東京バレエ団プリンシパル 上野水香さんにインタビュー

東京バレエ団特別公演 上野水香オン・ステージ

代表作と憧れの作品で彩る、全身全霊を込めた夢の舞台です。

昨年、令和3年度(第72回)芸術選奨 文部科学大臣賞を受賞した上野水香さんの受賞記念公演。「舞台を観て元気が出た」、そう言ってもらえる作品ばかりを集めたと上野さんは胸を張ります。『ボレロ』、『白鳥の湖』……日本が誇るトップバレリーナのバレエ人生の集大成です。

上野水香(うえの みずか)

東京バレエ団プリンシパル。5歳よりバレエを始める。1989年埼玉全国舞踊コンクール、ジュニアの部第1位。1993年、15歳でローザンヌ国際バレエコンクールにてスカラシップ賞を受賞した後、モナコのプリンセス・グレース・アカデミーに2年間留学。帰国後、古典全幕作品やローラン・プティ作品に主演。2004年、東京バレエ団に入団。令和3年度(第72回)芸術選奨 文部科学大臣賞を受賞。

バレエ人生に欠かせない作品と新たな挑戦、2つのプログラムで表現します。

Photo:Shoko Matsuhashi

──演目をご紹介ください

Aプロ・Bプロとありまして、私の出演する演目が違います。Aプロではヌレエフ版『シンデレラ』のパ・ド・ドゥ(2人の踊り)を、Bプロは、ローラン・プティさんの『シャブリエ・ダンス』と『チーク・トゥ・チーク』という2つの作品を踊ります。
ほかは両プログラム共通の『白鳥の湖』の第2幕をバレエ団の仲間たちと一緒に踊ります。それと『ボレロ』ですね。

──演目を選んだポイントは?

まず踊りたいと思ったのが『ボレロ』。東京バレエ団に入ってから、最初にいただいたレパートリーで、おそらく1番数多く踊っている演目です。
日本人女性として、この作品を踊ることを許されているのは私だけです。もうバレエ団に入ってから約20年間、踊り続けていますが、私の東京バレエ団のキャリアそのものといってもいいほどの演目です。『白鳥の湖』もそうですね。以前所属していたバレエ団ではじめて古典全幕作品の主役を踊ったのが『白鳥』でした。
また、こういう特別な公演ですから、新しい演目にも挑戦したいです。それが、Aプロのヌレエフ版『シンデレラ』。世界的バレリーナのシルヴィ・ギエムさんが踊っている映像を見て、憧れ続けてきた作品。
Bプロで作品を踊るローラン・プティさんは私のキャリアで欠かすことのできない振付家です。プティさんの作品を通して、私の中の感性が育ち、感覚的なことを養うことができました。プティさんの作品では水を得た魚のように踊ることができる、それも私にとって魅力的なこと。
私がやりたいと思った演目を集めたわけなのですが、「どうしてやりたいのか」を考えると、皆さんが「良い」と言ってくださるものだったんです。「良かったね、良い舞台だったね」とか、「観ることができて元気が出た」、「うれしかった」とか、そういうふうに言っていただく作品ばかりを集めました。

これまでお世話になった人への想いが詰まった舞台。

──これまでに出会った人への想いが詰まっているんですね

私を育ててくれた、見いだしてくれた方の多くがもう亡くなられています。牧阿佐美先生、ローラン・プティさん、東京バレエ団創設者の佐々木忠次さん、『ボレロ』をつくったモーリス・ベジャールさんといった方々ですね。昨年亡くなられたファッションデザイナーの森英恵さんはご一緒する機会が多く縁も深かった方です。実はバレエをやめようしていた時期があったのですが、そのときたまたま森先生と同じ舞台を観劇して、それが今回踊る『シンデレラ』なのです(笑)。憧れの『シンデレラ』をやりたかったけれど、私はもうバレエをやめるんだと悲しくなったし、その舞台には感動してしまうしで、大泣きしていたんです。そうしたら森先生が隣にいらして「どうしたの?」って声をかけてくださった。それでバレエをやめようと思っているとお伝えすると、「やめるって何? あなたはやめてはダメよ」と強く言ってくださった。それで私も心を動かされたし、少しずつ考えが変わって結局バレエを続けることができました。森先生はそのことをとても喜んでくださいましたね。
そんなふうに、私の人生を引っ張って、彩り、力をくださったすべての方たち……もう今はいらっしゃらない偉大な方々の魂も、きっと、今回の作品を通して舞台に集まってきてくださるような気がしています。そんな日になるといいなと今から思っているんですよ。

世界に羽ばたくバレエ団での20年間。

──東京バレエ団はどのような団体ですか?

佐々木忠次さんが創設したバレエ団で、国際的な活動を積極的に行っています。海外公演も800回近く行っているんです。もともと佐々木さんは海外の一流の芸術、バレエを日本の皆さんに見てもらおう、親しんでもらおうとされていました。また、日本のバレエ団を世界に通用するものに育てたいとも感じてらっしゃった。2つの目標を持って進んでいったんですね。
私は東京バレエ団に入って約20年。バレエ人生の半分をここで過ごしていることになります。本当に自分の一部みたいな場所ですね。うれしいこともたくさんあったけれど、それと同じくらいに悲しいこともありました。人生において「戦ってきた場所」と言えるかな。
東京バレエ団の仲間たちは、バレエに魂を削って、毎日毎日稽古をしています。
東京バレエ団では、本当に一流のものにたくさん出会ってきました。作品、ダンサー、アーティスト、みんな含めて。たくさんの学びがあり、たくさんの感謝があり、私の人生そのものです。

──昨年は芸術選奨文部科学大臣賞も受賞されました

夢にも思っていなかったのでうれしいというよりびっくりしました。賞をいただくということは存在を認めていただけたということだと思うので、すごく力になったし、時間が経つにつれだんだんとうれしい気持ちが大きくなりました。いろんな人に支えてもらって、いろんな人の力があって。このような賞をいただいて、まず感じるのは、感謝です。

非日常を楽しむ場所、純粋な気持ちで楽しんでください。

──初めてバレエを観るときのコツは?

バレエは敷居が高いと思われがちですけれども、一度足を運んでいただけたら楽しめること間違いありません。非日常が舞台の中で繰り広げられるので、ぜひ、あまり難しく考えずに、まっさらな気持ちで来ていただきたいですね。とくに『ボレロ』という作品は特別で、純粋に体験していただきたい。言葉に言い表すことができない素敵な世界なんですよ!

まるで夢の世界、舞台ゆえバレエゆえの素晴らしさがある。

Photo:Hidemi Seto

──舞台の魅力とは?

舞台は非日常の世界っていうものをお客様に差し出す、私たちが差し出してシェアしてもらうという形です。だから、日常を忘れ、まるで夢の世界に入っていくような感覚になると思っているんです。それで本当に素晴らしいものだった場合は、お客様が心の底から喜んで感動して、その喜びを拍手や歓声で演者に伝えてくれる。それでこちらもまたうれしくなる。ポジティブなエネルギーが劇場の中をめぐる、それが芸術の魅力だと思っているんです。
なかでもバレエは、言葉や声を一切使わないボディーの動きですよね。身体の動きと音楽でもって、作品のストーリーや精神性を伝える。とにかく人間の身体の可能性みたいなものを感じていただくことができます。また音楽がないと成り立たないものでもあります。振付で音楽そのものを視覚化する、観る音楽なんです。そういった楽しみ方もできるので、音楽をやってらっしゃる方がバレエをごらんになったらすごく面白いと思います。

これまでの集大成、エネルギーを感じられるステージです。

──お客様へメッセージをお願いします

東京バレエ団 特別公演『上野水香オン・ステージ』、私の大切なレパートリーをたくさん集めた公演になっています。全力で良い舞台にしたいと思っています。バレエ団の仲間たちと精一杯踊りますので、ぜひ、劇場で良いエネルギーを感じていただけるといいなと思っています。どうぞよろしくお願いします。



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