特集6:邦楽との出あい、次世代へ手渡すこと|2017都民芸術フェスティバル 公式サイト

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2017都民芸術フェスティバル 公式サイト

邦楽との出あい、次世代へ手渡すこと

田中 奈央一(たなか なおいち)

田中 奈央一さん
田中 奈央一さん

東京都出身。6歳より山田流箏曲の手ほどきを河内百合能師に受ける。東京藝術大学卒業後、六世中能島弘子師の直門となり「奈央一」の芸号を許される。同大学院修士課程修了。文化庁新進芸術家国内研修員修了。NHK邦楽技能者育成会 第50期首席卒業。古典箏曲以外に長唄三味線や江戸小唄を学び、NHKテレビ、NHK-FMラジオ、歌舞伎公演等に出演の他、現代作品の初演やバロック楽器との共演、声優の堀江一眞とのユニット「声劇和楽団」によるオリジナル朗読劇公演を催すなど、様々な演奏活動を展開している。
2016年3月まで東京藝術大学の助手を務め、現在、(公社)日本三曲協会・山田流箏曲協会・箏曲新潮会・箏曲組歌会・曠の會・アンサンブル室町・和楽団 煌・平家語り研究会各会員。NHK文化センター柏教室講師。都立三田高校・王子総合高校 和楽器講師。

朝香 麻美子(あさか まみこ)

朝香 麻美子さん
朝香 麻美子さん

東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業、NHK邦楽オーディション合格、文化庁芸術インターンシップ国内研修修了。2008・09年東京藝術大学教育研究助手、13年非常勤講師を務める。第5回賢順記念全国箏曲コンクール銀賞、第8回長谷検校記念全国邦楽コンクール優秀賞(三味線)、第二回千葉市芸術文化新人賞、各受賞。13年文化庁芸術祭参加公演“朝香麻美子箏・三弦リサイタル~言葉のちから~”開催(紀尾井小ホール)。15年NHK・Eテレ“にっぽんの芸能”「山田流箏曲の魅力」出演。
現在、神田外国語大学箏講座講師、千葉県立千葉西高等学校箏曲部講師。日本三曲協会・山田流箏曲協会・箏曲新潮会会員。

小畔 香子(こあぜ きょうこ)

小畔 香子さん
小畔 香子さん

生田流箏曲演奏家。
NHK邦楽技能者育成会48期修了。
東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業。在学中、宮城賞・安宅賞、卒業時にアカンサス音楽賞を受賞。同大学院修了。宮城道雄記念コンクール一般の部一位入賞。
台湾にて地唄三味線の講師を務めるなど国内外で活動。NHK・Eテレ「にっぽんの芸能」「古典芸能鑑賞会」「おんがくブラボー」などに出演。
現在、宮城社師範、宮城合奏団団員、山手学院箏曲部講師。

都民芸術フェスティバルで開催される「邦楽演奏会」は義太夫節、清元節、古曲、新内節、常磐津節、長唄、三曲といった様々な日本の伝統音楽を集めた演奏会で、今回からさらに琵琶と小唄も加わりました。皆さんが演奏される三曲とはどのような音楽なのか、またご専門とされている楽器について教えてください。

田中 三曲というのは、お箏(こと)※1、三味線、尺八の3つの楽器による合奏形態のことをいいます。尺八でなく胡弓(こきゅう)を使うこともありますが、今では尺八が一般的です。編成は各楽器一人ずつのこともあればお箏だけ2人などさまざまですが、何人で演奏しようがこれら3つの楽器を使っていれば三曲です。ちなみに今回私たちが演奏する『子供のための組曲』は、お箏5名、十七絃(じゅうななげん)2名、尺八3名、三味線2名に琵琶1名、打楽器2名が加わった、三曲としても大きな編成の演奏となります。私は山田流の箏曲演奏家でお箏を専門としているのですが、今回は十七絃を担当します。これは合奏の音域を広げるために開発された低音用のお箏です。普通のお箏は十三絃ですが、十七絃では糸(絃)を4本増やした上に太くし、さらにお箏自体が十三絃より長く幅も広くなっている、大正時代に宮城道雄先生※2が発明した楽器です。絃の数が多いお箏はまだ歴史が浅いので、今回のように現代の合奏曲に用いられることが多いです。

小畔 私は生田流の箏曲演奏家で、今回は田中さんと同じく十七絃を担当します。普段は生田流と山田流が同じパートになることはあまりないのですが、最近は日本三曲協会を通し、文化庁からの受託事業として一緒に全国の小学校・中学校に巡回公演するようになり、その顔なじみのメンバーということもあり混じっています。

朝香 私は山田流の箏曲演奏家で、今回は“2箏”を担当します。管絃楽で言えば、“1箏”がバイオリンで“2箏”がヴィオラ、十七絃がチェロといった感じですね。

今回の邦楽演奏会は、第1部の前半が、皆さんが演奏される『子供のための組曲』をはじめ、子供も楽しめる曲で構成されているのが特徴です。『子供のための組曲』とはどのような曲なのでしょうか。

第47回 邦楽演奏会チラシ
PDF(1.17MB)

田中 長澤勝俊先生※3が1964年に作曲した、現代邦楽の代表曲の1つです。全5章からなる組曲で、先ほどお話ししたように、お箏、十七絃、尺八、三味線、琵琶、打楽器という多種類の和楽器が用いられ、章ごとにそれぞれの楽器の特色が味わえるようになっています。各章の曲調は第1楽章から順に、「軽やかにのびのびと」、「ゆったりとうたう感じで」、「遊戯唄風におどけて」、「しずかに子守歌風に」、そして最終楽章は「激しく律動的に」、となっています。

小畔 長澤先生はこの作品について、「邦楽の世界には子供の世界を描いたものが少ないので、子供も大人も日本の楽器や日本の昔について考えてみてほしいという願いで書いた」という言葉を残されています。

朝香 演奏していて、「和製くるみ割り人形みたいだね」って話しているんですよ。ちょっとかわいらしい感じがあって、子供たちが遊んでいる様子が思い描けるような曲です。

田中 邦楽はちょっと艶っぽい内容の歌詞だったりする曲が多いので大人向けという色合いが強く、子供のための曲があまりありませんでした。宮城道雄先生も「童曲」という子供が弾いたり歌えたりするような曲をたくさん作られたのですが、合奏で楽しめるような大きな編成のものはなかったのです。長澤先生はこの曲で、ご自身の人形劇活動の中で経験した子供たちとの触れ合いをモチーフにして、その生活を表現されたそうです。

朝香 邦楽、特に箏曲は単音が多いのですが、この曲では尺八も3つのパートに分かれていてアンサンブルになっているので和音も楽しめます。そのためやわらかい感じもあって、しかし打楽器も入るので迫力もあります。今回は長唄協会などのご協力もありこのような合奏が実現したので、演奏する私たちも楽しみです。このように流派やジャンルを越えて一つの曲で共演できるのも、邦楽演奏会ならではですね。

邦楽の魅力とはどのようなものだと思われますか。日本の伝統音楽に携わるようになった経緯とあわせてお聞かせください。

小畔 邦楽の楽器、つまり和楽器は余韻を楽しむ楽器で、まずそこに魅力があると思います。そしてその和楽器を使って邦楽を演奏すると、そこには洋楽にはない独特の世界が広がります。私自身は、お箏をはじめとする和楽器の構造や仕組みを考えること自体もとても楽しいですね。お箏を始めたのは、小さい頃になにか楽器を習おうということになり、姉がピアノを習っていたので、それなら私は叔母が習っているお箏にしようという、そんなきっかけでした。でも最初はお箏を弾くことより、年に2回ある大きな発表会で着物を着られるのがうれしくて、それで続けていたようなものですね(笑)。ただ、いま私のお弟子さんにも同じような子がいるので、お箏を弾くことプラス日本の伝統文化も学べるということも魅力なのかもしれません。始めるきっかけは何でもいいのだと思います。

朝香 私は祖母がお箏をやっていたので、その流れで3歳から遊びの延長のような形で始めていました。ただ自分の意志で始めたわけではなかったので当時は特に面白くもなく、小学生になるとあまりに稽古をさぼるので、祖母ではなく外の先生のところへ行かされたほどです(笑)。続けていくにつれて、それまで一緒にやってきた同年代の仲間が減ってしまうのも寂しかったですね。お箏が楽しくなったのは大学に入ってからです。私たち3人はみな藝大出身なのですが、藝大では古典を中心に学び、そこから新たなものも勉強していきます。そこで古典の魅力、面白さを実感して、さらにほかの邦楽を学ぶ人たちとの出会いが刺激となりました。

田中 僕は小学生の頃はお菓子目当てで稽古に通っていました(笑)。最初のきっかけは、たまたま近所にお箏の先生が出稽古で来ていて、親が習わせてみようと思ったようです。僕の場合は、楽器を弾いているととにかく楽しい、演奏するのが楽しいです。お箏に限らずほかの楽器でもやはり楽しいですね。ところが藝大の音楽学部で邦楽以外に履修したピアノとフルートは楽しいのに思うように上達せず、フルートにいたっては練習していたら「尺八上手ね」と言われてしまい、ああ向いてないんだなと(笑)。藝大に進学したのも、最初から将来はお箏を職業にと決めていたわけではなく、単に藝大がどんなところなのか行ってみたいという好奇心からでした。実際に入学してみたら勉強することが山のようにあって大変でしたが、結果的には苦労したことで邦楽の面白さを実感できました。

田中さんは箏曲の演奏家としてだけでなく多彩な演奏活動をされています。どのように現代の表現活動に関わっていきたいと考えていらっしゃいますか。

田中 歌舞伎公演や各種舞台での古典曲目の演奏や、また古典から現代、他ジャンルまで演奏する「和楽団 煌」への参加などのことだと思いますが、自分としては邦楽というジャンルを飛び越えている感じがしないですね。別ジャンルとコラボレーションしてみたら面白い世界があったとか、和楽器だけで現代曲のアンサンブルをやってみたら意外といけたとか、バロックの楽器と一緒にやってみたらこれも面白かったとか、そういった感じで、箏曲をベースにしながら自然と活動の場が広がっていったように思います。客層の違いは刺激になります。お箏だと年配の方や常連のお客さんが多いですが、声優さんと一緒の公演の時は高校生ばかりでした(笑)。ロビーのお客さんが熱かったり、アンケートもたくさん回答してくださったりと、お箏の世界とはまた異なる刺激や新たな気づきがありました。

小畔香子さん(左) 朝香麻美子さん(中央) 田中奈央一さん(右)

より多くの方、特に若い世代の方に邦楽の魅力を知ってもらうためには、どのようなことが必要だと思われますか。

朝香 自分が伝えたいと思う音楽を、それぞれがそれぞれの場所でやっていくしかないのかなと思います。たとえば私の場合は、その時代の人たちの息吹や生活といったさまざまなものが見えてくる古典が好きなので、コンサートでは必ず1曲は古典を入れてその面白さを伝えるようにしています。ある部分は一緒に歌ってみたり、子供たちに体験してもらったりするという地道な活動を重ねることが、邦楽の魅力を次世代に伝える一助となるのではないかと考えています。

田中 これからはいろいろなメディア、特に動画の公開を積極的に考えていくべきだと思います。ただ古典の上演形式でそのまま流しても新しいお客さんにはなかなか受け入れられないと思うので、たとえばバンド形式にするといった見せ方の工夫も必要でしょう。しかしそうなると、今度は「お箏であんなことして」という声が出てくるかもしれません。それでもなお、古典の魅力を伝えられるような発信をどのようにしたらできるかを考えるべきだと思っています。

小畔 私は高校の部活動でもお箏を教えているのですが、部活でやるのは現代的な親しみやすい曲調のすぐ弾けそうな合奏曲が中心です。けれど私は、古典箏曲を代表する『六段の調』の一段目だけでもちゃんと弾けるようになって卒業しようねと言っています。というのは、高校生ならではの感性で『六段の調』を新しいものとしてとらえ、「かっこいいね」という子がいるからです。そうした子たちとの出会いで、伝えようとすれば伝わると改めて実感したので、今後もそこだけは曲げないで頑張ることで、一人でも多くの若い方に邦楽の魅力を伝えられればと思っています。

観客の方へのメッセージをお願いします。

田中 邦楽演奏会では本当に色々なジャンルの演奏が聴けるので、純粋に楽しんでいただきたいですね。

小畔 周囲のお弟子さんだけでなく、今回はぜひ小さい子に声をかけて、一緒に聴きに来ていただけたらいいなと思っています。

朝香 『子供のための組曲』だけでなく、義太夫節の『カチカチ山』などは童話から取り上げられているものなので、子供たちにも最初に出あう邦楽として楽しんでもらえると思います。ぜひ親子でいらしてください。

※1 「琴(こと)」と「箏(こと)」の違いについては公益社団法人日本三曲協会ホームページで詳しく紹介されています。

※2 宮城道雄氏(1894年-1956年)は、兵庫県出身の作曲家・箏曲家・文筆家。「宮城検校」とも呼ばれている。

※3 長澤勝俊氏(1922年-2008年)は東京出身の作曲家。1947年戦地からの帰国後、人形劇団プークに入団し作曲家デビュー。1964年、現代邦楽の創造集団である「日本音楽集団」の創立に加わる。

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