オペラ歌手 佐田山千恵さんにインタビュー

藤原歌劇団公演 「トスカ」新制作

3幕それぞれに素晴らしい歌がある、ドラマチックなオペラ。

オペラの名作のひとつとして必ず名前が挙がる「トスカ」。そのタイトルロールを、藤原歌劇団の本公演に本格デビューとなる佐田山千恵さんが演じます。自身は気性の激しいトスカとは正反対の性格と穏やかに笑いつつ、思い立ったらすぐに行動に移すという佐田山さんに、お話をうかがいました。

佐田山千恵(さだやまちえ)

オペラ歌手。藤原歌劇団団員、とっとりふるさと大使。イタリア・ミラノへ留学し、ミラノ市立音楽学校オペラ科のディプロマを最高位で取得。その後、ロンドンで研鑽を積み、世界三大教育音楽祭のひとつ「PMF2010」で「ラ・ボエーム」のミミ役に抜擢されてオペラデビュー。国内外のオペラやソロリサイタル、コンサート、テレビ番組などに多数出演。特に、悲劇的ヒロイン役を得意とする天性の感情表現力と確かなテクニックで観客を魅了する。

「トスカ」は聞き応えのある名曲ばかり。

──「トスカ」はどのような作品ですか?

イタリアのプッチーニ作曲の、とてもドラマチックなオペラです。フランス革命からナポレオン戦争へと続いた混乱の時代のローマを舞台に、1800年の6月17日から翌日の明け方まで、わずか24時間足らずの間に起こる悲劇を描いています。

主な登場人物は、歌姫・トスカと、その恋人で画家のカヴァラドッシ、そしてローマの警視総監であるスカルピア。3幕構成で、それぞれに素晴らしいアリアやデュエットがあります。第1幕なら、カヴァラドッシがトスカを想って歌う「妙なる調和」というアリアや、トスカとカヴァラドッシによる「愛の二重唱」、そして第1幕の最後にスカルピアが自分の欲望を歌う「テ・デウム」。第2幕では、トスカが神に祈り、語りかける「歌に生き、愛に生き」。そして第3幕には、カヴァラドッシがトスカに別れの手紙を書きながら歌う「星は光りぬ」など、どれも聞き応えのある有名な曲ばかりです。

ドラマチックな歌声と表現力が求められる難しい役。

──そのトスカ役を初めて演じるお気持ちは?

トスカという女性は芯が強くて信仰心があり、気性が激しくて嫉妬深い性格として描かれています。しかし、その背景には何があるのだろうと、原作やいろいろな資料を読み込んでいったところ、彼女は孤児であり、家族の愛を知らずに育ったという設定であることが分かりました。歌姫として上り詰めるために必要だった芯の強さや、愛情を求める気持ちの裏側にある嫉妬深さは、こうした生い立ちによって影響されたのでしょう。

私はイタリアのスカラ座や、日本でも何度か「トスカ」を観ました。全3幕のうち、特に第2幕は非常に劇的なシーンが続きますが、そこでトスカが歌い、演じ、訴える姿が非常に衝撃的でした。何度観ても、本当に素敵な女性の役だと思います。

トスカは、ドラマチックな歌声と表現力が求められる難しい役の一つといわれています。しかし、あまり熱くなりすぎてもいけないので、熱いながらも頭では冷静に自分をコントロールして歌い演じることが必要ではないかと思っています。

ただ強いだけではない、気性が激しいだけでもない─トスカのキャラクターをしっかり見つめ、トスカが歌う歌詞の一つ一つを掘り下げて、ていねいに演じたいと思います。

舞台となったローマの教会や宮殿を、改めて訪れた。

──ご自分でトスカに似ているところはあると思いますか?

基本的に、私はトスカの激しい気性とは正反対だと思います(笑)。ただ、思い立ったらすぐ行動に移すという点は、重なる部分があるかもしれません。
実は、トスカの稽古に入る前に作品の舞台となった場所を見ておきたいという気持ちがつのって、一人でローマへ行ってきました。第1幕のサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会の椅子に座り、ここでトスカとカヴァラドッシが「愛の二重唱」を歌う場面に思いをはせたり。第2幕のファルネーゼ宮殿は、いまはフランス大使館になっていますが、そして第3幕のサンタンジェロ城も訪れました。いずれもイタリア留学中に行ったことがあったのですが、今回はトスカの目線になって見ている自分がいました。大変貴重な経験をした夏の旅行となりました。

気がついたらミラノの留学生活がスタート。

──オペラ歌手の道を選んだきっかけは?

小さい頃から歌や踊りの舞台が大好きで、録画したビデオテープがすり切れるほど何度も繰り返して見ていました。自分の中で「私はずっと歌を歌っていく」と決めていたのですが、この思い込みの激しさは、ちょっとトスカに共通する部分かもしれません。
周囲の方にクラシック音楽を勧められたことからオペラ歌手になりたいと思い、そうであればオペラが生まれたイタリアで基礎を学びたいと、知り合いが一人もいないミラノに渡って留学生活がスタート。勝手に体が動いたというか、気がついたらイタリアにいたという感じでした。その後、ロンドンでも声楽を学び、帰国しました。

その時、その場所でしか味わえない生の臨場感。

──改めて、オペラの魅力とは何でしょうか?

トスカが上演される東京文化会館大ホールは、客席が約2300で5階まである素晴らしい響きのホールですが、オペラ歌手は自分の体が楽器となって、マイクを使わずに生の歌声を一番奥の席までお届けします。さらに、東京フィルハーモニー交響楽団が奏でる生の音楽、舞台装置や照明、出演者のヘアやメイク、衣裳など、全てが一体となって感動を届けします。オペラは総合芸術といわれますが、その感動は舞台とお客様が一緒になって創り上げるものなので、その時、その場所でしか味わえない生の臨場感、ライブ感をぜひ楽しんでいただきたいと思います。

開演前には総監督による分かりやすい作品解説も。

──お客様へメッセージをお願いします

現代はSNS社会といわれ、スマートフォンで手軽に動画などが楽しめますが、劇場でオペラの生の舞台をご覧になれば、きっと何か感じて、ずっと記憶に残ると思います。
今回の公演では、開演の45分前から総監督による作品解説があります。どのような作品か、見どころ聞きどころはどこかなど分かりやすくお話ししますので、初めての方でもより深くお楽しみいただけると思います。25歳以下のお客様を対象とした、お求めやすいチケットの設定もあります。

「トスカ」の公演は、1月の28日と29日です。ぜひ劇場に足を運んでいただき、生のステージの臨場感をたっぷりと味わってください。お待ちしております。



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