声楽家 宮地江奈さん・種谷典子さんにインタビュー
東京二期会オペラ劇場 モーツァルト作曲『フィガロの結婚』声楽家 宮地江奈さん・種谷典子さんにインタビュー
東京二期会オペラ劇場 モーツァルト作曲『フィガロの結婚』宮本亞門演出のモーツァルト作曲「フィガロの結婚」は、2002年の初演以来、3万人以上のお客様に楽しんでいただいているという東京二期会の人気のプログラムです。フィガロとともに物語の要となるスザンナ役を演じるお二人に、お話をうかがいました。 東京二期会オペラ劇場 モーツァルト作曲『フィガロの結婚』 公演情報はこちら
宮地江奈 Ena Miyach ソプラノ Soprano
東京都出身。国立音楽大学卒業、同オペラ・ソリストコース及び同大学院修了。二期会オペラ研修所及び新国立劇場オペラ研修所修了。ANAスカラシップにてミラノ・スカラ座及びバイエルン州立歌劇場各研修所にて研修。文化庁新進芸術家海外研修制度にて渡洪。近年東京二期会では『後宮からの逃走』ブロンデを演じ、7月『パルジファル』出演予定。二期会会員
種谷典子 Noriko Tanetani ソプラノ Soprano
広島県出身。国立音楽大学卒業(武岡賞)、同大学院修了(声楽専攻最優秀賞)、新国立劇場オペラ研修所修了。文化庁新進芸術家海外研修制度にてミラノ、ルガーノで研鑽。第16回東京音楽コンクール第2位等受賞多数。宮本亞門演出『魔笛』パパゲーナで二期会デビュー。6月日生劇場『セビリャの理髪師』ベルタも予定される。二期会会員
──「フィガロの結婚」はどのような作品ですか?
宮地 このオペラが初演された3年後にフランス革命が起きました。当時の貴族に対して、フィガロやスザンナのような平民が自らの意思を主張し始めるという時代の過渡期を描いた作品です。現代にも通じるものがあって、女性が自分の意思でどんどん道を切り開いていく、その先駆け的存在のひとりがスザンナではないかと思います。
種谷 愛し合うフィガロとスザンナが、ようやく結婚にたどり着いた、その一日の始まりからお話が進んでいきます。二人が婚礼の準備をしていると、フィガロが仕えている伯爵がスザンナに対して策略を練っており、それをスザンナが聞いてしまう。フィガロとスザンナが伯爵の企みを阻止しようとするところに、キャラクターが濃い人物が次々と現れて引っかき回していくというストーリーです。
宮地 登場人物が多くて、一人一人がとても個性的。その中で、われわれの感情に一番近いのがフィガロとスザンナかもしれません。皆が「私が、私が」と主張し合ってドタバタを繰り返し、しかもちょっとほっこりするシーンが要所要所にあり、人間のいろいろな面が一気に見られる、そんなところが楽しいですね。
種谷 そうなんです。すべての登場人物がとにかく一生懸命に生きている、それがなんとも愛おしい。誰が悪いわけでもなく、それぞれにかわいらしいところがあります。観る方が、自分はどのキャラクターに共感を抱くかと考えながら楽しんでいただくといいのではないでしょうか。
──お二人が演じるスザンナは、どんな女性ですか?
宮地 「フィガロの結婚」のスザンナは、私たちソプラノにとってはあこがれの役のひとつ。彼女の特徴は強い意思とフィガロへの純粋な愛情にあって、共感できる部分が多い。強くて機転が利く賢い女性の部分と、思いやりがあって優しく柔らかい部分のどちらも表現できたらと思って、いま稽古に取り組んでいます。
種谷 スザンナは頭の回転が速く、いちいち嘆いている暇がないほど。小間使いという役柄からしても、その場面で何が起きているか、舞台全体を常に俯瞰できるようにしたいと思っています。
スザンナを演じることもとても楽しみですし、相手役のフィガロや彼女がお仕えしている伯爵夫人、自分をねらっている伯爵といったすべての人物との関わり方が、それぞれ違う。相手によって異なる関係を演じ分けるのが、稽古をしていて楽しいですね。
──「フィガロの結婚」の見どころは?
宮地 すべてが見どころというくらい、秒刻みでいろいろなことが起こります。ストーリーを言葉で説明すると複雑に感じるかもしれませんが、演出の宮本亞門さんの手にかかると、非常に分かりやすくなる。世界中でいろいろな方が「フィガロの結婚」の演出をなさっていますが、その中でも特に見やすく分かりやすくなっていると感じます。
演じる私たちも、お客様に「今日は、来てよかった」と思っていただけるよう、魂を込めて歌おうという意気込みが稽古場にあふれているのを感じます。
──初心者がオペラを楽しむポイントを教えてください
種谷 「フィガロの結婚」は特に、内容をしっかり予習してくる必要はあまりないと感じます。宮本亞門さんの演出は決して奇をてらったものではなく、ストーリーに沿ってきちんと登場人物の心情を描きながら進んでいきます。いま観ている場面で何が起きているのか分からないということは、おそらくないと思います。
お時間があればちょっと早めに劇場に足を運んで、幕が開くまでの間、パンフレットに載っている物語前半のあらすじをご覧になるのもいいでしょう。幕間の休憩時間に後半を読めば、それまでのストーリーやあとの展開をさらにクリアに理解できます。
宮地 私は映画も好きなのですが、例えば「ショーシャンクの空に」という映画の中で「フィガロの結婚」の「手紙の二重唱」という有名な歌が流れていたりします。オペラはちょっと遠い存在だと感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、実はテレビのCMや映画など、いろいろなところでオペラの曲が使われています。
ですから、事前に予習をしていかないとオペラの内容が分からない、楽しめないということはなく、「あ、この曲は聴いたことがある」と感じるだけでも、来てよかったと思えるものです。そのために、私たちは一瞬一瞬の音楽が輝いて、お客様に満足していただきたいと思っています。
──お客様へのメッセージをお願いします
宮地 宮本亞門演出のモーツァルト作曲「フィガロの結婚」は、2002年の初演以来、再演を重ね、3万人以上のお客様にご覧いただいております。いまはコロナ禍で厳しい状況ですが、こんなときだからこそ私たちが表現し、お届けできるエネルギーがあるかもしれません。それがお客様の気持ちと合致すれば本当に素敵な時間になると思うので、ぜひご覧いただきたいと思います。
種谷 劇場に足を運ぶというのは非日常的なことだと思いますが、そういったちょっと特別な日があると、人生のワクワク感が高まるのではないでしょうか。「フィガロの結婚」はオペラが初めての方も楽しめる、魅力いっぱいの作品ですので、ぜひおいでください。