作・演出 井上恵美子さん・下村由理恵さん・村松卓矢さんにインタビュー

現代舞踊公演「家路」

ダンサーは自由に表現し、観客も自由に感じる現代舞踊の世界。

井上恵美子の作・演出による現代舞踊公演「家路」は、公募によって選ばれた若手ダンサーに加えて、主演に下村由理恵、そして舞踏カンパニー・大駱駝艦の村松卓矢というユニークなコラボレーションが実現。3人の自由で楽しいお話は、踊ることや表現することに対する熱い思いがあふれていました。

井上恵美子(いのうえ えみこ)

演出家、振付家。井上恵美子ダンスカンパニー代表、井上恵美子モダンバレエスタジオ主宰、(一社)現代舞踊協会常務理事。現代舞踊を芙二三枝子に師事。東京新聞全国舞踊コンクール指導者大賞、文化庁芸術祭優秀賞ほか受賞多数。

下村由理恵(しもむら ゆりえ)

ダンサー、演出家、振付家。下村由理恵バレエアンサンブル代表。文化庁芸術家在外派遣研修員として、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団にて研修。その後、英国スコティッシュバレエ団プリンシパル。帰国後はフリーとして活躍。紫綬褒章受章。

村松卓矢(むらまつ たくや)

ダンサー、振付家、俳優。舞踏カンパニー・大駱駝艦所属。舞踏、映画、テレビ、舞台などで活躍中。

東日本大震災の被災地の様子に衝撃を受けて制作。

──「家路」はどんな作品?

井上 2011年3月の東日本大震災がきっかけとなって生まれた作品です。震災が起きたときは、ちょうど公演の本番を迎えようとしていたのですが、中止となり、ロビーのテレビで被災地の映像を見て大変な衝撃を受けました。
その後、8月に福島と宮城を訪れて被災地の様子を目の当たりにしたため、帰京してすぐに「家路」を作り上げ、その年の12月には井上恵美子ダンスカンパニーとして川崎で上演することができました。以後、何度か上演しています。

──「鳥」をモチーフに選んだ理由は?

井上 宮城県の松島を訪れたとき、小島に渡る橋の赤い欄干に一羽のカモメが止まっているのを見かけました。すぐそばを人が通っても逃げず、じっと遠くを見ている。仲間にはぐれたのか、それともそこに留まろうと決めたのか。人間だけでなく、鳥も同じようなつらい目に遭っていると気づいたところから、鳥の姿に託して表現しました。

下村さんにはスター性を、村松さんには悲哀の表現を期待。

──今回は下村さんと村松さんが出演されます

井上 下村さんには、以前も「家路」で踊っていただいたことがありました。なんといっても、彼女には華やかなスター性があります。今回の公演の話が出たとき、すぐに下村さんに出ていただこうと思いました。

村松さんには、老鳥の役をお願いしました。大駱駝艦の公演を拝見したことがあって、村松さんはシーソーに乗って立っているだけで、時折、何ともいえない微妙な表情をする。それが延々と続くのですが、なぜか気に入ってしまって、この人ならいいものを出してくれるかもしれないと感じました。老鳥の悲哀のようなものを表現していただけるのではないかと期待しています。
でも、実際に村松さんにお会いしたら、意外にお若くてびっくりしました(笑)。

下村 井上先生は、このようにいつもパワフルでエネルギッシュなんです。作品は何度も拝見していますが、とてもドラマチックで奥が深い。先生の作品を踊るダンサーは表現力を試されるのではないか、作者とダンサーが戦っているのかもしれないと感じていました。
ですから、前回のお話があったときは、うれしい反面、これまで先生が踊っていらっしゃったパートだということもあって、最初は悩んだのです。しかし、私も内面の表現を求められる年齢になってきたという自覚があり、先生から学ぶとてもいい機会を与えていただいたと考えてお引き受けしました。
それでとても素晴らしい経験をさせていただいたので、今回は二つ返事でお引き受けいたしました。

表現者の一人として戦いつつ、稽古には楽しく参加している。

──稽古の様子はいかがですか?

井上 村松さんとはいろいろなやり取りをしながら、新しい面を出していただいています。稽古をしていて、「ここで私が歩いたらどうですか」と提案されたことがありました。私は、「それをやると作品が壊れるから」といったん断ったのですが、今日の稽古を見ていて、「村松さん、やっぱり歩いてください」と。私たち二人の相性は、あまり良くないですね(笑)。

村松 いや、ぜんぜん大丈夫ですよ!

井上 でも、私はそういう人が好きなんです。私が苦手な人は、私が持っていないものを持っているから。

村松 僕は先生にけっこう丸め込まれていますね、いい意味で。

下村 リハーサルを重ねるたびに、作品に対する先生の思いを何度も聞かせていただいていると、震災から時間が経ち、社会環境も変わったため、先生が要求するものが前回とは少し違ってきたと感じるところがあります。それをいかに表現するか。作品のテーマと、それに対する先生の思いを踏まえて、表現者の一人としてどこまで上りつめることができるか。私はそこにトライしたいし、戦いたいと思っています。
先生はこのように姉御肌のタイプで、ダンサーたちも「先生についていきます!」みたいな心意気なので、一般的なクラシックバレエの稽古場とはちょっと雰囲気が違いますが、とても楽しく参加させていただいています。

現代舞踊の面白さ、そして生の舞台の魅力とは。

──生の舞台の魅力とは?

村松 現代舞踊の魅力とは何かとAIに尋ねると、ちゃんと答えてくれます。しかし、実際に踊っている僕がそれを読んでも、何を言っているのか分かりませんでした。
僕が考える現代舞踊は、踊るほうも観るほうも自由であって、決められたルールなんかないということ。だから、好きなように観ていただいていいし、観て分からないときもあるでしょう。そこでネットで調べて、書いてあるように自分の気持ちを修正するのではなく、観て感じたままでいてくださいとお願いしたいですね。生の舞台って、そういうことだと思います。

井上 生の舞台を観ると、よく分からないけど感動するときがありますよね。逆に、言いたいことは分かるんだけど感動しないときもある。それが生の舞台の面白さだと思います。

村松 大事なのは、われわれは生の舞台で踊っているけれど、それを観ている皆さんも生なんだということです。お互いに生身で同じ空間にいるのだから、カチッとした答えが出ないのは当たり前。何をどう感じたか、自分で決めていいんです。


下村 私たちダンサーは、命をかけて踊っています。いまこの舞台で、これを表現したい。それは、否定されるときもあります。観る人それぞれに、考え方や感じ方は違いますから。ですから、舞台に一人の人間がいて、作品を与えられ、それをどう表現しようと自由だし、お客様も自由です。そういう空間を、ぜひ生の舞台で感じていただきたいですね。

井上 演出をする場合、自分よりももっと踊れる人、もっと違う表現ができる人にお願いします。そうして、私が考えていることとその人の踊りとが一緒になって、より高いほうへと行けるか、いつも探しています。
言われたとおりのことができるのは当たり前であって、それ以上のもの、もしくは当初のねらいとは違うけれども心に響く表現を見せてくれると、私はそれを受け入れ、より高みを目指す。このお二人なら、そういうことを実現してくださると思っています。あらかじめ決まっていた方向ではないかもしれないけれど、それが現代舞踊であり、生の舞台の魅力ではないでしょうか。

現代舞踊が好きな方も、これまでご縁がなかった方も!

──お客様へメッセージをお願いします

村松 井上先生や下村さんの世界がお好きな方は、もちろん観に来ていただけると思いますが、これまでは現代舞踊に縁がなかった方や、現代舞踊ってよく分からないという方も、今回は私が参加して戦っておりますので(笑)、ぜひご来場ください。

下村 現代舞踊とは、何でしょう?

村松 井上恵美子だ!

井上 そうです!



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