第60回式能 インタビュー|2020都民芸術フェスティバル 公式サイト

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第60回式能 インタビュー

香川 靖嗣(かがわ せいじ)


香川 靖嗣さん

シテ方喜多流能楽師。昭和19年生。重要無形文化財保持者(総合指定)。
公益社団法人「能楽協会」常務理事、公益財団法人十四世喜多六平太記念財団理事。海外公演にも多数参加。昭和60年度芸術選奨文部大臣新人賞、平成19年度第29回観世寿夫記念法政大学能楽賞、平成25年度日本芸術院賞受賞。

第60回式能

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式能とはどのような能楽公演なのでしょう。

式能は、江戸式楽の伝統を受け継いだ、由緒正しい形式で演じられる催しです。公益社団法人能楽協会は昭和20年の設立以来昭和36年からずっと式能を続けてきており、平素あまり能楽に関わりのない方々にも観ていただきたいという強い希望を持って、毎年催しています。現在、式能を催しているのは当能楽協会だけですので、ユネスコの第1回世界文化遺産に指定された、伝統芸能の継承という意味でも、死守していかなければならないという思いで、取り組んでいます。

式能で上演される「翁」「三番叟」などは固定のものでしょうか。

能ではプログラムのことを番組と言いますが、式能の上演形式は固定で、「翁付五番立て」という番組で構成されています。
最初に演じられる「翁」は、「能であって能ではない」という言い方をされます。というのも、「翁」は天下泰平五穀豊穣を祈念する、神聖で儀式的なものだからです。「翁」に続いて「三番叟」を演じることで、舞台におめでたい空気を作っておき、引き続いて神、男、女、狂、鬼という、五番立ての能が演じられます。また、能の間には必ず、狂言を挟む構成となっています。
能では役どころをもって登場するのが常ですが、「翁」に限っては、最初は面を付けず人として登場します。そして舞台で翁の面を付けることによって、神に変身します。「翁」が終わると面を取って、元の人に戻ります。
能楽師にとって「翁」は特別なものです。私が初演したときは、舞台前の1週間は精進潔斎して臨みました。昔は獣畜を食せず潔斎し、「別火」といって家族との使う火を別にするなど、非常に厳しい臨みかたでした。現在はそこまでしない迄も、演者が精進潔斎することには変わりありません。我々能楽師は勤める舞台を神聖視していますが、「翁」の場合は、それ以上に「神に近づく」という、常とは違った覚悟で勤めます。 次に続く「三番叟」は、面を付けずに舞う揉ノ段(もみのだん)というリズミカルで躍動的な舞と、黒式尉(こくしきじょう)という黒い尉の面を付けて鈴を振りながら舞う、祝言性の高い鈴ノ段からなります。いずれも拍子の多いことが特徴で、これは五穀豊穣を祈念して大地を踏みしめ、地の神様を呼び起こすという意味合いもあります。

香川さんが演能される「竹生島」のあらすじや、見どころをお聞かせください。

竹生島

翁の後に位置するものなので、「竹生島」は神能とも脇能とも言われます。それほどストーリー性のある能ではありません。脇能のもっとも大事なことは、さーっと始まり、終わったあとでお客さんが「何か分かんないけど、爽やかで気持ちよかったね」と思っていただけることです。私も師匠から「立て板に水を流すように、品をもって力強く、思い切って演れ」と教えられました。曲目によっては、思い入れや演出的なことなど、演劇の要素が大きいものもありますが、脇能にはそうしたことは不要と言っても過言ではありません。神能というだけあり、神は「正道、清浄、そして気迫の籠った強さ」。これが大事です。
前半は、琵琶湖の竹生島参詣に出かけてきた臣下のもとに、竹生島の主が現れて、弁財天の由来を語ります。後半は神殿の中からきらびやかな弁財天が出現して、雅びな舞を舞い、続いて水の神様である龍神が出現して、宝珠を臣下に捧げ、国土の守護を誓う。美しい弁財天の舞と、豪快な龍神の動きの、静と動のコントラストが見どころでしょう。

舞台に立つときに意識していらっしゃることはありますか?

内弟子時代から先生に言われたのは、「背筋、腰、肘」です。背筋を伸ばすこと、肘の構え、そして腰を安定させることが、能の動きの美しさにつながります。
柔道や剣道といった武道や、茶道など、“道(どう)”とつくものは皆すり足ですよね。それは、すり足だと腰が安定して、上下運動が抑えられるからです。能ではいかに上下運動の少ない、美しい歩き方をするかが大切です。上下運動があるのが「踊り」、ないのが「舞」です。舞台にぴんと張り詰めた空気の中での美しい所作は、緊張感とともに、能の素晴らしさだと思います。

香川 靖嗣さん

式能を観劇するにあたり、能楽初心者は予習や準備をしてから臨むべきでしょうか?

基本的には無垢なままでご覧になられるのが、いいかと思います。あえて言うなら、ざっくりとしたあらすじ程度を、予備知識として入れたうえで、あとは構えることなく、自然体でご覧いただきたく思います。先づはその方の感性で、舞台を見ていただきたいですね。

香川さんにとって能楽の魅力はどんなところでしょう。

厳かな雰囲気が漂う能舞台で演じられる能楽は、他の演劇のように、舞台から与えられる情報量は、とても少ないと言えます。動きも抽象的で様式美の芸術ですので、分かり難いけれども、その控え目な所作の中に、演者の心、品位、気迫から訴えかけてくる何かを、皆さんの個々の感性で受け止めていただければ幸いです。

能楽は海外公演などで高い評価を得る一方、国内の若い世代には敷居の高い芸能と思われがちです。

能楽協会では様々なことを試みています。もっとも大事なのは、将来を担う子どもたちが、能楽に出会う機会を作ることだと思いますので、体験授業をしたり、能楽鑑賞を実施しています。また、学校の先生方が能楽をご存じないがために、生徒達になかなか伝統芸能の教授が、出来かねているのが実情です。そこで、先生方が能楽について学べる活動もしています。併せて観客層の底辺を広げる様々な活動も続けています。

香川 靖嗣さん

都民芸術フェスティバルのウェブサイトをご覧の方へメッセージをお願いします。

「血が騒ぐ」と言いますが、能のことは何も分からなくても、先づはご覧になっていただくと、日本人としての血が、何か分からないけれども騒ぐものがあると思います。それが衣装なのか動きなのか、声なのかお囃子なのか、どこに惹かれるのかは、人によって十人十色ですが、見る人の感性に訴えかけてくるものが、きっとあると思うので、先づはは能楽堂にいらしてください。最初は、世間から離れた非日常的なその空間に、「こんな場所があったんだ、信じられない」と驚かれるかもしれません。開場と同時に、客席に早くから座っていらっしゃる方もいます。「何も始まっていない無の舞台を見ているだけで、気持ちが安らぐから」と仰いますが、私もまったく同じ気持ちです。何十年も見ている舞台ですが、あの静寂さの中の、張り詰めた心地よい緊張感は、心のゆとりを見失いかけている現代人にとって、大切なものと思います。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに伴い、能楽も外国人向けの催しが増えていきます。「外国人でさえ能を見るのなら、日本人である自分が先づ、能を見てみようかな」という気軽な気持ちで、ひとりでも多くの方に会場に足を運んでいただければ嬉しいですね。

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