日本舞踊家 西川箕乃助さんにインタビュー

第64回日本舞踊協会公演

若手からベテランまで、流派を超えて集う大きな公演です。

各流派が一堂に会する日本舞踊協会公演は、日本舞踊の魅力を存分に味わうことができる貴重な公演です。日常とはかけ離れた世界で繰り広げられる、独特の動きや仕草の美しさ、日本文化ならではの繊細さをぜひご覧いただきたいと、西川箕乃助さんがお話しくださいました。

西川箕乃助(にしかわ みのすけ)

日本舞踊家、公益社団法人日本舞踊協会常任理事、日本大学藝術学部非常勤講師。西川流十世宗家西川扇藏(人間国宝)の長男として生まれる。紫綬褒章、日本芸術院賞、芸術選奨文部科学大臣賞ほか、受賞多数。日本舞踊の公演や指導だけではなく、NHK大河ドラマの所作指導や音楽ユニットとのコラボレーションなど、幅広く活躍中。

生きのいい舞踊家による元気いっぱいの群舞も。

長唄「七騎落」(第60回日本舞踊協会公演(2017年))

──日本舞踊協会公演とは?

日本舞踊協会公演は今年で64回目となりますが、この公演ならではの特徴といいますと、若手からベテランの舞踊家まで、そして一つの演目にいろいろな流派の舞踊家が出演するということがあります。また、「日本舞踊」ということばは江戸の「踊り」と上方の「舞い」、この「舞」と「踊」が合わさって明治初期に生まれた造語ですが、その江戸の踊りと上方の舞いの両方を楽しんでいただくことができます。

「一人立ち」といって、一人の舞踊家が一つの作品を踊ったり、あるいは日本舞踊では珍しい群舞もあります。日本舞踊は歌舞伎舞踊が元になっており、上方舞はお座敷舞からということで、いずれも大勢が舞台に出て踊ることがあまりない芸能でした。
それが昭和も後半になって、しだいに洋舞の影響を受けた結果、日本舞踊でも群舞ができないかという動きが盛んになり、いまではすっかり定着したという経緯があります。
今回の公演では、12人の男性が演じる「風林火山」や、12人の女性が演じる「鳥獣戯画」など、若手を中心に、生きのいい舞踊家による元気いっぱいの作品をご覧いただけると思います。

それぞれの舞いに仕所がある「乗合船恵方萬歳」。

──演目についてご紹介ください

公演は2日間で、いずれも夜の部の最後の切り(きり)は「乗合船恵方萬歳」という、これは歌舞伎舞踊の演目です。私はその2日目のほう、追い出しといって公演の最後の演目に出演いたします。

川岸で渡し船を待っているところに三河万歳の太夫と才蔵がやってきて、船が出るまでの間にみんなで踊り比べをすることになり、白酒売りや通人、町娘など、それぞれが「仕抜き」といって一人の踊りを一差しずつ舞います。最後に、一同が船に乗って幕切れという内容です。それぞれの舞いに観どころというか仕所(しどころ)のある楽しい作品になっています。

「乗合船恵方萬歳」は古典作品ですが、初演時に私ども西川流の五代目扇蔵が振り付けたということが正本に残っています。そんなご縁もあって、今回は私が担当させていただくことになりました。

日本舞踊は立方や地方などすべてが一体となった総合芸術。

──日本舞踊の生の舞台の観どころは?

日本舞踊などの舞台芸術は総合芸術とよくいわれます。日本舞踊の舞台は、立方(たちかた)といって立って動く舞踊家と、座って楽器を演奏する地方(じかた)の両方があって成立します。そのほかにも、照明や大道具、舞扇をはじめとした小道具など、すべてが一体となった芸能です。

幕が開いて最初に目につくのは、絵面(えめん)だと思います。そして音楽が鳴り始める。ふだんはあまりなじみのない三味線音楽で、しかもJ-POPや洋楽に比べると圧倒的にゆっくりとしたテンポです。

長唄「鏡獅子」(第56回日本舞踊協会公演(2013年))

しかし、もとはといえば江戸時代の日本人が親しんでいた音楽ですから、現代のわれわれもそういうものを感じる何かを持っていると思います。舞踊家の動き一つとっても、いまの日常からはまったく離れた世界なので、そのへんを感じ取っていただけると面白いのではないでしょうか。

制約があるなかで美しい所作、無理な体勢のようで美しい形。

──日本舞踊の美しさとは?

日本舞踊は和服を着て踊りますが、和服は洋服と違って動きが制約されます。制約がある中での動きの美しさも、ぜひ観ていただきたいですね。例えば女性だったら、基本的に手首から上はあまり見せないものとされています。普通に手を上げれば出てしまうので、それをいかに出さずに、しかも美しく見せるかという和服ならではの所作に、ちょっと目をとめていただければと思います。

日本舞踊ならではの動きや仕草の美しさというものもあります。私も、頭のてっぺんから指の先やつま先まで神経を集中させるよう、よく言われました。例えば片方の手で自分を指したとき、もう一方の手がおろそかにならないよう、全身に神経を行き届かせることが大事になってきます。

また、歌舞伎の場合は女性の役を男性が演じます。その難しさに比べて、日本舞踊で女性の役を女性が演じるのは容易かというと、実はこれも非常に難しい。「体を殺す」といって、足の向きとは逆のほうに体をグッとひねり、無理な体勢のように見えて実は美しい形を作ったりするのです。
日本文化独特の繊細さというのでしょうか。そういったところも観ていただけるとうれしいですね。

──あらかじめ演目の内容を調べていったほうがいいでしょうか?

作品の内容などを分かった上でご覧いただいてもけっこうですし、今回は日本舞踊協会副会長の古井戸秀夫・東京大学名誉教授による見どころ解説が幕間にありますので、鑑賞の手引きにしていただけると思います。

新進気鋭の若手から充実期の中堅、人間国宝のベテランまで。

──お客様へのメッセージをお願いします

第64回日本舞踊協会公演が国立劇場大劇場で開催されます。新進気鋭の若手や充実期の中堅、人間国宝に代表されるベテランまでが流派を超えて集う、大きな公演です。25歳以下のお客様を対象としたお求めやすいチケットの設定もありますので、ぜひご来場を賜りたく、お待ちしております。



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