能楽師 朝倉俊樹さんにインタビュー

第62回 式能

年に一度、シテ方五流が総出演の壮大な「式能」は見どころがたくさん!

翁と五つの曲目、そして狂言からなる「翁附五番立」。「式能」は江戸時代から続く、能を上演する正式の形です。
それぞれの曲の見どころや初心者が能を楽しむポイントなどを、宝生流の朝倉俊樹さんにうかがいました。 第62回 式能 公演情報はこちら


朝倉俊樹(あさくらとしき)

能楽師、重要無形文化財保持者(総合認定)。宝生流樹翔会を主宰。シテ方宝生流朝倉粂太郎の長男として生まれ、十八代宗家宝生英雄に師事。1965年、「鞍馬天狗」にて初舞台。江戸時代に旗本だった曾祖父が維新後に能楽師となり、祖父が宝生流に入門。五代目となる俊樹の息子の大輔も「鞍馬天狗」で初舞台を踏む。

「式能」は翁と五つの能、四つの狂言で構成。

──「式能」とはどのようなものですか。

「翁附五番立」といって、もともとは信長や秀吉の時代から続いている能楽の上演形式です。まず「翁」という特別な能楽があり、その後に五番立という五つの曲、それぞれの間には四つの狂言があり、これが一日がかりで上演されます。「式能」は能楽協会のメインとなる演能会で、シテ方五流が総出演します。今回が62回目となり、以前は本当に一日通しで上演されましたが、いまは休憩をはさんで第一部・第二部という構成です。

「咸陽宮(かんようきゅう)」は皇帝と刺客、妃が登場する物語。

©宝生会

──朝倉様がシテをお努めになる「咸陽宮」について教えてください。

「翁」に続く五番立の最初が「咸陽宮」です。主役は秦の始皇帝。隣国の燕で反乱の企てがあるため、秦を裏切った将軍の樊於期(はんおき)の首と燕の地図とを持参した者に報償を与えるという高札を出します。それに応えて、荊軻(けいか)と秦舞陽(しんぷよう)が秦の始皇帝の居城である阿房宮にやってきます。しかし、実はこの二人は刺客であって、皇帝に剣を突きつけます。皇帝の最後の望みを聞きいれて、妃である花陽夫人(かようぶにん)の琴の演奏を聴いているうちに夢見心地になった二人は逆に剣を奪われ、返り討ちにあってしまうというストーリーです。

能ならではの簡略化された動きで戦いを表現。

──「咸陽宮」の見どころは何でしょうか。

「咸陽宮」は長い曲ではありませんが、二人の刺客が阿房宮の広大さにひるんだり、琴の演奏や危機一髪からの脱出など、見どころがたくさんあります。例えば、荊軻が皇帝に剣を投げつける場面がありますが、能では道具を投げるようなことはめったにありません。能ならではの簡略化された動きの中で戦闘シーンがどのように表現されるか、面白いと思いますよ。
また、後半の花陽夫人が琴を奏でる場面は、見どころならぬ「謡の聴きどころ」です。宝生流は「地謡宝生」とよばれるくらいですので、この機会に地謡をご堪能ください。

美しい面や舞づくしなど、それぞれに見どころが。

──式能のほかの曲もご紹介いただけますか。

「経正(つねまさ)」は、平敦盛の兄である平経政(経正)の物語。琵琶の名手だったそうで、源平一ノ谷の合戦で命を落としました。シテは「十六」という面(おもて)をかけて登場します。この面は16歳で討ち死にをした平敦盛がモデルといわれ、少年らしさと気品が感じられる美しいものなので、ぜひご覧ください。また、右袖を抜いた肩脱ぎの凜々しい姿で登場します。ちなみに、矢を射るときは左袖を抜きます。
「半蔀(はしとみ、はじとみ)」は源氏物語、夕顔の君と光源氏のお話です。これは鬘物(かずらもの)といって女性が主役になります。
「百萬」は、母親が生き別れになった子どもを探す物語。笹を手に面白可笑しく舞いながら、集まってくる見物人の中に我が子はいないかと探し歩き、京都の西大寺でめでたく再会を果たします。有名な「隅田川」はようやく探し当てた我が子が既に亡くなっていたという悲しいお話ですが、この「百萬」はハッピーエンドです。舞づくしなので、見どころがたくさんあります。
最後は「恋重荷(こいのおもに)」ですね。お姫様に心を寄せる庭掃除の老人に対して、姫は、この荷物を持ち上げて運べたら会ってあげようと条件を出します。しかし、荷物は岩のように重くて運べない。腹を立てた老人は、というお話です。

初めての方が能を楽しむポイント。

──能の美を初心者が楽しむポイントを教えてください。

分かりやすいのは、まず能面ですね。表情がないことを「能面のような」と形容することがありますが、面をよく見るとちょっと悲しげだったり憂いを感じさせたりと、けっこう表情があることに気が付きます。面をかけた役者がやや上を向くと、空や遠くの山を眺めている、もしくは何かうれしいことがあったように見え、少しうつむくと何か物思いにふけっているような風情が感じられます。また、片手を顔の前に持ってくると泣いているようで、両手だと号泣です。そういったことを想像しながら見るのも、能の味わい方のひとつでしょう。
通常、役者は面を付けてから舞台に出ますが、翁は素顔で登場し、舞台上で面を付けて神様になるという形を取っています。翁の面は独特で、口から下の部分が分かれていて紐でつながっているため、注意して見ていると、謡のときにそこが動くのが分かるはずです。
「咸陽宮」の主役である秦の始皇帝は、「直面(ひためん)」といって面は付けず、素顔で演じます。装束も中国ふうなので、ほかの曲とは違う雰囲気が楽しめるでしょう。
女性が主役の「半蔀」は、美しい装束を眺めながらゆったりとした時間の流れを堪能できると思います。
「百萬」は舞づくし。能ならではの舞いを満喫できます。
また、能の舞台には進行を助ける「後見」という人がいて、「恋重荷」では、後見が最初に重い荷物をしずしずと捧げ持って出てきます。これが後見にとっては大変な作業なのですが、それを感じさせないように振る舞わなければなりません。そのあたりも注意して観ていただくと、面白いかもしれません。

役者はがんばっておりますので、ぜひ劇場へ。

──お客様にメッセージをお願いします。

このコロナ禍ですが、役者はがんばっております。舞台が中止や延期になりましたが、次第に復活してきて、やっと観られるというファンの方や、この際ちょっと観に行ってみようかという方がいらっしゃるでしょう。
第62回式能は2月8日の日曜、国立能楽堂で行われます。シテ方五流総出演の壮大な催しですが、それぞれの曲は比較的短く、ご覧になりやすいと思います。第一部・第二部という構成になっており、ご興味のある曲だけを観ることもできますので、ぜひお出かけください。お待ちしております。

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