義太夫節三味線演奏家 鶴澤津賀寿さんにインタビュー

第52回 邦楽演奏会

義太夫は感情がゆさぶられてカタルシスを覚える演劇です。

2022年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に選ばれたばかりの鶴澤津賀寿さんは、一見するとクールに見える三味線の演奏が、実は重労働だと笑って話します。義太夫はいまも昔も変わらない人間の感情を描いているので誰でも楽しめると、和やかに話してくださいました。

鶴澤津賀寿(つるざわつがじゅ)

義太夫節三味線演奏家、重要無形文化財保持者(人間国宝)認定(2022年)、一般社団法人義太夫協会理事、国立劇場竹本研修講師。早稲田大学第二文学部演劇専攻卒業。1984年に竹本駒之助に入門し、三味線を四代目野澤錦糸に師事。1994年より竹本駒之助の相三味線を努める。重要無形文化財(総合指定)義太夫節保持者認定(2009年)。芸術選奨文部大臣新人賞(1996年)、第4回ビクター伝統文化振興財団賞「奨励賞」(1999年)、第52回ENEOS音楽賞邦楽部門(2022年)ほか受賞多数。

国立劇場にふさわしい、別れと再会のお話。

──演目をご紹介ください

「芦屋道満大内鑑 葛の葉子別れの段」といって、安倍晴明の父である安倍保名(やすな)に助けられた狐が、保名と恋仲であった榊の妹である葛の葉姫に化けて近づき、保名との間に一子をもうけます。それがのちの安倍晴明です。しかし、本物の葛の葉姫が現れたため、母を慕って泣く子に「信太の森に来れば、いつでも私に会える」と言い残して去ってゆくというストーリーです。

別れと再会のお話なので、2023年にいったん取り壊して大規模改修される国立劇場にふさわしいと思い、選びました。

義太夫は90%が演劇、三味線も音で表現している。

──今回の聞きどころは?

太夫の語りも私の三味線も、葛の葉姫の正体が実は狐であると匂わせるところがたくさんあります。太夫のほうは「くっ」という鼻を鳴らすような音が入ったり、三味線は、同じフレーズを弾くにしてもちょっと寄せて弾いたり。狐のような野生動物は、タタッと進んでは急に立ち止まって振り返ったりしますよね。そういう生態を、昔の人は曲に取り入れたのだと思います。

義太夫はこのようなことが多く、演劇の要素が90%くらいあるので、語りだけではなく三味線も、登場人物が喜んで笑っているとか、狐が泣いているとか、子どもが走ってきたという様子を音で表現しています。

つがじゅの会(2018年 渋谷区文化センター大和田 伝承ホール)
撮影:山之上雅信

そういうところを意識して聞いていただくと、義太夫はいろいろな楽しみ方ができると思います。親子の別れという大まかなストーリーを分かった上で、音に込められたものを探していただくと、より楽しめるのではないでしょうか。
女流義太夫のほとんどは歌舞伎や文楽のような俳優や人形が登場せず、太夫の語りと三味線だけで物語を演じる素浄瑠璃なので、お客様にも積極的に参加していただけるとうれしいですね。


──お客様が感動した瞬間は分かりますか?

客席と舞台が一体となって盛り上がり、お客様の感情がとても大きなウエーブになってウワーッと伝わってくるときがあります。また、お客様から「あの場面で登場人物の足袋の色が見えた」とか「サーッと扉が開いたのを感じた」と言われたり。そういう景色が目の前に浮かぶと、聞いていてすごく楽しいと思います。

義太夫にはまると、一生離れられなくなる。

──義太夫の魅力は?

義太夫は演劇なので、そのつもりでご覧いただくといいと思います。しかも、現実にはあり得ないような状況を設定して、感情がマックスに達するようなストーリーを展開します。喜怒哀楽の表現がとてもオーバーで、太夫が何分も笑っていたり、ウワーッと泣いて取り乱したり。泣き方だけでも何種類もあります。

日常の世界でそこまで感情が揺さぶられることはめったにないと思いますが、義太夫は、ご覧になったお客様がカタルシスを覚えるという芸能なので、ツボが分かると100倍くらい楽しめるようになります。義太夫にはまると、一生離れられなくなりますよ(笑)。

古典芸能とか伝統芸能といっても、そこで表現されている人間の感情はいまも昔もあまり変わらないものなので、それほど構えなくても楽しめると思います。

太夫を引き立てる三味線、心の中でガッツポーズ。

──三味線はクールに演奏しているように見えますが、どうやって感情表現をするのですか?

表情はほとんど変えず、口も動かしませんが、心の中では太夫と一緒に泣いたり笑ったりしています。太夫が語る前に弾き始めるので、いかに語りやすい状況に持っていくか、一緒になって盛り上げるかがポイントです。しかも、決まった旋律を弾くにもかかわらず、場面に応じて違う雰囲気を出さなくてはいけない。そこを工夫するのが三味線の仕事です。それがうまくいって太夫の声がウワーッと出たときは、弾きながら心の中でガッツポーズをするほどうれしいですね。

だから、終わるとぐったりします。息を詰めているのでのどがガラガラになり、ずっと座っているのにお腹や腰の筋肉をすごく使います。重労働ですよ。三味線は手で弾くのではなく、腰が肝心です。

今年は二度、師匠が泣いて喜んでくれた。

津賀寿の会(2021年 コットンクラブ)
撮影:山之上雅信

──義太夫三味線の道を選んだきっかけは?

小学生の時に歌舞伎を見に連れて行ってもらって、幕開きにチョーンと柝(き)が響いた瞬間に「これだ」と思って夢中になり、東京で上演している歌舞伎は全部見るほどでした。大学のクラブで三味線を始めて、長唄をやっていたのですが、卒業後に竹本駒之助師匠の舞台を見て弟子入りをしました。義太夫がどんなものか知りたかったし、「義太夫を体に入れたい」と思ったので、自分でも本当にがんばったと思います。

──2022年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に選ばれました

師匠が泣いて喜んでくれました。今年はもう一つ、大きな賞をいただいたので、師匠は二度も大泣きして喜んで。師匠と一緒に演奏して、選んでいただいたことなので、とてもうれしかったです。

少し視点を変えれば、邦楽は誰でも楽しめます。

──お客様へメッセージをお願いします

邦楽は分かりにくいとか長いという印象があるかもしれませんが、これまでお話ししたように少し視点を変えていただくと、あまり聞いたことがない方でもお子様でも楽しめます。国立劇場も改修のため長い期間クローズしますので、その前にぜひおいでください。お待ちしております。



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