霧矢大夢さんにインタビュー

unrato#8『薔薇と海賊』

人間の感情のせめぎ合いが生み出す渦、そこに巻き込まれてほしい。

三島由紀夫の戯曲『薔薇と海賊』。童話作家の楓阿里子(かえでありこ)と知的障害を抱えた青年の交流を描いたファンタジーで1958年に初演された作品です。舞台を観た三島自身が涙を流したという逸話も残されています。今回は楓阿里子を演じる霧矢大夢さんに作品の見どころ、そして舞台の持つ力について語っていただきました。 unrato#8『薔薇と海賊』 公演情報はこちら


霧矢大夢 (きりやひろむ)

女優・歌手。1992年、宝塚音楽学校入学、1994年宝塚歌劇団に入団。2010年月組トップスターとなり、2012年宝塚歌劇団退団その後は舞台を中心にその演技力を発揮し、『マイ・フェア・レディ』、『ラ・マンチャの男』などの人気作に出演。平成21年度文化芸術祭演劇部門新人賞、2015年第22回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞

戦友、大河内直子と三島由紀夫の名作に挑戦。

──「薔薇と海賊」はどのような作品でしょう?

三島由紀夫氏がニューヨークでバレエを観て着想したという作品で、今回の演出はunratoの大河内直子さんです。大河内さんとはこれまで多くの作品で組ませていただいていて、信頼のおける戦友のような存在です。『薔薇と海賊』は文学座が初演で、私が演じる楓阿里子という女性童話作家の館が舞台。この館に、阿里子のファンという知的障害を抱えた30歳の松山帝一という青年が、面談に訪れる……。いろいろな事情がある楓邸に純粋な心を持つ青年が現れて、登場人物たちの人間関係が引っ掻き回されていく物語です。

ファンタジーの世界を通して映し出される、人間の業。

──作品の見どころを教えてください。

大河内さんもおっしゃっていますが、三島由紀夫氏ならではの、言葉のレトリックがある。独特の言葉の美学があるんですね。私が演じる阿里子は童話作家ということで非常にポエティックな言葉を使う女性で、人間の想像力の豊かさや、そこに潜んだ人間のドロドロした部分みたいなものが阿里子の世界を通して、醸し出されていきます。登場人物も多彩で、お客さまもそれぞれに親近感を抱くのではと思います。読めば読むほど、じわじわと三島ワールドが身に迫って来るような感覚があります。ぜひ、そういうところを掘り下げて見ていただきたいと思います。

居心地良く演劇に集中できる場所、unratoで磨く演技。

──この公演を上演する演劇ユニット「unrato(アン・ラト)」について教えてください。

プロデューサーの田窪桜子さんと演出家の大河内さんの二人が主宰している演劇ユニットです。私はユニットの立ち上げの頃から参加していますが、つねに演劇の奥深さと可能性を探究しているユニットだと思います。各セクションの人たちが自由にアイディアを出し合い、緻密な舞台を創作しています。私にとっては修行の場、とても勉強になっていて、いつも居心地良く演劇に集中させていただいています。今まで大河内さんとは一人芝居や二人芝居が続いていて、これだけ多くの登場人物がいるのは実は初めてです。共演者はいろいろな場所で演劇をされてきた方たちなので、どんな化学反応が生まれるのか楽しみで、とても刺激をうけています。

感性が研ぎ澄まされ、想像力が育てられる場所。

──初めて観劇する方が楽しむコツは?

劇場空間って独特ですよね。観客もその空間の中に一緒にいる。舞台上ではつねにライブで何かが起こっていて、舞台美術や照明、音楽や役者の息づかいなど、視覚や聴覚的にも劇場ならではの味わいがある。いろいろな感性を研ぎ澄まし、豊かな想像力を育てられる場所だと思うんです。コロナ禍では、これまでとはまた違う大変な想いを込めてみなさん舞台をつくって、上演されていると思います。ぜひ、そういう想いと刺激を味わいに劇場にいらしていただきたいなと思います。

──ズバリ、舞台の魅力は?

時間と場所を共有する舞台のライブ感ですね。演じていても日々舞台が進化していくのを感じられるんです。また、お客様が目の前にいるので、そこから生まれる絆みたいなものも感じています。舞台を見ている方が何かを感じれば、もうきっとそれがその人の人生の糧になっていると思うんです。舞台を通して人生を豊かにすることができると思います。

宝塚は大切な故郷、今も感じる絆。

──霧矢さんには宝塚歌劇団時代からのファンもたくさんいらっしゃいますが、絆のようなものは感じてらっしゃいますか。

絆はとても感じています。私が在団していた時間は100年以上の歴史を持つ宝塚のごくごく限られた年月です。でも退団してからもずっとその絆は続いているんです。たとえば昨年は『エリザベート』という舞台の25周年イベントがあったのですが初演当時からご覧になっていた方が、また劇場にやって来る。そうすると、みなさん当時に戻ってその時の年齢になるような感覚があって。それは舞台上でも客席でも起こっていてすごく感銘を受けました。歳を重ねていくにつれ実感しているのですが、宝塚は大切な故郷みたいなもの。自立してひとり立ちしても帰る家があり、皆さんと集まることができる。実家に帰ったみたいな、そんな感覚があるんです。

皆さんも楓阿里子邸の渦に巻き込まれてください。

──最後にお客様へメッセージをお願いします。

三島由紀夫さんの世界、なかなか手強いです。とてもドラマティック。登場人物がみんな個性豊かで度肝を抜かれる展開もあります。そこに、人間本来の持つべき感情みたいなものがシンプルに流れているんです。みなさんにも、この楓阿里子邸で、登場人物たちがつくる渦に巻き込まれていただきたいと思っています。それが心地よい渦となって、自分もそのドラマを生きたような感覚を持っていただける作品です。夢の世界もあり、人間のドロドロした部分もある。ファンタジーと現実が両極端にあって、つねに人間はその中で必死にバランスをとっている。そんな人間の感情のせめぎ合いがたくさん繰り広げられるので、ぜひ、それを体感しに劇場へ足をお運びいただきたいと思います。

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