひ、お越しください。



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