村上敏明さんにインタビュー
藤原歌劇団公演 「イル・トロヴァトーレ」村上敏明さんにインタビュー
藤原歌劇団公演 「イル・トロヴァトーレ」都民芸術フェスティバルは少しハードルが高く感じるオペラも、気軽に楽しめる場所。世界的テノール歌手の村上敏明さんは、この機会を活用し初心者でもオペラを全身で体感してほしいと語っています。ここでは作品の魅力、さらにはオペラの楽しみ方について詳しく教えていただきました。 藤原歌劇団公演 「イル・トロヴァトーレ」 公演情報はこちら
村上敏明(むらかみとしあき)
1972年東京都生まれ。1996年、国立音楽大学声楽学科卒業。藤原歌劇団団員。オペラの本場イタリア、ボローニャに渡りオペラを学ぶ。イタリア音楽を中心に幅広いレパートリーを有し日本内外で活躍。NHKニューイヤーオペラコンサートなどメディアに登場する機会も少なくない。日本を代表するテノール歌手として、長く注目を浴び続けている。
──今回公演される「イル・トロヴァトーレ」はどのような作品なのでしょう。
『イル・トロヴァトーレ』を日本語にすると「吟遊詩人」という意味です。私の演じるマンリーコがまさに吟遊詩人で、この作品では戦士でもあります。作品では母親に対する愛とそして恋人に対する愛、この2つがとても大きなテーマになっています。もう一つの見どころは、運命に翻弄される登場人物たちですね。『イル・トロヴァトーレ』の作者であるヴェルディは後期に『運命の力』というオペラ作品を残しているのですが、私の中では『運命の力』というタイトルを付けたいのは実はこの『イル・トロヴァトーレ』の方じゃないか、というくらいです。登場人物たちが運命に翻弄されていくという作品なので非常に重い内容ではありますが、分かりやすい明解な音楽で血が騒ぐようなオペラでもあります。ヴェルディといえば、コレというような音楽とリズムが繰り広げられる素晴らしい作品ですね。
──オペラ王と謳われたヴェルディの作品ということですが、どんな特徴があるでしょうか。
この『イル・トロヴァトーレ』というのはどちらかというと、初期から中期に移った頃の中期作品なのですが、初期のカヴァティーナ・カバレッタ(抒情的なメロディの前半カヴァティーナと、きびきびとしたテンポの後半のカバレッタから成る二重構造)という伝統的な音楽の作り方が色濃く残っていながらも、とても斬新な音楽使いやドラマ展開などがあるのが特徴ですね。そういう意味で独特な世界観があるのかなと思います。私が演じるマンリーコは役の中では絶対的なヒーローではないんですが、いざ一人で歌い始めると完全なヒーローになれる素晴らしい音楽が与えられています。メランコリックにやわらかくというよりも、強い意志を持って歌うことを意識していますね。
──オペラの魅力のひとつとして「アリア」がよく語られます。そもそも「アリア」とはどういうものか教えてください。
「アリア」と言うのは、物語の進行を一度止めて、自分の心情を歌う場所。アリアの言葉自体が「空気」という意味なんです。とくに感情が込められる部分で、2〜3時間もあるオペラの中のたった3分か4分の場面ですが、歌手達の一番の聴かせどころになっていて、高い音も入っています。このアリアが始まった瞬間は、物語は忘れて聴き入っていいと思いますね。まずは声や音楽の素晴らしさを全身で感じていただいて、その後で物語、時代背景や歴史などを考えればいいかな。生で聴いていただいた人が「わぁ!」と感じられるような、音楽作り、声作りになっているので、まずは、全身で、肌で感じていただければ。あまり深いことは考えないでください!
──藤原歌劇団はどのような団体なのでしょう?
藤原歌劇団は1934年、昭和9年に創立されました。「我らがテナー」と呼ばれましたテノール歌手、藤原義江さんが創立したオペラ団体なんですね。なのでやはり私たちテノール歌手にとっては身の引き締まる思いがあります。やはり藤原歌劇団はテノールが背負っていかなくてはならないなって言う気持ちがあるぐらいテノールにゆかりがあります。歴代の総監督には五十嵐喜芳先生(日伊で勲章を受けたテノール歌手)もいらっしゃいましたし、素晴らしいテノール歌手たちが歌い継いできた日本で一番歴史のあるオペラ団体です。とくにイタリアオペラを得意にしています。「イル・トロヴァトーレ」は究極のヴェルディオペラとも呼ばれている作品でもありますので、今回の公演でもイタリアオペラを存分に楽しんで頂けると思います。
──オペラを初めて観る方に観劇のルールを教えてください。
基本的に藤原歌劇団の公演に関しては、ジーパンでやってきたから会場に入れませんということは一切ありません。服装はそんなに気にしないでください。あとはオペラというのは、見たい方は、ぜひS席・A席、を選んでいただいて隅々まで見ていただくのが良いと思います。そして私たちのような歌が好きな人たち、と歌を聞きたい人は天井桟敷に近い席もおすすめです。今回は五階席まであり、四階・五階席なら2500円ですので、安価でオペラを楽しむことができます。映画と変わらないくらいの値段でも楽しめるのがオペラだと感じていただければうれしいですね。また藤原歌劇団独自の昔からやっている伝統なんですが、公演当日に総監督の解説があります。今作は折江忠道さんが自ら作品の聞き所というのを開演前にご説明する形で楽しいお話が聞けるかと思いますので、開演の45分前に来ていただいて、この解説も楽しんでほしいです。
──ずばりオペラの見どころは何でしょうか?
私たちの公演はマイクなしで行いますので、その生の歌声というのがどういうものかというのを、ぜひ感じていただきたいですね。とくに今回公演を行う東京文化会館は馬蹄形の様な形をしたオペラに最適な形。そして世界最高水準の音響ではないかなと私は思っているんです。非常にオペラを聴くにはすばらしい音響になっておりますので、全身で声を浴びてください。
──最後にお客様へのメッセージをお願いします。
都民芸術フェスティバル公演藤原歌劇団『イル・トロヴァトーレ』、究極のヴェルディオペラをご堪能頂けると思います。藤原歌劇団が総力を上げてお送りいたします。イタリア語の響きと共にヴェルディの音楽を全身で浴びてください。劇場でお待ちしております。