バリトン歌手 須藤慎吾さんにインタビュー

日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.86「ニングル」

どの部分を切り取っても素晴らしい作品。今に通じる普遍的なテーマを、新しい音楽でオペラ化します。

日本オペラ協会が紡ぎ出す純国産のオペラ「ニングル」。どこか懐かしさを感じ、沁みる音楽、そして日本語の美しい響き、そんな日本語オペラの魅力を感じてほしいと、バリトン歌手須藤慎吾さん。倉本聰さんの作品が初オペラ化ということで注目度も高い本作の魅力、オペラそのものの楽しみ方について、須藤さんに伺いました。

須藤慎吾(すどう しんご)

和歌山県田辺市出身。国立音楽大学卒業、同大学院修了。国内外のコンクールに入賞しその声は”ヴォーチェ・デル・レオーネ(Voce del leone=ライオンの声)”と称される。ソロアルバム「アリエ~オペラアリア集~」など多数の作品も発表し、近年はフランスオペラの研究と後進の指導にも力を入れている。国立音楽大学非常勤講師、日本オペラ協会会員。藤原歌劇団団員。

伝説の小人、ニングルと出会うことで動き出す壮大なストーリー。

──上演される演目をご紹介ください。

今回は「ニングル」というオペラを上演します。このタイトルは、アイヌの言葉で小さい人という意味です。北海道の伝説の小人、ニングルとの出会いがターニングポイントとなり物語が展開していきます。私は村のために森の開発を進める中心人物、勇太ゆたを演じますが、彼の一家がどのような人間模様を描いていくのか、そして森と生き物。この二つがストーリーの中で大きな要素となっていきます。40年ほど前の作品で、当時のメディアではそれほど大きな問題にならなかったかもしれませんが、「ニングル」では既に環境の問題を取り扱っています。また、北海道の開拓の話でもあります。歴史を紐解いてみると、開拓で大成功する人もいれば、大変苦労された方もたくさんいらっしゃった。北海道に根付き活動をされてきた倉本聰さんは、これらのことをいち早くキャッチし発信されたのだと感じています。

──作品の見どころを教えてください。

最初から最後まで目が離せないオペラで、どの部分を切り取っても素晴らしい作品。見どころとしてはやはり音楽です。音楽は我々が普段接しているクラシカルなものに比べても、美しさが際立っていると思います。作曲の渡辺俊幸先生の音楽は、初めて聴く音楽なのにも関わらずどこか懐かしく心に沁み入るメロディです。そして、田中祐子さんのスタイリッシュな指揮、ぐいぐいと人を引き込む岩田達宗さんの血の通った演出が物語を展開させていきます。また、倉本聰さんの舞台で出てくる、とある装置が今回も登場します。そこに注目して見ていただくのも面白いかもしれません。オペラの間中、飽きることがないと自信を持って言えます。

中音域が魅力のバリトンで、等身大の人間の悩みや葛藤を表現していく。

──須藤さんが演じられるのはどのような役柄でしょうか?

私の演じる勇太は、物語では周りの人から「ユタ」という愛称で呼ばれています。主要メンバーとしては4人の若者が出てくるのですが、そのなかでも勇太は決断力がある人間だと私は捉えています。そして、その決断をしっかり貫いていく、強い意思を持っている人だとも思います。ただ、それは悪い見方をすると頑固ともいえる。新しいできごとが起きたときに柔軟性を失ってしまい、それがまた悲劇につながっていくのです。

──そのような性格や感情が、歌唱で表現されるのでしょうか?

はい。オペラは、声により登場人物の役柄分担が明確にされています。私の声種、バリトンがこの役に当てられたというのは、勇太のまっすぐな性格からきているのかなと思っています。私はヴェルディ・バリトン、ボーチェ・ヴェルディアーノと呼ばれるバリトン歌手としてさまざまなオペラで歌ってきました。鋭い響きの中に暗い色を持つ声とでもいえばよいのでしょうか。それが私の声の特徴だと思っています。

──今回の公演は、その歌声でどんなことを表現されたいですか?

バリトンはもっとも中間の音域です。そのためバリトンは、どのオペラでも非常に深い苦悩を持った役が当てられることが多いのです。なので、等身大の人間がどのように悩み葛藤をするのか、そういった部分を考えながら、このバリトンの声で表現できればと思っています。

心に沁みるメロディ、日本語の美しい響きに乗せて紡がれていく日本のオペラ。

──日本オペラ協会の作品は日本語によるオペラですが、ヨーロッパのオペラとどんな違いがあるでしょうか?

今回の「ニングル」も純国産のオペラですが、実はヨーロッパでも国民楽派、国民音楽などのムーブメントが起きて自国のオペラを作ろうという時代がありました。日本にはヨーロッパのオペラを好きな方が多くて、自国のオペラを作ろうという動きが起こるのに少し時間がかかったという気がしています。今まさに、我々が生きているこの時代に、日本のオペラを作っていこうというムーブメントが起きている。そして、それに立ち合えているのだと感じています。日本人だからこそ感じられるメロディ、心に沁みる音楽、日本語の美しい響きが日本のオペラの特徴です。

海外のオペラと日本のオペラ、その2つが分かれるというよりは、オペラの流れのなかで必然的に生まれてきたものだと感じています。そういう意味でも、日本オペラ協会が日本オペラに特化しているというのは、とても良いことではないでしょうか。日本オペラを専門にできる歌手たちが結集して、それで新しい作品を生み出していける。そんな待ちに待っていた形が、今ようやく生まれてきています。今回の「ニングル」でも新しい音楽が乗せられ、フレッシュさを感じます。楽譜のページをめくるごとにワクワクするという感覚が確かにあります。

環境問題に加えて、人と人、家族の普遍的な問題もはらんだ物語。

──有名な脚本家、戯曲家の倉本聰さんが作られた40年ほど前の作品ですが、どのようなメッセージを伝えたいですか。

40年というと、とても昔の作品のように感じる方もいらっしゃるのかもしれないのですが、時間が経っても残っていく物語というものは、時代を越えても風化しないメッセージを持っている。それがさらに熟成を重ねているように思います。「ニングル」は40年前には、もしかしたら先進的なメッセージのように受け取られたかもしれませんが、この物語は、普遍的な家族の問題という軸も持っています。家族間の葛藤や悩み、怒りや喜び、そういった感情的な部分を楽しめる作品でもあるのです。「ニングル」は“今”の物語じゃないか、きっとそのように感じていただけるのではないでしょうか。今回のオペラ版には「未来につなげ、いのちの木」というキャッチコピーがつけられていますが、まさにこれこそ「ニングル」を表す言葉だと思います。

ステージと客席で五感を共有できるのがオペラ。全身を使って感動してほしい。

──初めてオペラを観る際のコツはありますか?

オペラに限らないのですが、ロックでもポップスでも、海外アーティストは日本のお客様を「行儀がいい」と評価しています。実際に、日本の観客は拍手もとても上品です。一方、ヨーロッパの観客はもっと感情を露にします。なので、日本の皆さんも拍手したい瞬間に拍手をしていただきたいですし、笑いたいときには笑い、泣きたいときには泣いていただければと思います。ぜひ、大いに感動してもらい、大きな拍手と歓声を送っていただけるとうれしいです。

──ずばりオペラの魅力とは?

オペラでは演奏時にマイクを付けません。完全なアンプラグドで歌っております。私たちが発した声が、直接お客様の耳に届くのです。五感を共有できることこそが、オペラの醍醐味だと思っています。

倉本聰作品、初のオペラ化。ぜひ会場で、その物語を感じていただきたいです。

──最後にお客様に、メッセージをお願いします。

日本オペラ協会公演、倉本聰原作のオペラ「ニングル」。倉本聰さんの名作が初のオペラ化となります。2月10・11・12日、めぐろパーシモンホールで公演いたします。皆さんのご来場をお待ちしております。



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