花組芝居 加納幸和さんにインタビュー

花組芝居 三島由紀夫没後五十年 プラス1『地獄變』

キモカワイイ?! 三島由紀夫の歌舞伎を、カラフルでポップな舞台に。

2020年は小説家・三島由紀夫の没後50年に当たりますが、三島が書いた歌舞伎の第一作である『地獄變』が花組芝居によって43年ぶりに上演されます。大の歌舞伎ファンだった三島の本格歌舞伎を、枠にとらわれない自由な「ネオかぶき」で観客を楽しませる花組芝居がどのような演出で見せてくれるのか、期待がふくらみます。 花組芝居 三島由紀夫没後五十年 プラス1『地獄變』 公演情報はこちら


加納 幸和(かのうゆきかず)

俳優、演出家、脚本家。1960年生まれ、兵庫県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。
卒業論文「『櫻姫東文章』の再生と可能性」で芸術学会賞を受賞する。1984年から加納幸和事務所を主宰し、1987年に『ザ・隅田川』にて花組芝居を旗揚げ。

1999年には帝劇公演『西鶴一代女』(主演・浅丘ルリ子)で商業演劇に初挑戦し、NHK朝の連続テレビ小説『あすか』にも出演。役者としてさまざまな舞台に立つだけでなく、テレビドラマや映画に出演し、演出家、脚本家としても活躍している。

28歳の新進作家だった三島による本格的な歌舞伎
──『地獄變』は、どのようなお芝居ですか。

芥川龍之介の小説『地獄變』を原作として、三島由紀夫が歌舞伎の脚本を書いたものです。

殿様が絵師に地獄の屏風絵を描くよう命じますが、なかなか完成しない。絵師は、女人が乗った牛車が燃え上がる様を描きたいが、自分は実際に見たものしか描けないと言い張ります。ある晩、絵師が殿様に呼ばれて行ってみると、そこには炎に包まれた牛車があり...、というストーリーです。

──とてもショッキングな展開が予想されます。

そうかもしれませんね。これは、三島由紀夫が初めて書いた歌舞伎の台本です。当時の彼はまだ28歳の新進作家でしたが、実は中学の頃から歌舞伎が大好きで、完成した作品は擬古典といいますか、義太夫の入った本格的なものだったため関係者は大いに驚き、それで幕を開けたそうなんです。

この『地獄變』は、これまでに1953年(昭和28年)と翌年、それに1978年(昭和53年)の3回しか上演されておらず、三島由紀夫没後50年を機に42年ぶりに上演しようと企画しましたが、コロナ禍の影響で2021年に延期になったため、「没後50年プラス1」としました。

お客様のイメージがふくらむような舞台
──三島由紀夫というと純文学のイメージがありますが、その作品を花組芝居はどのような舞台にしようとお考えですか。

初演時のパンフレットに三島さんの文章が載っていて、例えば「この登場人物は、ギリシャ悲劇のこういうイメージだ」などとありますが、その台本をいかに膨らませるか、どこまで外せるかは演出家や役者しだい。われわれの舞台をご覧になって、「どこまで文字の裏世界を広げるのか?」と驚いていただけるところまで行きたいと思っています。

花組芝居がスタートして33年になりますが、その間に歌舞伎に対する一般の人々の認識が相当変わってきました。いまでは、伝統歌舞伎の役者さんが新しいことにどんどんチャレンジなさっています。それに対してわれわれは、古典といわれる作品でも、従来とは違ったイメージ、やり方があるということを見せようとしています。芥川龍之介の原作から刺激を受けて三島さんが作った世界、さらにそれにインスパイアされて花組芝居が作った舞台をお客様がご覧になって刺激を受け、お客様自身のイメージがふくらみ、視野が広がるといいですね。花組芝居の舞台を楽しんで、何かを持って帰っていただきたいといつも思っています。

オープンでニュートラルな気持ちで劇場へ
──花組芝居の舞台はけっこう笑いがあったりして、『地獄變』の原作のイメージとはギャップがあるのですが。

そうですね、今回は「キモカワイイ」という感じでしょうか(笑)。そもそも歌舞伎には、喜劇と悲劇とか初心者向けといった区別はないんです。笑えるところや怖いところ、悲しいところが詰め込まれていて、何でも飲み込んでしまうブラックホールのようだっていう人もいます。子どもは子どもなり、大人は大人なりに、初心者も熱心なファンも、それぞれに楽しめる。特に三島さんの『地獄變』は役柄が非常に明確に書き分けられているので、それをわれわれなりにカラフルでポップな感じにしてお見せしたいと思います。オープンでニュートラルな気持ちで劇場においでいただければ、お客様はより楽しい時間をお過ごしいただけるでしょう。

歌舞伎を同時代の感覚で見ていただきたい
──「カラフルでポップ」というお話が出ましたが、花組芝居が目指す「ネオかぶき」とはどんなものでしょうか。

歌舞伎は伝統芸能の中の一つのジャンルと考えられているので、どうしてもかしこまって見るような雰囲気があります。それに対して、江戸時代は芝居といえば歌舞伎のことであって、とてもポピュラーで流行の中心でした。三味線音楽も今は古典の一つですが、当時は現代音楽だったわけです。

そこで、例えば三味線の代わりに、いまはやっている曲をポンと入れてみるとお客様は受け入れやすくなるのではないか。現代の音楽に連れて古典の人物が動くと、舞台に同化しやすいのではないか。あるいは、紫の着物を着た登場人物がいるのなら、それを紫のスーツに替えてみると、この人は勤め人であり、少し知識のある方なら、あ!大星由良之助(史実の大石内蔵助)だと一目で分かる。

このように、江戸時代の庶民が歌舞伎を見ていた感覚でいまのお客様が見るためにはどうすればいいかを考えて、歌舞伎の要素を入れ替えてみる。「歌舞伎を同時代の感覚で見ていただく」ということを、花組芝居は続けてきました。

物心がついたときには、すでに歌舞伎ファン
──そもそも、加納さんがお芝居や歌舞伎に興味を持ったきっかけは何でしょうか。

物心がついたときには、すでに僕の中で歌舞伎ありきだったんですよ。

──そんなに早く!

親戚に歌舞伎好きがいて、僕が3歳の時に歌舞伎座に連れて行ったのだそうです。まだ3歳ですから、どんなにおとなしい子だって何をしだすか分からないじゃないですか。それでも連れて行ったのは、どうやら僕が歌舞伎に興味を持っていたかららしいんですね。僕の記憶の中に歌舞伎のあるシーンがあって、初めて歌舞伎座に行くよりも前に、何かで見たようなのです。大人になってから、それが有名な作品の一場面であることが分かり、実際に見てみたら「あっ、このシーンだ!」と。

子どもの頃は、歌舞伎のことを何も知らない初心者の状態で見ていたので、何もかもが面白い。例えば、登場人物とその横の仕掛けを同列に見ていました。隠すべき存在としてではなくて。だから、高校生になって知識がついてくると、歌舞伎を「心」ではなく「頭」で見るようになって純粋な感動が薄れ、飽きてしまった時期もありました。
ですから、いまはどんな古典を題材に取り上げても、子どもの頃のあの面白かったイメージが僕の原点です。花組芝居の舞台を初めて見るお客様を「なに、これ?!」って驚かせたいという気持ちを、どの作品でも忘れないようにしています。

役者もお客様も、感動や発見があるお芝居
──歌舞伎が大好きだった加納さんは、それを単なる趣味で終わらせず、大学卒業後は役者になって劇団まで作ってしまいました。

身が震えるほどの感動をした、その思いを伝えたいというのが、役を演じたり芝居を作ったりということを続けてきた動機になっています。
実は、花組芝居にはもともと歌舞伎マニアだった人はほとんどいません。むしろ、それまで歌舞伎なんか見たことないっていう人が面白がって演じている、それがまた面白いんですね。

──歌舞伎マニアではなかった役者さんが演じて、面白い発見がある。それを見るお客様も歌舞伎をあまり見たことがない、しかし発見があったり感動があったりするというわけですね。

ええ、そうなっているんだと思います。ですから、いろいろな人に見ていただきたい。日本人が400年かかって作り上げてきた面白い演劇を、いわゆる大歌舞伎とは違う感動を、今回の『地獄變』でも味わっていただきたいのです。

いまは歌舞伎の入門書やさまざまな情報があふれていますが、事前にあまりたくさん勉強しすぎると、半分くらいは答え合わせをしているような感じの見方になってしまわないでしょうか。ああ、これが宙乗りというものか、あれが黒衣(くろご)かと。僕が子どもの頃に見ていたように、「あの黒い人は何をしているんだろう」というところから始まると、とても面白いんですよ。だから、まっさらな気持ちで花組芝居の舞台を見てくださいとお願いしています。

ポップなホラー映画か、ハロウィーンか!
──最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

花組芝居の『地獄變』は、明るくて楽しくて、怖くて悲しいお芝居です。お客様の目の前で、いろいろなことが起こる、それをぜひ、生でご覧ください。
そうですね、ポップなホラー映画、もしくは、ちょっと季節がずれましたがハロウィーンの新しいパターンだと思って劇場においでいただくといいかもしれません。お待ちしております。

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