振付家 山本康介さんにインタビュー

東京シティ・バレエ団 『トリプル・ビル2022』

東京シティ・バレエ団の公演は当初予定していた1月22日、23日の公演を中止し、3月10日に東京文化会館において振替公演を開催することとなりました。
インタビューの内容は当初予定のままとなっておりますので、ご了承ください。


「火の鳥」では、観ている方が驚くような要素を踊りにも入れたい。

「WIND GAMES」、「Octet」、そして「火の鳥」の3本立てでおおくりする、東京シティ・バレエ団の「トリプル・ビル2022」。「火の鳥」の稽古がまっ最中の振付家、山本康介さんにバレエや生の舞台の魅力などについてお話をうかがいました。 東京シティ・バレエ団 『トリプル・ビル2022』 公演情報はこちら


山本康介(やまもとこうすけ)

振付家。美佳バレエスクールにおいて山口美佳に師事。13歳で名古屋世界バレエ&モダン・ダンスコンクールの審査員特別賞、ポーランド国立オペラ劇場からニジンスキー賞を受賞。1998年英国ロイヤル・バレエスクール入学。主席で卒業し、バーミンガム・ロイヤル・バレエ入団。プリンシパル・ソリストを務め、帰国後は演出家、振付家として活躍、NHKの番組に解説者として出演など。

ロシアの民話を元にしたストラヴィンスキーの名作

──「火の鳥」はどのような作品ですか?

ロシアの作曲家、ストラヴィンスキーの作品で、ロシアの民話が元になっています。ある国で、最果ての地に黄金のリンゴを食べる火の鳥がいるという伝説があり、イワン王子が探しに行きます。彼は火の鳥を見つけて捕まえるのですが、火の鳥に懇願され、その羽根と引き換えに逃がしてあげます。そして、悪魔のカスチェイの魔法で捕らわれた13人のお姫様と出会い、そのうちのひとりと恋に落ちてしまいます。カスチェイに見つかって石に変えられそうになった王子が火の鳥の羽根を振ると、火の鳥が現れて王子を助け、国が再び栄えるというシンプルなお話です。
ロシアの民話には、このように心根のきれいな主人公が老人とか火の鳥に象徴されるものから言われたことを忠実に実行し、成功するというストーリーが多いように思います。
「火の鳥」は、ロシア革命でパリに逃れたダンサーたちによるバレエ・リュスというバレエ団によって、1910年に初演されました。今回は、ストラヴィンスキーがのちに米国に亡命したあと、ジョージ・バランシンが振り付けた1945年版に依っています。

床から一気にリフトで上がる振幅の大きさ

──「火の鳥」の振付について教えてください

ストラヴィンスキーのこの曲は有名で、オーケストラがとても壮大です。しかし、ストラヴィンスキーは、聴きやすい音楽が必ずしもいい音楽であるとは限らないと信じていたような気がします。非常に力強かったり、聴く人が心地いいと感じるレベルを越えた音階や強さだったりというところに、彼のメッセージが込められているのではないでしょうか。それを踊りで表現するのはとても難易度が高いのですが、踊りはなるべくシンプルにして、物語の中で何が大事か、何を伝えたいかというところにフォーカスして作るようにしています。
音域が非常に広いので、ダンサーは飛んでいるところから床へ、もしくは床に寝ているところから一気にリフトで上がるくらいの振幅の大きさがほしいのですが、ダンサーは肉体的に厳しい。しかし、音楽を聴いていると、観ている方が驚くような要素を踊りにも入れたいと感じます。

ダンサーの芸術性が見えてくるようなバレエに

──お客様にはどんなところを観てほしいですか?

私はイギリスから帰国して10年になりますが、両国の違いについて感じたことや、このコロナ禍で考えたことなども今回の振付に少し反映しています。踊りの動き自体はクラシックバレエですが、初めて和風のテイストを取り入れ、衣裳も少しそれを感じさせるようなデザインになりますので、そこをぜひご覧いただきたいですね。
振付をする際に、あらかじめ踊りのステップを考えて稽古のスタジオに入ることはほとんどありません。音楽が強烈だったり気に入った部分があれば、作ろうと意識しなくてもできるものです。そのシーンがよく見えるように、逆算しながら全体を作り上げていく感覚があります。
ダンサーと自分が同じ音楽性を共有できるかどうかを常に考え、最初は「この音が聞こえますか」といったダンサーとの対話のようなリハーサルを続けるのです。そして、私がすべてを指示するのではなく、ダンサー自身が心地いいと思う部分の選択肢を残してあげる。自分のステップを踏むことによって、それぞれのダンサーの芸術性がもっともっと見えてくるようなバレエにしたいといつも思っているので、そんなところも感じ取っていただければうれしいですね。

自分の中に新たな感情が芽生える

──バレエの魅力を初心者が楽しむポイントは?

おそらく人それぞれだと思いますが、自分が好きなものとつながったときに最初の興味がわいて、面白さを感じるのではないでしょうか。例えばクラシック音楽が好きであれば、「火の鳥」のように好きな曲のバレエ公演を観に行くとか。マンガが好きなお子さんだったら、「くるみ割り人形」や「コッペリア」なんて楽しくて分かりやすいですよ。
また、劇場という非日常の空間にでかける体験自体も貴重です。劇場近くのレストランで食事をしたりコーヒーを飲んでから、劇場の入口を入り、自分の席を探して座って待つ。指揮者が出てきて、照明が徐々に消え、パッとカーテンが開く。客席に座っている人は、いまそこにある楽器の音を聴き、そこで踊っている人の動きを目で追う。
たとえステージで繰り広げられていることに共感していなくても、思いがけず涙がこぼれたり、劇場の帰りにちょっと店に寄って、いつもならビールを飲むのに今夜はワインにするとか。意識していなくても何かしら影響を与えてくれるのが、舞台の素晴らしさだと思います。
劇場の良さ、生の芸術の魅力は、バレエに限らずオペラでも演劇でも同じだと思いますが、舞台で演じられていることを観て何かしら自分の感情が芽生えることではないでしょうか。五感六感で芸術を感じ、自分の感情を発見する。劇場に行き、集中して観ることによって感情が必ず豊かになります。

新国立劇場中劇場でお待ちしています

──お客様にメッセージをお願いします

いま、東京シティ・バレエ団の皆さんと楽しくリハーサルをしています。1月の22日と23日、新国立劇場の中劇場でお待ちしておりますので、「トリプル・ビル 2022」にどうぞお越しください。

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