演出家 佐次えりなさん・音楽 松延耕資さんにインタビュー

Utervision Company Japan2023新作「椅子」

人形、映像、そして音楽を使って表現する、「ノンジャンル」の作品世界を体感してほしい。

パペットを使った幻想的な舞台が人々を魅了しているUtervision Company Japan(ウータビジョン カンパニー ジャパン)。新作舞台「椅子」では不条理を具現化するという新たな試みに挑戦します。演出家の佐次えりなさん、音楽を担当する松延耕資さんにこの作品にかける想い、舞台表現の魅力について熱く語っていただきました。

佐次えりな(さじ えりな)

演出家、人形遣い、俳優。蜷川幸雄の舞台を中心に俳優活動を重ねた後、芸術集団「Utervision Company Japan」を設立し、日・仏・東南アジアを中心に海外で作品を発表。身体表現とパペットを組み合わせた独特の作風を確立する。2018年からは東京都北区文化芸術活動拠点「ココキタ・レジデンスアーティスト」として活動をスタートさせ、社会におけるシアターの存在価値を模索すると共に、作品創作だけでなく表現者の育成にも力を入れている。

松延耕資(まつのぶ こうすけ)

サキソフォン演奏者、作曲家、パフォーマー。蜷川幸雄演出/マイケル・ナイマン音楽「エレンディラ」、同演出/阿部海太郎音楽「から騒ぎ」「じゃじゃ馬ならし」、ウォーリー木下演出/トクマルシューゴ音楽「麦ふみクーツェ」など、舞台での演奏活動を主軸に、さまざまな録音・ライブにも参加。バンドでの活動はじめ自身の音楽活動も盛んに行なっている。

不条理というものを具体化させていく、それが今回の試み。

──演目をご紹介ください。

佐次 不条理演劇で有名な劇作家、イヨネスコの「椅子」という作品で、椅子がものすごくたくさん出てくる、簡単にいえばそういう作品です。今回は、不条理演劇というものを、とても具体的にやってみようと考えています。多分一番大きなポイントは人形だと思うんですが、人形操作と身体表現を混ぜながら、なおかつ、生演奏と映像を組み合わせて、駆使して作品を作っていくという、ノンジャンルの作品になっています。イヨネスコ戯曲はセリフとト書きの中に、リズムやテンポなどが全部書かれていて、それを忠実に具現化していくという面白さがありますね。そして、そこをしっかり通っていくと、歯車が回り出すんです。それが非常に面白いなと思っています。

松延 不条理文学と聞いて頭に浮かべるのは、カミュやサルトルですよね。イヨネスコはそういう人たちと比べるとマイナーですし、私も今回初めて読みました。いわゆる不条理演劇といいながら、人間はもともと合理的な存在じゃないというところからすごい冷静に作劇を始めるみたいな。そういう印象の作家だなと思っています。不条理感や変だなと感じる不自然さよりも、そこにイヨネスコが至ったプロセスまで読みこめたらいいなと思っています。

観客がパペットに自己投影をする、それぞれに違うことを感じられるんです。

──パペットを使った舞台の魅力とは?

佐次 パペットというのは何ですか?とよく聞かれるのですけれど、人形とパペットの違いというのは、動かして初めてパペットになるという点です。日本語だと「人形」で一緒なんですけれども、動かさないと「ドール」になってしまう。私が思っている人形を動かすことの面白さというのは、観客がこの人形の動きとか、人形を見て自己投影をしていくということ。それがすごく簡単に吸い込まれていくというか、観客一人一人が、同じパペットの動きを見たとしても、違う記憶や感情を想起させるところにすごく面白みがあるなと思っています。

リズムのある舞台。音楽でどう拾っていくか、葛藤しています。

──音楽づくりで意識していることは?

松延 舞台でも映像でも、音楽が「鳴っている」ということはシーンの意味を良くも悪く変えてしまいます。その取り扱いにはいつも気を付けてはいるんですが、とくにこの「椅子」は追いやすい物語が明確にあるわけではないんですね。登場人物の心理をお客さんに伝えたいというつもりで書いてないというイメージを感じています。そういうこともあって、舞台上で起きていることに寄り添おうとすると実は邪魔になってしまうのではとも感じていますね。例えば全然別のところに当てるための曲を、やはりこれはこっちで使おう、というように仮組みをいつもより緩めにしていきたいなと思っています。
佐次さんがおっしゃっていたようにト書きにもリズムが書いてあることももちろん影響しています。今回はそれを音楽でどう拾っていくべきかという葛藤がかなりありますね。声だけで聞いて面白いものはそれだけで成立させたほうが良いのではとも思っていて、役者さんを見ながら考える部分も多いですね。

いろいろな人とコミュニケーションをとりながら、新たな芸術を作りあげていく。

──Utervision Company Japanはどのような団体ですか。

佐次 2010年頃、自分自身が表現者として世界的にどんな位置にいるのだろうか、自分は一体何をしているだろうと、とても気になった時期がありました。それで、全く知らない人のいる場所で上演しようと、このカンパニーを作り、2011年にフランスのアヴィニヨンで劇を上演をしました。上演後、直接私のところに話に来てくれるお客さんがたくさんいて驚きました。海外では、観客との深いコミュニケーションがあったんですね。
その後、ASEAN諸国の人たちとも関わる機会を得て、海外で活動するなかで、パペットという表現ツールを持っていることは、すごく強みになりました。言語も国境も宗教も超えられると思い、いろいろな国でさまざまな人に会って、ゼロから芸術を制作するというワークショップもやってきました。
コロナ禍になり、今は活動のベースを日本においていますがその間も私は表現することをやめたくありませんでした。活動拠点の「ココキタ」という建物の窓から覗いて見られるように、巨大なパペットと光のパフォーマンスをやったり実験的な上演をしたり。新しい創作をしてみたい、知らない人といろんなことをシェアしたい。このカンパニーのメンバーみんなにもそういう気持ちがあります。

──パペットはどのくらいの時間をかけて作るのでしょうか?

佐次 ものによるんですが、日本でも昔から作られている文楽と一緒で、張り子紙をつけて作っていきます。人形の形自体は3週くらいでできますね。ただ、作れば終わりというわけではありません。カンパニーの中に人形遣いや俳優がたくさんいるわけではないので、作品ごとに必要な俳優さんを外から呼んでくるんですよ。そうすると、人形の操作の訓練から始めなきゃいけない。パペットも俳優が使いやすいように毎回カスタマイズをして作っていくんですね。そのため、一つも同じ人形はなくて、コントローラーの角度や重さをキャストの背丈などにより作り直したり、リハーサル中にも調整を重ねていきます。本番前日まで調整を重ねている状態が常です。人形を作っている間に八割方役作りが完成されると言われています。何が好みで、どんな生活をして、どんな宗教で、どんな時代に生きたか、というのを全部リサーチして。資料集めやデザイン決めにも時間がかかりますし、俳優が役作りをして合わせていくということですね。かなりの長期間にわたって人形をつくっているわけです。

自分自身の世界が広がっていく、それこそが劇場の存在価値。

──舞台、劇場の魅力とは?

佐次 必然なのか偶然なのか、劇場に居合わせた全く知らない人たちと作品を共有する、空間を共有するというのがまず一つの醍醐味です。舞台で起きていることをみんなで目撃をするということ自体が、ほかにはない体験、体感だなと思います。自分自身が物語の真っ只中にいるということを避けられない、舞台に没頭ができるということも、もう一つの醍醐味ですよね。劇場の存在価値は、多くの人と何かを共有する機会だったり、自分で日常を生きているだけでは知れないようなことが、そこで行われているということ。それを知ることによって、自分自身の世界がものすごく広がっていく。自分が思っているよりも世界は広くて深くて、いろんな事柄があるなと思います。

松延 今は携帯電話の画面でも映画を見れますし、劇場だけじゃなくて映画館にすら行かないという人は増えていると思います。携帯電話と映画館とで一つ大きく違うのは「ながら」で見られないということですよね。映画館では映画に集中するしかない。舞台でもこのことが言えますが、さらに生の舞台となると映画とも違ってきます。自分の見たいところが見られるんですよね。カメラが選んだものを見せられるのではなく、自分が見たいところを見ることができるんですね。そうすると、物語をただ体験させられてるんじゃなくて、自分で編むといった能動的な部分が出てくる。生の観劇はそこが一個、大きく違うなぁといつも考えています。

こんな体験したことがなかった、そう感じられる舞台にしたいと思っています。

──お客様へメッセージをお願いします

佐次 Utervision Company Japan 「椅子」。日本ではなかなか見られないノンジャンルの作品です。

松延 こんな体験初めてしたというお客様にたくさん出会えるよう頑張りたいと思います。ぜひお越しください。



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