砂川涼子さんにインタビュー
日本オペラ協会「静と義経」砂川涼子さんにインタビュー
日本オペラ協会「静と義経」1993年に初演、2019年に再演されて大きな話題を呼んだオペラ「静と義経」が、6年ぶりに上演されます。その命が尽きるまで義経への思いを貫いた静を演じる砂川涼子さんに、静への思いと作品のみどころや魅力、そしてオペラになじみのない人でも気軽に鑑賞できるヒントなどを伺いました。
砂川涼子(すなかわ りょうこ)
ソプラノ歌手。武蔵野音楽大学卒業、同大学大学院修了。2001〜2004年に第10回(財)江副育英会オペラ奨学生として、2005〜2006年に五島記念文化財団奨学生としてイタリアで研鑽を積む。第34回日伊声楽コンコルソ優勝。第69回日本音楽コンクール第1位。2006年第12回リッカルド・ザンドナイ国際声楽コンクールでザンドナイ賞受賞。第16回五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。2024年に2枚目のCD《悲しくなったときは~日本歌曲のしらべ》をリリース。藤原歌劇団団員。日本オペラ協会会員。武蔵野音楽大学非常勤講師。沖縄県出身。
──「静と義経」のあらすじを教えてください。
源義経と側室の静の悲恋のお話です。物語は義経が頼朝方に追われて吉野の山を越えるところから始まります。義経は自分の子を身ごもっている静の身を案じて京に帰そうとし、泣く泣くふたりは別れます。ところが山を下りる静は案内人たちに財宝を奪われるなど、苦難を味わいます。その後、鎌倉に送られると鶴岡八幡宮の境内で白拍子として歌い舞ったのが頼朝の不興を買い、「生まれた子が若君ならば由比ヶ浜の海に沈める」と言われてしまいます。悲しいことに生まれた子は若君で、頼朝の家臣に赤子を奪われてしまった静は、義経の後を追って命を絶ってしまうというストーリーです。悲劇ではありますが静がひたすらに義経を想う、ロマンティックなお話でもある、そんなオペラです。
オペラでは実在しない人物を演じることが圧倒的に多いです。ここ数年色々な役をいただいている日本オペラでも、妖精や動物、あるいは架空の人物などを演じてきました。今回初めて歴史上のよく知られる実在した女性を演じるということで、どのように役作りをするか思案したとき、役を作るというより静の話す言葉から出てくる感情を大切にして、そこを表現できればいいのではと思いました。ですから今の稽古の段階では、静の思いに涙があふれて歌えなくなってしまうこともありますが、気持ちが頂点に達してそこを超えると、役が降ってくるような感覚があります。そうなると、「こう歌おう」とか「こんな表情をしよう」など考えることもなく、ちょっと神々しいような感覚になります。その域に達することを目指して、今は稽古に励んでいるところです。
──今回の公演の魅力、見どころ、聴きどころをお聞かせください。
今は音楽稽古がメインなので、セリフと音をしっかり表現できるようにしているところです。立ち稽古になると動きも加わりますが、「間」を埋めるのは自分の仕事でもあるので、いろいろディスカッションしながら作り上げていくのが楽しみです。
出演者が多いオペラなので舞台がとても華やかです。しかもそれぞれの登場人物の個性も物語のすべてのことがらに絡んできますので、静と義経を取り巻く人々にもぜひご注目ください。また、音楽では二十絃箏などの和楽器も用いられていて、独特の響きをお楽しみいただけます。そして白拍子の舞のシーンを私たちオペラ歌手が舞うことになれば、それも見どころのひとつになると思います。一生懸命稽古しないといけませんね(笑)。
登場人物が全員日本人なので日本人が演じることも自然で、視覚的にも違和感なくすっと「静と義経」の世界に入っていただけると思います。何よりこの作品は日本語のオペラなので、言葉がお客様へダイレクトに届き、字幕がなくてもある程度内容を聞き取れるのは大きな魅力だと思います。とはいえセリフではなく歌ですから、いかに美しく発語できるかにも気をつけています。
──オペラの魅力はどのような点にあると思われますか。
オペラは総合芸術なので、歌だけでなく演出も入りますし、舞台装置や衣裳も追求しています。加えてオーケストラの演奏というすべてが整った状態で上演されるのでさまざまな楽しみ方ができますが、どんなアプローチでも必ず「感動」があると思います。物語を具現化しているものへの感動、キャストの声がマイクなしで会場の隅々まで響くことへの感動、ストーリーへの感動、演奏への感動など、胸が熱くなる要素がひとつのオペラ作品に凝縮されているというのは素晴らしいと感じます。私自身もオペラで誰かを演じることが大好きですし、本番に向けてみんなで作り上げていく工程は苦労もありますが、目指すものに着実に近づいていく喜びも大きいです。
──普段あまりオペラになじみのない人でもオペラを楽しむコツなどありましたらお聞かせください。
今まで、オペラになじみがないとおっしゃる方でも、ぜひ会場でライブならではの醍醐味を体験していただきたいです。「声量がすごい」とか「ストーリーに感動した」「オーケストラの演奏が迫力満点だった」などといった感動があるでしょう。また、日本語のオペラでもイタリア語のオペラでも字幕がありますから話の流れもわかりますし、公演によってはプレトークなどで演出家や出演者などからその作品やオペラの面白い話を聞けたりもするので、ぜひ参加されてみては如何でしょうか。
今はインターネットで映像も音もきれいなオペラを気軽に鑑賞することができます。もちろんオペラへの入口として動画で楽しむのはありだと思っていますが、人間の生の声は機械に収まらないところがあります。会場の空気が震えるような迫力はその場にいなければ味わえません。一度それを体験すれば「動画ではなくまた会場に行きたい」と思っていただけるのではと思います。
ストーリーや音楽の予習をしてからオペラ鑑賞に臨んだほうがいいのかと聞かれることもありますが、そこはあまり気にしなくても大丈夫です。確かにあらかじめ作品に対する情報を得ていたら、よりわかりやすいかもしれません。けれど予習なしの状態でも安心してご覧いただけますので、構えることなく気軽にいらしていただきたいですね。実は、人の声は2階席にとてもよく響くんですよ。それに舞台全体を俯瞰で見られますよね。端の席だと、その角度からしか見えないところが見えるといった楽しさもあります。そしていい席は舞台が近いですから、キャストの表情も息遣いも感じられる臨場感を堪能できます。どの席にもそれぞれの良さと楽しみ方があるので、そういったことも参考にしていただければうれしいです。
──都民芸術フェスティバルのウェブサイトをご覧のみなさまへ一言メッセージをお願いします。
「静と義経」は、日本オペラ協会が総監督郡愛子先生のもと、総力を挙げて上演します。見どころ満載ですが、なかでもひょっとしたら私の舞のシーンもあるかもしれませんので、そちらも楽しみにしていただけたらと思います。出演者一同、会場でお待ちしておりますので、ぜひご来場ください。