民俗芸能大会実行委員会委員長 茂木 栄さんにインタビュー

第54回 東京都民俗芸能大会

民俗芸能の魅力は、地域に根ざした身体表現にあります。

都内で伝承されているさまざまな民俗芸能の魅力を紹介してきた東京都民俗芸能大会が、今回取り上げるのは、ユネスコの無形文化遺産に登録が決定した風流踊(ふりゅうおどり)。ふだんは見る機会が限られる踊りが一堂に会する、貴重な催しです。

茂木 栄(もぎ さかえ)

國學院大學名誉教授。民俗芸能大会実行委員会委員長

都内の多様な民俗芸能に発表の場を提供。

鳳凰の舞保存会
©金丸 歩

──東京都民俗芸能大会とは?

東京都民俗芸能大会は、都民芸術フェスティバルの一環として毎年都内の公共施設において開催されてきました。「広報東京都」などで参加者を募集し、無料で鑑賞できる機会を提供するもので、実行委員会、東京都、東京都教育委員会、公益財団法人東京都歴史文化財団の四者の共催で実施しています。

今年で54回目を迎えますが、毎年テーマを変えることによって、東京都に伝承されている多様な様式の民俗芸能の歴史的・文化的価値を、開かれた場所で分かりやすくご紹介しています。さらに、民俗芸能を継承する団体に活動を発表する場を提供することが、団体の活性化や団員の伝承の意欲向上の契機となっています。

華やかな衣裳を着けて群舞する風流踊。

浅草寺舞保存会白鷺の舞 執行委員会
写真提供:台東区

──今回のテーマである風流踊とは?

「風流」というのは、華やかで人目を引く趣向を凝らしたものをいいます。風流踊とは、華やかな衣装や仮装を身に着け、飾り物に趣向を凝らし、歌や囃し物(笛、太鼓、鉦)の伴奏に合わせて群舞する、中世から続く民俗芸能です。

風流踊には除疫・除災、豊作祈願、雨乞い、平和で安心な暮らしを願う地域の人々の想いが込められています。祭礼や年中行事に際して、地域に暮らす人々すべてが世代を超えて参加できるのが特徴です。それぞれの地域の歴史・文化・風土を反映し、多彩な姿で今日まで続く風流踊りは、江戸・東京にも伝承されております。今回は、風流の民俗芸能に集っていただきました。

ユネスコ無形文化遺産登録で、喜びの声が。

花畑大鷲神社獅子舞保存会

──風流踊がユネスコ無形文化遺産に登録されました

2022年11月30日夜に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に申請していた民俗芸能「風流踊」の登録が決定したとのテレビ報道があり、「全国各地の関係者・関係団体の人々から喜びの声が湧きました」と伝えられました。

新聞報道などでは、各地で関係者の喜びの声が集められていました。地域の活力の源として大きな役割を果たしているとする一方で、今後の伝承に不安の声も出ていました。

秋田西馬音内盆踊り

「無形文化遺産保護条約」は2003年に採択され、日本は世界で3番目に批准しました。無形文化財についての理解と保護に関して、日本は世界に先駆けていたといえるでしょう。この条約の目的は、「無形文化遺産の保護」「無形文化遺産の重要性及び相互評価の重要性に関する意識の向上等」と定められています*。

日本からの申請は、毎年認められるわけではなく、近年では2年に一度の割合で登録が認められています。国の重要無形民俗文化財に指定されている祭や民俗行事はたくさんありますが、これらを個別に登録申請していたのでは、人類の宝として無形文化遺産一覧表に登載されるまで気の遠くなるような時間が必要になるでしょう。そこで、同タイプのものをグループとして申請する方式を編み出しました。

二子流東京鬼剣舞

こうして、2016年の「山・鉾・屋台行事」33件、2018年の「来訪神・仮面・仮装の神々」10件、そして今回の「風流踊」24都道府県41件という多くの貴重な芸能の登録がなされたのです。

* 文化庁「『風流踊』ユネスコ無形文化遺産への提案について」参考資料2より

降り止まなくなった雨を止める珍しい舞も。

──今年の演目は?

厳正寺水止舞保存協力会

今回は、ユネスコの無形文化遺産に登録された風流踊の中から、東京の西多摩郡日の出町「下平井の鳳凰の舞」と、同郡奥多摩町「小河内の鹿島踊」を披露していただくことになりました。また、東京で継承する日本各地の芸能の枠で、岩手県北上市の「鬼剣舞」(二子流東京鬼剣舞)と、秋田県羽後町の「西馬音内(にしもない)盆踊り」(秋田西馬音内盆踊り首都圏踊り子会)も、ユネスコ無形文化遺産に今回登録された民俗芸能です。

珍しいところでは、雨乞いの習俗・芸能が多くあった江戸・東京にあって、大田区厳正寺に伝承されている「水止舞」。雨乞いの祈祷が効きすぎて、降りやまなくなった雨を止めるために舞ったのが起源と伝えられる獅子舞です。

2月5日の演目では、風流踊の趣向を凝らした仮装に注目していただきたいのが浅草寺の「白鷺の舞」です。江戸時代初期の浅草寺の祭礼絵巻に鷺舞の姿が描かれており、京都祇園祭や津和野弥栄神社の祇園祭の鷺舞を参考に復活したものといわれ、疫病を鎮めるための舞とされています。

桜風エイサー琉球風車

足立区の花畑大鷲(はなはたおおとり)神社獅子舞は、いわゆる三匹獅子舞で、悪疫退散、五穀豊穣、雨乞いの祈願のために舞われます。獅子の頭や衣装、腹に付けた鼓、花笠に注目してください。典型的な関東の三匹獅子舞の形です。

また、大学や高校のクラブ活動などで若い人たちが演じる民俗芸能枠を設けました。今回は、沖縄の風流踊ともいうべきエイサーを学ぶ桜美林大学のサークル「桜風エイサー琉球風車」をお呼びしました。もともとは旧盆の夜に集落内を太鼓を打ち踊りながら練り歩く、にぎやかな芸能です。

世代を超えて伝えられてきた、安寧な暮らしへの願い。

──民俗芸能の魅力は?

小河内鹿島踊保存会

民俗芸能の本来の魅力は、伝承している地域の歴史や風土に根差した、地域の人たちの身体表現にあります。芸術という面から見れば舞台芸術には及びませんが、そこに歴史と地域性と神聖性(鎮守様への奉納芸能)という観点が加われば、地域に暮らす人々の世代を超えて伝えられてきた安寧な暮らしへの願いを感じとることができます。民俗芸能にあまりなじみがない方でも、舞や踊りの所作が何を伝えようとしているのかと、想像力を働かせてみてください。初めは退屈に見えるかもしれませんが、気がつけば面白くなって、ついにはとりこになるでしょう。

風流踊の価値と面白さをお確かめください。

──お客様へのメッセージをお願いします

世界的な大都市・東京にも、未だに江戸時代から続く、いやそれ以前から続く民俗芸能が伝承されています。今回は、風流踊がユネスコの無形文化遺産登録が決定したのを記念して、東京で伝承・継承されている風流踊をテーマに取り上げました。

「世界的に認められた」との伝承者たちの喜びの声が聞かれます。ユネスコ無形文化遺産登録された風流踊が一体どのようなものなのか、その価値と面白さをご自身の目で確かめてみてください。入場は無料ですので、お気軽においでください。


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