板倉 哲さん 岡山豊明さん 八代名菜子さんにインタビュー

青年劇場小劇場企画No.26「裸の町」

歴史ある青年劇場が創りあげる、生身の役者の演技、そして想いが伝わる舞台

60年近くにわたり若者や一般の観客に向けて社会性を持った骨太の創作劇を紹介し続ける、「秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場」。都民芸術フェスティバルでは3月4日から15回に渡って真船豊の「裸の町」を上演します。演出家の板倉哲さん、主人公夫妻を演じる岡山豊明さん、八代名菜子さんにお話を伺いました。 青年劇場小劇場企画No.26「裸の町」 公演情報はこちら


板倉 哲 (いたくらてつ)

俳優、演出家。1982年、青年劇場付属養成所を卒業し、同年に青年劇場に入団。現在は文芸演出部にも籍を置き、演出も手がける。演劇ワークショップの講師としても活躍する。

岡山豊明 (おかやまとよあき)

俳優。2003年に青年劇場付属養成所を卒業し同年、青年劇場入団。

八代名菜子 (やしろななこ)

女優。桐朋学園短期大学 演劇集団円演劇研究所を経て、2007年劇団青年座研究所を卒業し、同年青年劇場入団。

時代のうねりの中でもがく夫婦を描いた作品

──「裸の町」はどのような作品ですか?

板倉 「裸の町」は昭和10年前後の日本、東京を舞台にした物語、金貸しに丸め込まれて、夜逃げをする夫婦の話です。夜逃げをした夫婦が右往左往する、それ以上の物語じゃないんですね。その顛末ということですね。昭和11年、時代が大きく変わっていく中で時代の影響も受けながら、貧しくともどうやって幸せを見つけて行こうとするのか。夫婦のあがいている姿、うごめく姿が見ものになるんじゃないかなぁと思います。

現代の人々にも、生きるヒントを与える作品

──岡山さん、八代さんが演じられる主人公夫妻はどんな役柄でしょう?

岡山 主人公の富久は間の抜けたところがあるというか、よく人を信じてお人好しだなんて生きてきながらも、自分は自分で何でそれがおかしいんだと、自分のやってることを信じている人間、それでいて芸術が好きで音楽を愛している。人と人が関り合って、何か新しい答えを見つけていくというのがやっぱりお芝居の醍醐味だと僕は感じています。なので、真剣にぶつかり合いながら、自分はこう思うんだ、私はこう思うんだという夫婦の真っ直ぐな交流ができればいいと思っていますね。

八代 私が演じるのは路頭に迷う妻の喜代。不甲斐ない夫を支えながらお尻を叩きながら……富久は喜代のことを気性の強い女だと言ってますけれども、世間知らずながらもなんとか頑張って生きていきたい、と健気な芯の強い部分も持つ女性なのかなと思います。先ほど板倉さんのお話にもありましたが、この作品が描かれたのが昭和11年という激動の年なんですよね。日本が破滅の戦争に突き進んでいく転換の年。その中で一生懸命に生きている人間、それって今の世の中も通じるところがあるはずです。共感してもらえる人たちが沢山いるんじゃないかなぁと感じています。

板倉 時代自体が暗くなって、生活が貧しく苦しくなっても魂だけは高潔でいたいと思える美学を持っていて……。人間の高潔さと愚かさ、面白さみたいな物が豊かに描かれるといいな、と思っています。作者の真船豊氏の自伝に、この「裸の町」を書くにあたっては技巧ではなくて、人間を丸ごと描きたいんだという言葉が残っているのですが、まさにこの作品のすべてがこの言葉に現れていると思いますね。

──今この作品を上演する意味は?

板倉 時代が苦しい、生活が苦しいからと魂を貧しくしてしまいそう……。僕自身も含めてですが、そういう堕落とか誘惑に駆られてしまいそうなときに、本当の人間の幸せや美しく生きるってどういうことなんだろうと自問自答したい。忘れずにいたい。「裸の町」の主人公たちの一挙手一投足は、今の時代を生きている人たちにもヒントを与える気がしますね。そこを見て頂いてぜひ一緒に笑ったり泣いたりしてもらいたいです。そのうえで、さぁ明日からどうやって生きるかなぁ、という風にお客さんが自分たちで感じてくださるなら本望です。

自他ともに認める社会派、“真面目”な劇団

──青年劇場はどんな劇団ですか?

板倉 1964年に立ち上げまして、最初は青少年劇場、いわゆる若者向け、学校の高校生の団体鑑賞などを皮切りとし今でも続いています。もう一つの顔としては、現代性、時宜性、アクチュアリティっていうものを追求したこの今の時代ってどうなんだろうっていうことを現代劇として、創作劇として、観客に提示する、という柱も持っていますね。ですから、割と社会派の真面目な劇団だ、という風な印象が強いんじゃないでしょうか。それはまぁ自他共に認めるところです。やはりこの一度の舞台がお客さんの心に届いて、明日からどういう気持ちでお客さんが生きてくのかな、ということを考えていきたい。その想いは途切れないようにしたいな、と思って作っています。

──今回の会場であり稽古場でもあるスタジオ結にはたくさんのポスターが貼ってあるのが印象的でした。

板倉 ポスターは過去の上演作品をなるべく網羅しようということで、第一回の公演から貼っているんですが、貼り切れないんですよ。最初はシェイクスピアのこの作品で始まったんだぞ、ということを、それこそ目にも分かるように提示しようという様な意図があったんではないでしょうか。

客も一緒になって想像力を高めて作る演劇という「時間」

──初めての方が演劇を楽しむポイントは?

岡山 ただ純粋に演劇をその目で見て頂ければ良いのかなと思っています。演者と客席の距離が近いので、息づかいだったり、ちょっとした目線や仕草も含めて感じていただける距離感でのお芝居になると思っています。そういった細かいところまで……人間の気持ちの変化みたいなものまで見ていただきたい。感情移入できるともっと面白いと思いますね。

八代 「スタジオ結」は90席しかない空間で、役者の息を飲む音さえ聞こえるくらいの距離感で観られます。それは魅力の一つですね。映画やテレビと違って、ここだけ観てくださいと、ズームアップされることはない、全部が目に入るんです。セリフをしゃべっていない人がどういう表情をしているんだろうと、お客さんがそれぞれの価値観でクローズアップして楽しんでもらえるのが演劇の魅力です。

板倉 演劇の醍醐味や面白さっていうのは、人間らしい人間が、人間らしくそこにいる、ということに集約されると信じてるんですね。実演芸術として、生身の人間がわざわざ不自由な空間で、不自由な時間の中で、お客さんと一緒に想像力を高めて時間を作っていくこと。生身の俳優さんの魅力、面白さをたっぷり堪能してほしいです。

お客様に力を与える、魅力あふれる舞台にします

──お客様にメッセージをお願いします

岡山 青年劇場小劇場企画No.26「裸の町」、2022年3月4日の金曜日から15日まで、15ステージ。青年劇場「スタジオ結」で上演致します。時代が変わっても変わらない人間の愚かしさだったりとかおかしさを上演致しますので、ぜひ皆さん楽しんでご来場いただけたらと思います。

八代 コロナでなかなか人と関わることが制限されていますけども、人間同士が生身でぶつかり合うっていうのは、力をくれるものだと思っています。演劇、とっても魅力的です。ぜひ足をお運びください。待ってます!

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