ピアニスト 中川優芽花さんにインタビュー

オーケストラ・シリーズN.56 東京都交響楽団

オーケストラと共に奏でる音楽で創り出される、唯一無二の時間と空間。

ドイツで生まれ育ち、若くしてコンクールで数々の賞を受賞したピアニストの中川優芽花さん。今回は東京都交響楽団との初共演で、モーツァルトのピアノ協奏曲第17番を演奏されます。曲の魅力やドイツでの暮らし、ピアノに対する思いなどをお聞きしました。

©Susanne Diesner

中川優芽花(なかがわ ゆめか)

2001年ドイツ生まれ。2021年に19歳で第29回クララ・ハスキル国際ピアノコンクール優勝、および聴衆賞ほかも併せて受賞。2019年口ベルト・シューマン国際青少年ピアノコンクール優勝。2018年第5回イェネー・タカーチュ国際コンクール優勝。2014年若い音楽家のためのフランツ・リスト国際ピアノコンクールで2位ならびに室内楽特別賞を受賞。ヨーロッバ各地のホールで演奏ならびにオーケストラや室内楽団と多数共演。

都響との初共演はモーツァルトの魅力が詰まったピアノ協奏曲

──演奏されるモーツァルのトピアノ協奏曲第17番の聴きどころを教えてください。

モーツァルト特有の可愛らしさが詰まっている、聴いていて笑顔になれる曲です。第1楽章アレグロは非常に優美な調べ、第2楽章アンダンテは静けさに包まれた音色が印象的です。そして第3楽章は跳ねて踊り出したくなるような明るさと楽しさがあり、まさにモーツァルトの魅力が凝縮された協奏曲だと思います。

東京都交響楽団との共演は初めてですが、日本有数のオーケストラだと感じています。都響と共演している指揮者やソリストの名前を見ても、それは明らかです。そのような素晴らしいオーケストラと共演させていただくのが、今から楽しみでなりません。

至高の音楽には、陰と陽いずれの感情も欠かせないもの

──現在はドイツのワイマール・フランツ・リスト音楽大学に在籍されていらっしゃいます。大学ではどのようなことを学ばれているのですか。

グリゴリー・グルズマン先生の下でピアノを学んでいます。先生はとても知識豊富で、身体の使い方に無理がなく、身体の構造を生かす演奏を教えて下さいます。大学のあるワイマールは、詩人のゲーテやシラー、作曲家ではバッハやリストなどが住んでいた歴史的な街です。そのような環境でクラシック音楽を学ぶと想像力が豊かになり、それがピアノの音に反映されたり、楽譜に込められた作曲者の気持ちをより深掘りできたりします。また、大学は室内楽にも力を入れているので、私もピアノ科だけでなくほかの楽器の学生たちとも和やかな雰囲気のなか交流を深め、互いに音楽性だけでなく知識も深め合っています。

私の好きな作曲家はモーツァルト、シューマン、リスト、ショパンです。今回演奏させていただくモーツァルトは、聴いていて心が踊るところ、そして心が洗われるような感覚を覚えるところに惹かれます。思い入れのある曲でいうならリストのソナタです。この曲は「光と闇」という対極の面が、1曲に詰まっているところが魅力だと思います。一般的にネガティブな感情はあまりよいものとして捉えられていませんが、芸術ではネガティブな感情も必要不可欠で、ありのままを受け入れるからこそ美しい作品が完成されると思っています。その要素が詰まっているこの曲は、私にとってとても特別な曲です。

「ピアノをやめたい」が一転、「また挑戦しよう」へ

──デュッセルドルフで生まれて以来、ずっとドイツにお住まいです。ピアノもドイツで始められたのですね。

小さい頃は姉の真似をすることが好きで、その姉がピアノを習っていたので私も始めました。ほかの生徒さんたちと一緒に演奏するのが楽しくて、どんどん夢中になりました。もともと好奇心が強くてなににでも臆せずチャレンジする性格だったので、それがよかったのかもしれません。10歳でロベルト・シューマン音楽大学のジュニアコースに合格した時点では、まだ「将来はピアニストになりたい」と明確な目標を抱いていたわけではありませんでしたが、「ピアノを弾きたい」という思いは持っていました。けれど15歳のとき、ピアノをやめたいと思ったことがあります。国際コンクールなどでいろいろな素晴らしい若い音楽家たちの演奏を聴くうちに、自分には彼ら、彼女たちのようにそこまで才能がないと打ちのめされてしまったのです。ただ、そう考える前に申し込んでいた講習会に行ったとき、コンサートでの演奏を聴いてくださったピアニストの海老彰子さんがポジティブなコメントをくださいました。それが大きな励みとなり、「また挑戦しよう」と思えるようになりました。

ヨーロッパでのコンサートはどちらかというとアットホームな雰囲気ですが、日本のコンサートでは聴衆の静けさや気遣いに驚かされます。日本のみなさまの音楽家に対するリスペクトには、いつも感銘を受けています。2022年以降はありがたいことに日本で演奏する機会が非常に増えたので、ドイツと日本を往復する生活には健康管理が欠かせません。一番気をつけているのは、睡眠時間をしっかり取ることです。また、座っている時間が多いのでランニングして体を動かしたり、練習の効率を良くするためにこまめにバナナやチョコレートを食べたり、外食が多くなっても栄養が偏らないように気をつけるなど、いろいろ試しています。自分のコンディションに敏感でいること、そして少しでも不調を察知したらいち早く気づいて対処できるよう心がけています。

オケとの共演と単独のリサイタル、それぞれに魅力がある

──オケとの共演とリサイタル、それぞれの魅力についてお聞かせください。

リサイタルの魅力は、演奏家によってまったく違った音楽の解釈の仕方が楽しめたり、演奏家が見ている世界を、音楽を通じて感じられたりするところではないかと思います。ピアノ1台だけで演奏するからこそ作り出せる独特な静けさ、これもまたリサイタルの魅力なのではないでしょうか。数百人がひとつの音だけに集中して耳を研ぎ澄ましている瞬間には鳥肌が立ちますね。ちなみに、私は大好きなピアニストの演奏を聴きに行くと毎回感動で感極まるので、必ずハンカチを持って行くようにしています(笑)。演奏家としては、たった1台のピアノで自分が思い描く音楽の世界を創り出せることに魅力を感じます。そして作曲家が見た世界を、練習している最中に黙々と研究して知っていけること、これがとても楽しいです。

一方、オケの魅力はさまざまな楽器の音色の多彩さではないでしょうか。いろいろな音色によって表現される、場面ごとに変わる風景、音を通して会話しているかのように聴こえる遊び心、それからホールの隅々まで音で埋め尽くすような壮大さを感じられるのは、やはりオーケストラならではだと思います。ピアニストとしは、ソロだけでは完成されない難しさや初めてリハーサルをするまでの不安がありますが、それがまたオケと共演させていただく魅力でもあります。一緒に音楽を奏でることで創り出せる唯一無二の時間や空間が、コンサートのたびに繰り広げられるのは素敵なことですし、音楽家として新しいアイデアが得られるのでとても刺激になります。

ピアノを弾き続ける限り音楽を追求していきたい

──2025年も国内で多くの公演が予定されています。今後の抱負をお聞かせください。

これまで以上に「奏でたい」と思った音色を自在に出せるようになりたいですし、「ピアノが弾けなくなるときまで音楽への追求を辞めないこと」を目指していきたいです。今後も拠点はドイツに置く予定ですが、日本のみなさまにも音楽を届けていければと思っています。

──都民芸術フェスティバルウェブサイトをご覧の方へ、メッセージをお願いします。

東京都交響楽団と一緒にモーツァルトを演奏できることをとても楽しみにしています。みなさまにも聴いていただけたらうれしく思います。ご来場をお待ちしております。


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